きょうの社説 2009年6月29日

◎尊経閣文庫分館PR 身近にある至宝に親しもう
 石川県は尊経閣文庫分館の情報発信に本格的に乗り出す。同文庫は加賀藩前田家ゆかり の書物や美術工芸品などを所蔵する日本の一大コレクションで、昨年9月の県立美術館リニューアルオープンに合わせて分館が設置された。重要文化財3点を含む約400点を保管するが、県民には広く知られていないのが現状だっただけに、分館の存在を周知し、全国に誇れる至宝が身近にあることを県民に積極的に伝えてもらいたい。

 県の今後のPR戦略としては、加賀藩の歴史・文化などを紹介する来月からの「加賀百 万石の文化講座」をはじめ、来館者に貸し出す2カ国語の音声ガイド導入や小中学校への出張宣伝などに取り組むことにしている。尊経閣文庫の所蔵品には、歴史的、学術的、技術的に価値のあるものや、人物・品物にまつわるエピソードなど、一品一品に興味深いものも多い。それだけに、美術・工芸愛好家や歴史愛好家など幅広い層を引きつける内容を持っている。

 とくに最近は「歴女(れきじょ)」ブームといわれるように歴史に関心を持つ若者が増 えている。小中学校への出張宣伝では、子供たちに分かりやすく、興味を持たせるように説明してほしい。郷土のよさを学ぶ大切なふるさと教育の一環でもある。

 美術館側には、分館設置後に開催されている展示会の内容や展示方法、情報発信などに 課題がないか点検を重ね、今後の入館増につなげてほしい。また、分館の存在を知らずに美術館を訪れた人に対しても、分館の価値や展示内容がより分かる案内表示などの工夫も一層求められよう。

 きめ細かい情報発信の積み重ねによって、一人でも多くの県民が分館に足を運び、数多 くの逸品の美と技と豊かな歴史に触れてもらいたい。そのような関心の高まりが、東京にある尊経閣文庫全面誘致の機運の醸成にもつながっていく。北陸新幹線開業に向けても、地元へ人を呼び込む大きな吸引力のひとつになるように、他の地域がまねをしようにも、まねのできない大切な財産を生かしたい。

◎高校生の就職戦線 支援体制を拡充したい
 雇用情勢の悪化で来春高校を卒業する生徒の就職戦線が厳しさを増しており、北陸の高 校は求人開拓の取り組みを強化している。各校は企業訪問の開始を早めたり、訪問企業数を倍に増やすなど校長を先頭に活動を強めているが、来春の求人数は今春以上に減少する恐れもあり、就職支援体制の拡充が望まれる。

 今春3月末時点での高卒就職内定率は石川98・1%、富山98・2%で、両県とも前 年より0・6ポイント低下した。求人数は就職希望者数を上回ったものの、石川は4・5%、富山は13・6%減少した。これまで人材確保に懸命だった製造業が一転、新卒採用を手控える傾向にあり、来春に向けて各高校は危機感を募らせている。

 高校生の就職支援のため石川、富山県とも5年ほど前から、進路指導の教員と協力して 就職相談や求人開拓などを行う高校就職支援教員(ジョブ・サポート・ティーチャー)を配置している。

 教員OBに応援してもらう制度で、現在両県とも2人の支援教員が定時制高校などで活 動しているが、富山県はこれに加えて、企業の人事担当経験者を就職支援アドバイザーとして採用し、県内4地区に配置する計画を進めている。福井県も同様の就職支援コーディネーターを20人近く採用し、高校に送り込む予定という。いずれも年度末までの緊急雇用対策の一環として行われる。

 石川、富山の現在の有効求人倍率は0・5倍前後という厳しさである。しかし、福祉・ 医療や小売関係などは人手不足の傾向が続いている。こうした状況に対応するため、例えば全国の自治体や社会福祉法人の中には、高校生を対象にホームヘルパー2級の養成講座を開くところも見られる。

 生徒の介護ボランティア体験といったレベルから、さらに踏み込んだ就職支援活動の一 例である。今後は雇用のミスマッチをなくし、人手不足の分野へ若い人材を誘導していく取り組みがますます重要になるだろう。

 また今春、就職先が決まらないまま卒業した高卒無業者のフォローアップも忘れないで ほしい。