MBA「ウォール街はもう嫌だ」…金融危機で不信感
6月28日13時24分配信 読売新聞
拡大写真 |
読売新聞 |
「起業家精神のある人間には、経済がどん底の今こそ事業を伸ばせる好機だ」
コロンビア大経営大学院を5月に修了したトーマス・キャンベルさん(31)は自信満々だった。2000年に別の大学を卒業後、メリルリンチなど金融大手2社で働き、08年には破綻(はたん)直前のベア・スターンズから事実上の採用内定を得ていた。
だが、ベア社やリーマン・ブラザーズなど相次ぐ破綻を目の当たりにしてウォール街への不信感を募らせたキャンベルさんが目指したのは不動産ベンチャー。低所得者向け住宅を建築して賃貸する事業を08年暮れから始め、政府の助成金を活用することで高額の賃料がなくても採算が取れる仕組みを作った。
原点にあるのは、故郷フロリダ州の貧困地区が再開発でよみがえった光景だ。「本当に住宅が必要な人々に手頃な価格の住宅を提供したい」。経営大学院に入学した当初の狙いとは違う道だが、大学院で培った人脈が生きた。
ハーバード大経営大学院で進路指導を担当するジャナ・キアステッドさんは「就職先は様々な業種に広がり始めている」と指摘する。1学年約900人のうち、有名企業への登竜門と言える「インターン(見習い)」先に金融業を選んだ08年の学生は全体の40%で前年より3ポイント減った。
これに対し、コンサルタント業は前年比3ポイント増の19%。金融より倒産の危険性が少なく、高収入が期待できるとの見方が広がっているためだ。不況に強い官公庁も増加傾向にある。
「金融危機を引き起こし、株主や納税者に損失を与えた責任は私たちにもある」。サンダーバード・スクール・オブ・グローバル・マネジメント(アリゾナ州)の校長、アンヘル・カブレラ氏(41)は、金融危機で破綻に追い込まれた金融大手トップの多くが名門ビジネススクール出身だったことを「自己批判」し、米メディアで話題を呼んだ。
確かにリーマン・ブラザーズのリチャード・ファルド元最高経営責任者(CEO)はニューヨーク大、メリルリンチのジョン・セイン元CEOはハーバード大と、いずれも一流の経営大学院出身。カブレラ氏は「違法にならない範囲でできるだけ稼げと何十年も教えてきた。だが、これからは公共の利益に奉仕する精神を教えなければ」と語る。
大学院内でも「指導者を養成するMBA課程の役割は変わらないが、教育内容を改革する必要がある」(ハーバード大のキアステッドさん)と見直し機運は高まっているが、改革の具体像となるとまだ各校とも手探りの状態だ。
◆MBA(経営学修士)…Master of Business Administrationの略。会計、財務、マーケティングなど、ビジネスの実践に役立つ科目を学ぶビジネススクールで通常2年の課程を修了して取得する資格。
MBA取得者は金融機関など人気企業への就職や転職で優遇され、経営幹部への道が開けることも多い。米名門大なら初年度の年収は大手金融機関で12万ドル(約1100万円)程度で、学部出身者(5万5000〜7万ドル)を大きく上回るという。
不況期には、失業中に資格を取って再就職に備えようとビジネススクール志望者が増える傾向がある。2008年の受験者(米国籍)は約12万6000人で1997年以来11年ぶりの高水準となった。米ビジネススクールへ日本から留学する人も多くなっている。(ニューヨーク 山本正実)
最終更新:6月28日13時24分
ソーシャルブックマークへ投稿 0件
主なニュースサイトで ウォール街 の記事を読む
この記事を読んでいる人はこんな記事も読んでいます
- 赤字のライブドア、配当に680億円…純資産の半分以上(読売新聞) 26日(金)19時17分
- 「音で音を消す」アサヒの意外な騒音防止(産経新聞) 28日(日)11時19分
- 米で100万人超感染か=新型インフル(時事通信) 27日(土)9時48分