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本気で巨大メディアを変えようとした男

2009-06-30 / Books
きわもの的なタイトルで損をしているが、内容は島桂次会長時代を中心に、戦後の放送史の一面を内側から書いたもの。著者は島の側近だったので、やや好意的なバイアスもあるが、島を通してNHKの組織としての欠陥と戦略の誤りを的確に指摘している。

島は超大物の派閥記者で、大平政権や鈴木政権では閣僚名簿をつくり、局長のころからNHKの会長人事を決める実力があった。私も現役時代に話を聞いたことがあるが、一見めちゃくちゃのようで、実は先見性があった。当時の経営委員長だった磯田一郎（住友銀行頭取）が、「NHKの経営陣の中で民間企業も経営できる能力のあるのは島さんだけだ」と評価していた。

ある意味では、島のような人物が絶大な力をもったことが、NHKの欠陥をよく示している。戦後初のNHK会長は民間人からなる「放送委員会」によって選ばれたが、その後は実質的に首相官邸と郵政省によって選ばれるpolitical appointeeになった。これがNHKの最大のアキレス腱となり、自民党からの圧力をつねに受け、国策に振り回されて独自の経営戦略をとれない原因となった。このため島のように自民党を「押える」力をもつ人物が大きな力をもったのだ。

彼が報道局長から会長になった10年あまりは、私が勤務していた時期とほとんど重なるので『電波利権』にも書いたが、当時のNHKは今からは想像もつかない活気に満ちていた。記者とディレクター(PD)の職種の境界をとっぱらって「NC9」がスタートし、報道と制作の合同プロジェクトで「NHK特集」をスタートしたのも島だった。現在のNHKの経営の柱になっているBS独自放送を始めたのも、彼の功績だ。

島は「メディアがグローバル化する中で、受信料制度では自由なビジネスができない」として、磯田と組んでMICOという「メディア商社」をつくり、米ABCなどと連携して世界を結ぶ24時間ニュース・ネットワーク「GNN」を設立すると発表した。最終的には、MICOがNHKグループの中心となり、島はMICOの社長になってルパート・マードックの向こうを張り、世界のメディア王になることをめざしていた。ただ腹心の海老沢勝二に寝首を掻かれ、こうした構想は幻に終わった。

島の構想が多分にバブル的だったことは否定できないが、「映像ビジネスが地上波だけに閉じこもっていては未来はない」という彼の大局観が正しかったことは、いま証明されつつある。彼は会長時代から「衛星で100％カバーできるのだから地上波はいらない」といっており、失脚してからはGNN構想をインターネットで実現しようと「島メディア・ネットワーク」というニュースメディアを設立した。あそこで彼が失脚しなければNHKは地デジではなく、BBCのiPlayerのようなIP映像ネットワークを90年代に構築していたかもしれない。

その後の（実質的な）海老沢時代は、NHKの「失われた17年」というしかない。その後も不祥事の後始末に追われ、マルチメディア局も解体されてネット戦略を立案する部隊もなくなった。その内情は、あの貧弱な「NHKオンデマンド」を見ればわかる。先週も元同僚が「ビール会社の社長が経営トップでは何もできない。経営陣がもう少しメディアのわかる人に代わるまで冬眠だよ」といっていた。冬眠している間に凍死しなければいいが・・・
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コメント
 
 
 
ＪＡＰＡＮデビュー第一回 (吉岡)
2009-06-30 10:54:22
私はＮＨＫが受信料と称して税金まがいにカネを巻き上げることに常々疑問をもっています。財産権は税金を除いて侵害されないというのが憲法の趣旨と思っています。また、そういう安易なシステムの上にＮＨＫの人々が安住することが、ＮＨＫを弱めていると思ってます。

ところで、先生はＪＡＰＡＮデビュー第一回の台湾についての放送が８４００人から集団提訴されたことをご存知でしょうか。公開質問状のやりとりがあった末のことですが、ＮＨＫは独善的な態度のままです。
 
 
 
巨大メディアの実態 (tanakac)
2009-06-30 11:10:09
この本読みましたは面白かったです。ＮＨＫにとって島氏は功労者ですね。それに比べると海老沢とか今の会長はひどいですね。民放も似ていると思いました。読売の正力氏とかフジの鹿内氏とかがいなくなってからはもう実質「死に体」です。ただ社員の生涯賃金は5億円ですし組合員の平均年収も1千万円超えています。
会社自体は減収でも組合が非常に強いので社員の高待遇はまもられるのでしょう。そのしわ寄せはわれわれ愚民に向けられます。番組の捏造やヤラセはいうに及ばず、徹底したポピュリズム報道と芸能人をフル活用したマインドコントロールで荒稼ぎするのでしょう。
パチンコだろうがヤクザだろうがスポンサーは金さえ出してくれればＯＫ、という感じでしょうか。ホリエモンとのバトルに勝利したフジテレビ社長の日枝久が元労働組合の書記長というのを知って、最も右寄りのフジでさえこうなのだからあとは推して知るべし、ナベツネも元共産党員だったらしいですし、仮に日本が旧ソビエト社会主義路線へ舵を切っても、現代のカオナシたちの特権意識は旧ソビエトの共産党幹部職員にそっくりですし、今の巨大メディアとは新和性があるのかもしれませんね。


それとも今だったら北朝鮮の労働党幹部でしょうか。
最近はテレビに出てくる若い女子アナウンサーや関口宏が○○クンと呼ぶ女性スタッフが北朝鮮の美女軍団とダブって見えます。
 
 
 
訂正します (tanakac)
2009-06-30 11:46:47
>生涯賃金5億円→生涯賃金6億円
ハイヤー代とか含めるともっといくでしょう…
 
 
 
たしかに (松本孝行)
2009-06-30 12:06:06
そういえば思い起こしてみると、NHKへのバッシングは近年かなり大きくなってきましたが、私が子供の頃はそういう話をほとんど聞きませんでした。NHK以外を見ると頭が悪くなると言われていたようにも記憶しています。

それだけ近年の経営陣は失敗を繰り返したということでしょうか。経済状況が悪かったことも影響しているのでしょうが、メディアの方向性もおかしくなっていたということなんでしょうか…
 
 
 
楯の機能 (kakusei　��)
2009-06-30 12:12:53
組織が、活性化しクリエイティブになる必要条件に、トップが楯になって、不要な圧力を吸収して部下には感じさせなくしてくれることがあると思います。そのためには、楯になりうる資質と気概が必要なのでしょうが、中々難しい条件で、そう言う人物が見つからないのがいまの時代だと思います。

海老沢氏は、多分圧力に取り入り、ザルのような楯でしたでしょうから、圧力や矢は素通しで部下に降り注いだのでしょうね。以前のエントリーで触れておられましたが、「ジャパンデビュー」も酷いものですよ。見る気もしない。
 
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