現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

日韓首脳会談―対北政策でさらに結束を

 北朝鮮で、金日成主席の後継者を長男の金正日氏にすると決めたのは、35年前の1974年のことだ。

 「いま、軍隊と人民の精神力は、偉大な継承の歓喜に沸き返った70年代のように、さらに力強い」。先週、北朝鮮のメディアはそう報じた。継承には血統が大事だと示唆する金正日総書記の言葉も先日伝えられた。

 その報道を読み解けば、健康不安を抱える金総書記が息子への継承作業を急いでいるのは間違いあるまい。

 時を同じくして、核をめぐる動きが急だ。体制生き残りのよりどころとしているからだろう。プルトニウムをさらに抽出するほか、新たな核開発につながるウラン濃縮にも乗り出すことを初めて公式に宣言した。

 核やミサイル開発のやりたい放題をいかにやめさせるか。金総書記の健康問題から先行きがますます不透明な北朝鮮では何が起こるか分からない。そんな現実にどう対処するか。われわれに突き付けられた大きな課題である。

 なによりも、北朝鮮を取り巻く国々が認識を共有し、協調行動を強めていかねばならない。

 きのう、麻生首相と李明博韓国大統領が会談した。北朝鮮問題を中心に予定時間を超えて話し込み、日韓の連携をさらに固めることを確認した。

 両氏は北朝鮮に対する国連安保理の制裁決議の実行が大事だとし、6者協議再開に向けて北朝鮮を除く5カ国の協力も探っていくという。

 いま大切なのは、北朝鮮にさらなる軍事的な挑発をさせないことであり、同時に、交渉の場に出てくるような環境をつくることだ。圧力で迫るだけではなく、硬軟を織り交ぜた外交を冷静に粘り強く続けていくしかあるまい。

 それにはまず利害が一致しやすい日米韓が連携をさらに深めるべきだ。

 李大統領は今月、オバマ米大統領と会談した。来月には主要国サミットで麻生首相もオバマ氏らと会う。そうした機会を積極的に生かし、共通の基盤を固めていきたい。

 発足から5カ月、オバマ政権のアジア外交チームもやっとできあがった。米国をハブにした3カ国の連携を本格的に追求できることになる。

 さらに中国、ロシアとの協調を一層進めていく必要があろう。

 今回の日韓会談により、首脳同士が頻繁に行き来する「シャトル外交」はさらにしっかりしたものとなった。歴史問題をはじめ、日韓間にはわだかまりも少なくないだけに、関係を深めるいい機会として歓迎したい。

 また、2国間の問題だけでなく、国際舞台での協力についても意義がある。今回はアフガニスタンやパキスタンへのさらなる支援協力で合意したが、こうした取り組みを着実に広げていってほしい。

児童ポルノ―放置できぬ幼い被害者

 「児童ポルノ」というと、ちょっとエッチな少年少女の姿態、といったイメージを持たれがちだ。

 だが、インターネットでさがせば、おぞましい画像にわけもなくたどり着くことができる。子どもを性的に虐待し、尊厳をずたずたにする「犯罪行為の写真」があふれているのだ。

 被写体となった子どもは、長く心の傷を抱え続ける。写真がどれだけ出回っているのだろうか。この瞬間にも誰かが見ているかもしれない。自分のことだと気づかれないだろうか……。それは、拷問にも等しい苦しみだろう。

 日本では99年に児童ポルノ禁止法が制定され、現在は画像の製造・提供やその目的での所持が禁じられている。一方で、個人で「楽しむ」ために写真を持っていたり、画像をダウンロードしたりすることは、プライバシー保護の観点から規制が見送られてきた。

 法制定から10年、ネットの発達で状況は大きく変わった。ファイル交換ソフトを使えば大量の画像が瞬時に手に入る。ネットに流れた画像は消えない。被害は深刻になる一方なのに、現行法での摘発には限界がある。

 子どもたちの苦しみをこれ以上放置できない。児童を写したポルノ画像の「単純所持」規制に、一刻も早く踏み切るべきだ。国際的にも日本の取り組みは遅れている。主要8カ国(G8)で単純所持を禁じていないのは、日本のほかはロシアだけだという。

 通常国会で、与野党それぞれの禁止法改正案の審議が始まった。

 与党案は「性的好奇心を満たす目的」で児童ポルノ画像を所持した場合に、罰則を科すとしている。

 一方の民主党案は、有償または繰り返し画像を入手した場合を「取得罪」として罰する。「所持」だけで罰すると恣意(しい)的な捜査につながりかねないとして、条件を厳しくしている。

 民主党の懸念ももっともだ。メールで勝手に画像を送りつけられたり、たまたまアクセスしてしまったケースなどの摘発は行き過ぎだろう。捜査権の乱用を防ぐ手だてについて議論を尽くしたうえで、実効性のある規制に向け、与野党は合意を急いでほしい。

 民主党案には被害児童の保護策の充実・強化も盛り込まれている。当然のことだ。虐待が繰り返されている恐れもある。捜査当局には被写体の児童を捜し出す努力を強めて欲しい。

 また、小児性愛者をめぐる医学などの研究も必要だ。海外では、アニメやコンピューター・グラフィックスなど創作物の児童ポルノ表現まで規制する国も少なくない。子どもを性的対象とする風潮そのものを絶やそうという考え方からだ。

 この規制は表現の自由を侵す懸念もあり、今回の法改正とは切り離して慎重に議論すべきだろう。

PR情報