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特集:大梅田シンポジウム 関西再生の起爆剤に、「変わる大阪」世界へ(その1)

 JR大阪駅北側の「北ヤード(大阪駅北地区)」開発と、北ヤードを中核にした「大梅田地区」一帯の都市再生をめぐる「大梅田シンポジウム」が5日、大阪市中央区のNHK大阪ホールで開かれた。聴講者約1300人を前に、大阪市、関西経済連合会、阪急阪神ホールディングス、JR西日本の首脳らがそれぞれ、北ヤードと大梅田の可能性に向けて熱く議論した。「地盤沈下」が取りざたされてきた大阪再生の起爆剤としての期待▽環境重視型グランドデザインの重要性の確認▽「変わる大阪」を全国、さらに世界に情報発信することに向けた合意--など、域外にも通じる志とアイデアに満ちた「闘論」となった。【編集委員・高田茂弘、写真・宮間俊樹】

 ◆パネル討議

 ◇回遊性高い都市目指し

 --まず「北ヤード」=メモ参照=について議論したい。一帯では回遊性の確保が課題になっている。

 平松 私が子どものころの大阪駅周辺はごちゃごちゃして、分かりにくいところもあった。大梅田=同=の開発が進むなか、日本にここしかない、回遊性の高いにぎわいのエリアにしたい。特に北ヤードで計画中の駅前広場は、車を入れない約1ヘクタールの歩行者空間。大梅田の「回遊のシンボル」になると期待している。

 --下妻さんは北ヤードに強い思い入れを持っておられる。

 下妻 関西は少子高齢化のピッチが早い。内需拡大は見込めず、食料問題などを考えると、アジアの市場にもっと目を向けるべきだ。アジアの人々に関西に来てもらうためにも北ヤードを生かしたい。JRさんや阪急さんが一帯の完成図を示されたが、同時に、ソフト面の努力が不可欠だ。関西には関西文化学術研究都市など、優れた実績を上げる研究機関があるのに、うまくそれを世界に発信できていない。北ヤードを「情報発信拠点」「知の結節点」にすることの重要性はそこにある。そのためにもナレッジ・キャピタルを成功させたい。

 --回遊性と共に、拠点性の強化が欠かせない。

 近藤 大阪駅は大阪の玄関口だが、線路が南北を分断する一面があり、それを解消すべくいろいろな形で街に溶け込む努力を重ねてきた。今回の駅開発でも回遊性の強化を図っている。駅前に24ヘクタールという広大な土地が出現し、しかも使い勝手のいい形状。大阪駅に視点を置けば、260度の視界が360度に広がった。支線の地下化計画もあり、これで北ヤードの開発が周囲に「にじみ出て」いく。これらと大阪駅の歩行者の動線整備が相まって、一帯は周辺とつながる回遊性の高い街となる。新地下駅計画では関西国際空港に直結し、この地区の拠点性が一段と高まる。

 角 建物よりソフトという、皆さんの発想に同感だ。建て替え中の阪急百貨店も、いかに情報発信の場を多くするか、快適な空間とするかに意を尽くしている。域外の人が大阪に抱くネガティブなイメージをどう払拭(ふっしょく)するかも、北ヤード開発を機に考えていいかもしれない。また、阪急電鉄の駅では月1700円のレンタル料で自転車を貸し出している。自転車をもっと使ってもらうためだ。自分の自転車を預ける駐輪代は月2000~2500円。環境先進都市を目指す取り組みと理解していただきたい。

 下妻 もう1点。北ヤードにアジア太平洋研究所を設立し、ナレッジ・キャピタルの目玉にしたい。留学生などの人材交流の場として世界に誇れる形にする。寺島実郎さん(日本総合研究所会長)の構想だが、アラブ研究の総本山になっているパリの「アラブ世界研究所」のように、東南アジアのことならここへ、となるような「情報の磁場」になればと期待している。

 平松 アジア太平洋研は北ヤードの核になる。大阪にしかない「知の拠点」をつくり上げ、「第2の東京」を目指すのではなく、関西の文化や歴史を集約した、他にないものを作りたいと考えている。

 ◇「民間力」の導入が課題に

 --「大梅田」構想に移る。北ヤードは大梅田につながる連鎖的な開発の千載一遇のチャンス。しかし、大梅田は広大なうえ、民間主体の都市経営となり、全体的な構想もないのが実情だ。総力を挙げて街の価値、ブランド力をどう高めていくかが課題だ。

 平松 行政には計画に介入して失敗した例が山ほどある。大梅田は広大で、民間の知恵、力をいかに導入するか。一方で、行政が旗を振る部分は、市民への情報発信と、知的創造拠点を形成するための環境づくりだ。

 下妻 エリアは広いが、難しく考えることはない。大阪市が旗を振るのは重要だ。関経連もお手伝いしたい。大梅田は地権者が多岐にわたる。七つほどの再開発の組織体もある。市が旗を振るのなら、個々に声掛けし、どんな街をつくるのか考えていく必要がある。まとまっていくのなら、世界的にも特異な街ができる。

 角 村橋先生から昭和50年代には鉄道、空港、道路、街づくりを一体的に議論する場があったと聞いた。道州制などに絡めれば、大梅田構想は非常にいいテーマだ。一方、JR大阪駅南側の新阪急ビル、阪神百貨店、駅前再開発ビル4棟を持つダイヤモンド地区の再整備抜きに構想の推進はない。JR大阪駅を軸にした、広大な回遊性が不可欠だ。

 近藤 97年開通のJR東西線は81年の認可、昨年南半分が開通したおおさか東線も認可は同じ年。つまり、JRの新線は開通まで20~30年はかかる。インフラ整備にはそれだけ長い時間を要する。大梅田は大きな風呂敷だが、それを広げていかねばならない。

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 ◆キーノートスピーチ

 ◇北ヤードを知的創造拠点に--平松邦夫・大阪市長

 大阪市は今年3月、北ヤードなどを対象に含めた「元気な大阪をめざす政策推進ビジョン」を策定した。人材や産業、学術・文化などの面で大阪は優れた資源に事欠かない。これらを最大限活用し、市民との協働を基本にしながら、誰もが住みたいと憧(あこが)れる街、大阪を目指すものだ。

 大切なのは、地域ごとの特色と大阪の魅力を兼ね備えた都市づくりを進めることだ。中之島地区や御堂筋に連なった風格あるエリアづくりや大阪城、中之島から大阪湾に至る東西軸の形成は重要。この中で、北ヤードは「元気な大阪」の基礎となるビジネス、文化を創出する拠点と位置づけた。

 大阪の製造業は、経済のグローバル化の中で競争力が低下してきた。昨秋からの不況で事態は一段と悪化。緊急経済対策も大切だが、この危機を時代の転換期ととらえ、産業構造を情報通信、環境、医療など、知識集約型に転換することが求められている。

 そこで、「科学技術で世界に伸びる大阪の実現」を目標に科学技術振興指針を策定した。北ヤードを産学官連携による新しい産業や価値を生み出す知的ネットワークの拠点とし、「元気UP大阪」につなげる。

 2004年に北ヤードの基本計画を策定し、約250万人が行き交うターミナルの特性を生かして「知的創造拠点」(ナレッジ・キャピタル)を創(つく)る方向を示した。

 1期(先行開発区域)は12年度下期の街びらきを目指し、延べ床面積約50万平方メートルの建物のうち、約8万平方メートルをナレッジ・キャピタルとし、アートやデザインを駆使したエンターテインメント空間や産業創出拠点「ロボシティコア」など、企業、大学、研究機関などが幅広く集積する。

 2期については、地球規模の環境問題に取り組む「グリーン・アース」と、緑やオープンスペースの積極導入など、働きやすく、居心地のよい都市空間を実現する「アンビエント・ライフスタイル」をキーワードに、先導的な都市型環境拠点の形成を目指す。そのため、環境をテーマとしたナレッジ・キャピタルを実現していく。

 道路などの基盤については、UR都市機構とも協力して進めていく。JR東海道支線の地下化も動き出し、将来の街のイメージも徐々に実感できる段階にきた。北ヤードを含む大梅田地区では、多彩なプロジェクトが展開中だ。その連携や相乗効果で、関西のみならず、日本全体の経済、都市再生を牽引できると思う。

 ◇駅から街へ、街から駅へ--近藤〓士・JR西日本取締役兼専務執行役員

 大阪駅は今回の改築計画で5代目となる。時代の変化を受け止め、街の成熟に合わせて生まれ変わってきた。初代は1874年の大阪-神戸間の開通時、現在地より西寄りの西梅田に建設。2代目以降は現在地で新築・増改築が行われた。大阪駅はJRだけでも1日に約85万人が利用する、日本有数のターミナル駅に成長した。

 今回の計画は駅改良に加え、北口で新北ビルを建設し、南口でアクティ大阪を増築する。駅から街、街から駅への移動がスムーズかつバリアフリーになるよう計画した。歩行者動線を充実させ、要所には広場を設けている。特に北と南の街をつなぐ部分は3階層で太い動線を整備する。

 新北ビルの第一の特徴は南北のビルをつなぎ、線路を大きくまたぐ形で巨大な全天候型ドームが覆うことだ。また、回遊性を確保するため、双方向への通行が容易な空中デッキで南北をつなぐ。さらに、エントランスには幅40メートル、奥行き30メートル、高さ35メートルの巨大な吹き抜け空間を設けるなど、「JR大阪三越伊勢丹」が入居する新北ビルは、開放感いっぱいの構造となる。

 このほか、新北ビルでは南北を覆うドームに降ってくる雨を集水し、「中水」としての利用やミニ水力発電など、環境配慮型の自然エネルギー・省エネシステムも導入する。

 一方、南口にある現在のアクティ大阪は、南側を向いたビルの「表情」が平板・単調なので、新北ビルの完成に合わせ、南に張り出したかたちの増築を施して表情を「明るく」する予定だ。

 新北ビルが完成する2011年には九州新幹線が全通する。新大阪から熊本まで約3時間20分、鹿児島まで約4時間で結ばれる予定で、西日本の広域鉄道ネットワークが一段の充実をみる時期と重なり、一層の広域集客が可能となるわけだ。

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 ■人物略歴

 ◇ひらまつ・くにお

 1948年生まれ。同志社大法卒、毎日放送入社。「MBSナウ」キャスター、北米支局長などを経て退社。07年11月の大阪市長選で初当選した。

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 ■人物略歴

 ◇こんどう・たかし

 1950年生まれ。京大大学院工学研究科修士課程を修了し、旧国鉄入社。JR西日本施設部長などを経て2005年、取締役。07年から現職。

毎日新聞 2009年6月29日 東京朝刊

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