<右面からつづく>
近藤 ただ、実務の面では、まず大梅田のエリア内で小さな風呂敷をいくつも広げ、積み上げていくのがいい。また、エリア内の交通は徒歩が主体になるべきだ。パークアンドライドなどの積極的な導入も重要。都心の車を減らすための、交通を総合的に検討する場がほしい。
平松 交通問題もそうだが、今後の街づくりは環境だ。北ヤード1期では50%が公共空間。2期も同様で、環境に関する知的創造拠点をつくり、内外の研究機関を集めたい。東京の「大丸有」再開発=メモ参照=とはひと味違った、居心地のいい街を目指したい。
下妻 北ヤードの2期は今後の構想次第。大梅田構想もそうだ。この場合、市が前に出ることがやはり必要となる。広告規制や景観は市次第でスマートにもなれば、いびつにもなる。市が条例でうまく誘導していくべきだろう。日本には大梅田ほどのスケールの場は他にないのだから。
近藤 大梅田構想では戦略的な拠点として国や国際機関、道州政府など中枢性の高い機能がほしい。国にも資金を投入してもらいたいものだ。同時に街づくりには柔らかさ、居心地の良さ、人間くささなどの要素も必要。オープンカフェなり、居酒屋なり、屋台なり。計画され過ぎた街だと後からが大変だ。
下妻 大梅田に関連して、阪神高速・淀川左岸線延伸計画は早く緒につけたい。課題は多いが、市が先導することで目に見えて変わることがある。
平松 重要性は分かっているので、事業スキームや事業主体を明確にしていただきたい。その機運は高まっている。関係者が合意できるよう、下妻会長を先頭に国に働きかけようという動きも出てきており、期待している。
◆質疑応答
--会場の大阪市内・50代男性からの問題提起。「開発の重要性は分かる。どうやって利害の違いを乗り越えていくか、だ」と。
角 確かにそうだ。鉄道事業では競合するJRと阪急、阪神はもちろん、大梅田の各エリアの関係者が手を組み、街全体でお客さまを迎える、という発想が一段と大事になってくると思う。
近藤 エリアは広い。案内サインの充実など協調を図る必要もあり、隣接事業者と一部調整を始めている。
--堺市の40代男性からは「北ヤードや大梅田を域外にどうPRしていくのか」と。
平松 大阪市は積極的に都市プロモーションを実施している。2月には東京で40を超える各国大使館の方々を招き、プロモーションを行った。そこでは「大阪はすごい」という声が上がった。私はこんなに大きく動いている街は、日本の都市でも大阪が一番だと思う。世界八つの姉妹都市、さらにビジネスパートナー都市もアジアを中心に多数ある。市民やビジネスの交流で多くの方に大阪の良さを知っていただくことが、大阪の体力を付けるのだと思う。
下妻 PRと言えば「北ヤード」という呼び名、もう変えた方がいい。「ヤード」では都会的でもなく、美しくもない。プロジェクト名の公募はどうか。PRの関連では、国内の政治家に対する我々の説明はまだまだ不足していると思う。
近藤 東京・汐留は街びらきに合わせて「シオサイト」と名付けられた。確かに、ネーミングは大切だ。
かつての国土開発計画は「均衡ある国土の発展」による、地域ごとの格差是正が目的だった。だが、いま策定作業が進む国土形成計画は、むしろ牽引(けんいん)力としての先導地域の整備促進を目指すものだ。
特に東京、名古屋、大阪の3極構造の中で、大阪・関西の都市間競争力の強化を図るうえで先導的な役割を果たす地域が、私たちがここで対象とする「大梅田地区」。大梅田は大都市圏の整備強化を図るうえでの国内最大規模の将来構想だ。
そこには、公民連携の街づくりを通じた日本の拠点形成、さらに社会、経済、文化の強化に直結する新しい都市計画の可能性がある。北ヤード、そして「大梅田地区」の今後をリードする官民の代表の皆さんに、将来像を見据えた存分な議論を期待したい。
関西は元気がないと言われがちです。しかし、GDPは豪州やオランダと同水準の経済力を持ち、中国や韓国に近いという有利さも併せ持っています。私はそう悲観することはないと考えています。
北ヤードや「大梅田」については、西梅田に本社を構える毎日新聞社もステークホルダー(利害関係者)です。きょうご登場の方々には昨秋にも座談会形式で議論していただくなど、私たちもステークホルダーとしての責務の一端を担ってきました。シンポジウムはその続編。関西の将来を展望する、夢のある内容になることを期待しています。
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北ヤードに初期からかかわる独立行政法人・都市再生機構(UR)西日本支社の福永清・理事支社長に展望を聞いた。
--北ヤード開発の位置づけを。
◆JRの貨物基地跡や操車場跡の再開発は全国に数多い。だが、北ヤードほどの規模、都心との近接性、開発に向いたまとまった形状を持つ例は珍しい。行政からの要請を受け、全国で都市再生事業に取り組むURにとっても、ここは現時点で最大、最高の可能性を持っている。「大梅田」の核としての役割を担うものだろう。
--1期について。
◆URも参画する「まちづくり推進協議会」がナレッジ・キャピタルの形成を軸にした計画をまとめ、開発事業者がその計画に沿い、2012年度の完成目指して堅実に事業を進めておられる。URの役割は道路、広場などの都市基盤整備と、ナレッジ・キャピタルの実現にある。
--2期の行方にも関心が集まっている。
◆学識者らによる「2期開発ビジョン企画委員会」で活発な論議が展開されてきた。近く環境を基本概念とする構想がまとめられる見通しだ。URも、2期事業参画について前向きに検討していきたい。
--シンポでは「大梅田・北ヤード」をどう情報発信していくかもテーマだった。
◆事業を地道に進める一方、ネーミングを含め、関係者一丸となって「大阪が変わる」ことを全国に発信していきたいと思う。
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◆キーノートスピーチ
関経連は一昨年度公表の中期指針で「強い産業の実現」「アジアとの共生」「地域の自立--関西はひとつ」の3重点を示した。昨年10月にはほぼ10年先を念頭に、「関西のありたき姿」とその実現のための取り組み「関西、おもろい!Dynamic Kansai!-関西の『突破力』で世界に貢献」を公表した。
10年先で意識したのは2点。まず「日本の中」ではなく「世界の中の関西」の追求だ。世界経済はグローバルな競争の渦中にある。いかにチャンスをつかみ、リスクをチャンスに転じるか。大阪、京都、神戸の競争ではなく、「関西は一つ」としてアジアを中心に「関西が輝く道」を検討した。もう1点は民間の「技術力・ビジネス力」で発展を図るという視点の重視だ。
その関経連がなぜ北ヤード、大梅田なのか--。これについて関経連は昨年7月、村橋先生を座長とした研究会で「大梅田グランドデザイン」を公表し、京阪神を連携し、関西経済のエンジンとなる拠点として北ヤード、大梅田を位置づけた。
北ヤードで関経連自体は地権者でも居住者でもない。2012年度下期の1期の「街びらき」に続き、10年後には2期開発も「街びらき」を迎えているだろう。関経連が果たすべき役割は2020年の関西を先導し、プランのコーディネーターとなり、関西復興につながるプロジェクトに対する調査研究や政策提言を試みることだ。
この北ヤード1期を「知の集積拠点」とし、2期では「環境先進地域・関西」を実現する拠点にしたい。ナレッジ・キャピタル構想では、エンジンとなる可能性に満ちたアイデアがいくつもある。京都や神戸、関西全体からも歓迎される街にしなければとも思う。
大梅田の再開発・再整備プロジェクトではエリア内の既存地区の連携が欠かせない。関西発展に向け、大テーマとして論議が深められていくだろう。
まず、戦前に日本初のターミナルデパートとして生まれた阪急百貨店本店を核とする「梅田阪急ビル」建て替えについて触れる。
ビルは百貨店売り場面積の1.4倍の増床と、41階建てオフィスビルへの建て替え工事が敷地南半分で進行中だ。1期棟(百貨店の半分)が9月に開業し、来春にはオフィス棟も完成。いま営業中の百貨店がある敷地北半分は来春以降、2期棟の建設に入り、全体のグランドオープンは2012年度となる。
また1階コンコースが、建て替え前より柱を減らすことで洗練され、新たな広場も整備するなど快適な空間に変身。北ヤード1期、JR新北ビルなど一帯が生まれ変わる時機に、阪急百貨店の旗艦店と新しい梅田阪急ビルが誕生するわけで、我々の期待も大きい。
「教育」「文化」「安心」が街づくりの我々のキーワード。当社沿線はかねて都会的なイメージを頂いているが、茶屋町を含む梅田の周辺開発にもその精神を踏襲している。
都市鉄道利便増進法の制定などで、北大阪急行電鉄(北急)の延伸計画にも動きがありそうだ。3月開業の阪神なんば線と同様、北急延伸にも高い経済効果が期待できる。北急はいま大阪市営地下鉄御堂筋線と乗り入れして千里中央駅まで。これに対し、同駅から延伸して箕面市まで北上させる計画につき、04年の近畿地方交通審議会が「鉄道ネットワークを構成する新路線」と答申した。延伸が実現すれば、北摂の鉄道網はさらに充実する。
大梅田の都市再生は当事者の一人として、東京の「大丸有」を超えるものに、と考えている。梅田阪急ビルなど一帯の再開発の多くは、都市再生特別措置法による容積率アップを受けた。大丸有では容積移転制度もあり、それでパレスホテルの建て替えが実現。大梅田では、大丸有の容積移転よりも斬新で効果的な制度を期待する。
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■人物略歴
1942年生まれ。京大大学院工学研究科修士課程修了、旧建設省(現国土交通省)入省。東京都都市計画局総合計画部長、立命館大教授などを経て2008年から現職。
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■人物略歴
1937年生まれ。東大文学部卒。住友金属工業入社。社長を経て2005年から会長。07年5月、関西経済連合会の13代会長に就任し、現在2期目。
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■人物略歴
1949年生まれ。早大政経学部卒。阪急電鉄に入社し、主に鉄道畑を歩む。2003年阪急電鉄社長、05年阪急ホールディングス社長。06年から現職。
毎日新聞 2009年6月29日 東京朝刊