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PJ: 和田 牧夫

新型インフルエンザ-国内感染者は5000人以上?
2009年06月27日 14:51 JST

【PJニュース 2009年6月27日】25日、国内で新型インフルエンザ感染が確認された人が1000人を超えたと報告された。これがもし氷山の一角だとすれば感染者数はすでに5000人を超えているかもしれない。というのも実は調査らしい調査はほとんど行われていないのが実情だからだ。

今までは場当たり的に「感染が疑われた人に対して検査をする」というやり方で、累積の感染確定者数を発表してきた。これはいわゆる社会全体を見わたすような総括的な調査ではない。日本全国にはインフルエンザの定点医療機関に指定されている診療所が約5000カ所あり、世界保健機関(WHO)が新型インフルエンザ宣言をした4月28日の翌週(今年の第19週:5月4日から10日)の1週間だけ見ても全国の定点観測から7963人(東京都内で175人)ものインフルエンザ感染者が報告されている。しかしこの約8000人のうち、どのくらいが新型なのかについては調べられていない(ちなみに4月下旬にはもう神戸に新型インフルエンザが入っていた可能性が高いといわれている)。

マニュアルでは「インフルエンザ定点」の約10分の1の施設がさらに「病原体定点」といわれるものに指定されていて、検体を詳しい検査にまわすことになっている。ならば単純計算でも800ぐらいは検査に集められていることになる。東京都ではこの週(第19週)から新型を含むインフルエンザ亜型解析を行った結果を公表しているが、175人のインフルエンザ報告例のうち、実際に詳しい検査を行ったのは21検体のみで、このうちインフルエンザが確認されたのは5例のみ、AH3(香港型)2例、B型が3例でAH1(ソ連型)とswH1(新型)はなしという結果であった。日本全国の7963人中の800ぐらいは検査ができたはずだが、このうち何例が新型インフルエンザ検査にまわされたかは結果も含めて公表されていない。

この状況は最近になっても変わっておらず、東京都で詳しい検査をしたのはその後も週に20検体位ずつで、新型は1例も見つかっていない。全国のデータは闇の中だ(ただし、唯一沖縄では第21週に全医療機関でのデータを解析して発表している)。
東京都インフルエンザ情報
A型インフルエンザ全数把握調査―沖縄県

医療行政の先進国である米国の同時期の事情はどうであろうか。米国にはインフルエンザを監視する5つのカテゴリーのサーベイランス機構が機能していて、このうちの「USヴィロロジック・サーベイランス(USVS)」と呼ばれるものは全米50州を網羅する大規模な監視システムだ。インフルエンザ様症状(ILI)を示した患者の検査結果が米国疾病対策予防センター(CDC)に集められて週ごとにまとめられて報告される。

実はこのUSVSで新型インフルエンザの検査が始まったのは第17週目(4月26日から5月2日)の途中からで、その1週間だけで10000検体以上の詳しい亜型解析をこなしている。日本との比較のため2週間後の第19週目の結果を例に挙げると、ILI症状を示した症例のうち7127検体の解析を行って1074例(15%)がインフルエンザ陽性で、このうちの742例(72%)が新型インフルエンザであることが確認された。最近では6月の第2週(第24週目)で7149例中インフルエンザが2765例(39%)、新型は2263例(99.8% )という結果だった。米国内でも新型の実数は週ごとにまだ増え続けているのである。
米国疾病対策予防センター - インフルエンザ (Flu)

このように全米では毎週約7000例のインフルエンザが疑われる症例の解析を行っているのに、日本では東京で約20例(全国不明)というお粗末な状況なのである。そして日本のインフルエンザ監視システムからは1例も新型インフルエンザを見つけ出すことができていない。日本における新型インフルエンザのPCR検査ははじめ国立感染症研究所でしかできなかったものが、1-2週のうちに全国の地方衛生研究所の多くの施設で検査可能にまでこぎ着けたのは米国と比べて勝るとも劣らぬぐらい迅速だった。当初神戸の研究所では24時間PCRマシーンをフル稼働させて対応したという。現場の職員の涙ぐましい努力に支えられたといえるのだが、この頃は学校の集団発生での全数把握におおわらわであった。しかし、あれから1週間、2週間と時が過ぎ、そして1カ月が経っても定点観測のデータは増えてこない。ここが米国と大きく違う所なのだ。

原因は明らかで、いつまでも空港での防疫やまん延国からの帰国者で感染が疑われるものと、集団発生での感染者全数把握にこだわってそちらにエネルギーを注ぎ続けたからだ。そして何よりも現場に注ぎ込まれたヒト、モノ、カネが圧倒的に少ないことが最大の原因だ。検査のためのスタッフ、検査のための機械・スペース、そしてそれらを得るための資金。なぜ米国で可能なことが日本でできないのだろうか。現場のスタッフは限られた資源を使って最大限の努力をした。要は上に立ち指導している厚生労働省、そういうことに頭が回らない、あるいは深く考えたこともない政府指導者がいるからだろう。日本は間違いなく医療先進国であるのだが、残念ながら医療行政は後進国と(敢えて)言わざるを得ない。

WHOの報告によれば米国内の新型感染者数が1000人を超えたのは5月9日(日本国内で初めて新型インフルエンザが確認された日)のことで、その10日後の5月19日に5000人を超えた。さらにその2週間後の6月3日には10000人を超え、6月22日には20000人を超えた。これを単純に日本に置き換えてみると夏の真っ盛りの時期に数万人に達することになる。しかし、このころまでに1週間あたり7000検体規模の検査ができるような体制が日本で確立される見通しはゼロに等しい。したがって今後感染者数が増え続けると否とにかかわらず、日本でこのような感染者数が報告されることはない。

毎年の季節性インフルエンザでは全国約5000のインフルエンザ定点医療機関(小児科3000、内科2000)から約100万人前後の報告があり、全国では約1000万人以上の罹患(りかん)者がいると推定されている。厚労省は新型インフルエンザの予想感染率は人口の25%と試算しており、最大で2500万人が罹患すると概算予測している。

このような状況(顕性流行)と比べれば、現在の世界各国の状況はパンデミックとはいっても、まだまだシーズン中の状態にはほど遠い(くすぶり流行)。秋から冬にかけての来るべき本格的な大流行に備え、そして未知の強毒性鳥インフルエンザの発生に備えて、今こそ米国並みのサーベイランス検査態勢を確立することが急務だ。それが実現できるかどうかは政府がすぐにでも十分な予算を投入するかどうかにかかっている。【了】

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