千葉

　事件記者だった２０年近く前、東京駅に近い雑居ビルの事務所をよく訪ねた。主は「大物総会屋」と呼ばれていた。小柄で丸顔。陽性の人で「元気ですか。世間の情勢どうなっとりますか」と広島弁で気さくに話してくれた。

　人脈や企業との付き合いなど肝心の部分はかわされたが、経済事件、企業トラブルの背景や暴力団の状況を教えてもらった。見返りを求められたことはない。世の裏側をのぞく貴重な情報源だった。

　総会屋規制は厳格化し一般株主と海外投資家が総会の主役に。彼は「名前」もあってか企業恐喝未遂などで度々塀の中に。今年４月出所目前に持病の腎臓病からか獄中で病死。家族に引き取られた。７１歳。葬儀は簡素で死顔は穏やかだった。

　株主総会シーズン。「時代は変わった」と企業幹部は言うが、今後の企業防衛のありようや、彼よりこわもての「裏勢力」の動向は気にかかる。【武田良敬】