患者を断らない公立病院と2つの民間病院の連携の現状、直面する危機を取材しました。
患者を断らない公立病院と2つの民間病院の連携の現状と、直面している危機を取材しました。
激しいぜんそくの発作を起こして搬送されてきた患者は、呼吸困難に陥り、横になることさえできない状態になっていた。
吸入を始めるものの、患者の激しい発作は収まらない。
そこへ意識不明の重体患者が新たに搬送されてきた。
ERは、命の闘いが同時に進行していく。
沖縄県中部地区に位置する中部徳洲会病院は、すべての患者を受け入れるERとして、搬送件数は年間4,000を超える。
2006年から中部徳州会病院は、沖縄で初となるドクターカーの運用を始めている。
消防本部の出動要請を受けて、杉本龍史医師のチームは現場に向かう。
通報では、買い物中に女性が胸の痛みで倒れ、呼吸が安定していないという。
心臓に何らかの問題が起きている可能性があった。
現場に到着すると、女性は呼吸を回復し、意識が戻っていた。
ただし、心臓のトラブルがすぐに再発する可能性があることから、杉本医師が同行して病院に搬送する。
杉本医師は「かかりつけ医がいる。じゃあ中部病院行きましょうね」と話した。
向かう先は、杉本医師が所属する中部徳州会病院ではなく、県立中部病院だった。
杉本医師は、ERのスタッフに状況を伝え、女性は心臓カテーテル検査を受けることになった。
杉本医師は「うちの地域のいいところは、地域のほかの病院とみんながサポートしているっていうのはあって、同じように負担があっても、分け合ってるかなというのがあって」と語った。
沖縄県中部地区では、救急隊の1回目の連絡で搬送先が決まる率が99.3%と、全国平均の84%、東京都の68.2%と比較すると、受け入れを断らないERの特徴が浮かび上がる。
沖縄中部地区で24時間の救急外来を開く中頭病院は、深夜になっても待合室は多くの患者であふれ、300床余りのベッドはすべて埋まっていた。
39度以上の熱とおう吐、下痢が続く1歳半の男の子。中頭病院は、この子のために廊下にベッドを用意した。
母親は「家に帰って1人で見るよりは、ここで周りの医療スタッフにすぐいろいろ聞けるので、その点ではすごく安心です」と話した。
この夜、2組の親子が廊下で一夜を明かした。
こうしてベッドの空きがなくても、患者を中心に考えて、断らないER方式の救急医療を貫いている。
県立中部病院のERに、地元の産科医院から4時間前に出産した女性が緊急搬送されてきた。
出血が止まらず、子宮摘出の可能性もあるという。
産科医長の浜田一志医師は「これ待ってるといいことないので、どんどんどんどん先、進んでいきましょうね」と話した。
患者到着から30分後、緊急手術が開始され、残っていた胎盤の取り出しに成功し、子宮摘出は回避できた。
浜田医師は「出血、結局たぶんトータルは、2,000は出てると思います。何とか取れて良かったですね」と話した。
県立中部病院が受け持つのは、ハイリスクの患者だけではない。
妊娠時期が不明で、検診を一度も受けていないある妊婦は、地元の産科医院から送られてきた。
胎児の管理が難しいうえ、過去に中部病院で出産した際の費用およそ80万円を滞納しているという。
産科医長の井上 格医師は「未受診の方であるとか、経済的に不安定な方であっても、分け隔てなく、こちらは診察にあたっていますので、これは公的病院の役目の1つだと思ってますので」と話した。
地域全体でER方式を実現するため、民間病院が敬遠する患者を受け入れている県立中部病院だが、必然的に不採算部門を抱えて、経営は赤字が続いている。
2009年、沖縄県は、3年以内に経営改善できなければ、独立行政法人にして県から切り離す方針を固めた。
「最後のとりで」は、存亡の危機に立っている。
(06/30 00:12)