2009年06月28日
朝日・産経・毎日新聞社の稼ぎ具合をグラフ化してみる
●朝日新聞(E00718)
まずは朝日新聞社。ちなみに社名直後の文字列は、EDINETで検索する際の「提出者EDINETコード」。また、今回は全社連結業績ではなく「新聞社本社」の単体業績を元にしている。周囲事業ではなく、新聞媒体そのものの業績がどうなっているかが焦点だからである。
グラフの基本フォーマットは以前【未上場で有名な企業の業績をグラフ化してみる……(3)日経新聞などの各新聞社】で掲載したような、棒グラフ形式を採用。売上高が大きいので売上高のみ10億円単位、他は1億円単位なのも同じ。また、過去の記事で数年分のデータを元にグラフ化した場合もあったが、今回はEDINETでさかのぼれる2004年3月期以降のものを対象とする。
朝日新聞社(単体)(単位:億円/売上高のみ10億円)
売上高が漸減していること、営業利益(本業の儲け)が最新期でマイナス、つまり赤字に転じているのが確認できる。それにも関わらず経常利益(本業・本業以外の日常的な業務まで含めた儲け)、純利益(税金や特別の利益・損失も合わせた最終的な儲け)がプラスに転じているのは、投資有価証券売却益(手持ちの株式を売り払った)で7.98億円、関係会社株式売却益で85.41億円の利益が出て、さらに「去年と比べて」特別損失額が減ったため。詳しくは【朝日新聞の決算短信から「おサイフ事情」をチェックしてみる】で解説しているが、グループ会社の整理統合の過程で財務諸表がかなりごちゃごちゃな状態になっている。
せっかくなので、主な業績指標を算出してグラフ化する。当サイトでもよく取り上げられている3つの指標をグラフ化してみた。具体的には
「売上高営業利益率」……売上高に対する営業利益の割合。どれだけ本業が儲けやすいかを示す。大きい方が効率よい儲け方
「売上高経常利益率」……売上高に対する経常利益の割合。どれだけ通常業務が儲けられやすいかを示す。大きい方が効率よい儲け方
「売上高販管費比率」……売上高に対する販管費の割合。どれだけ売上に対して販管費がかかっているか、言い換えれば固定費の割合が大きいかを示す。小さい方が固定費部分を効率よく活用している
※「販管費(販売管理費)」……事務方の人件費など、売上に直接必要な費用(例えば材料費)ではないが、企業運営と売上計上の仕組みを維持するのに必要な、固定費的な費用。
の3つ。
朝日新聞社各種指標(単体)
ここ数年来、売上高営業利益率・売上高経常利益率は3〜5%を維持してきた。これは「新聞を1万円売ると、300円から500円の利益が会社に残る」という計算。しかし直近期ではこれがそれぞれ-0.3%・0.2%に急落している。つまり「本業の儲けは赤字」「通常業務全体では1万円売上をあげて20円の利益」ということ。
最初のグラフを見ると、売上高は去年と比べて落ちている。にも関わらず売上高販管費比率は上昇している。実際の販管費は去年と比べて減少している、つまりリストラなどで経費削減に励んでいるものの、それ以上に新聞の売上が落ち、結果として売上高販管費比率が上がり、業績を圧迫していることになる。
また「直近期はともかく、ここ数年にしても売上高営業利益率・売上高経常利益率が低くないか?」という疑問があるかもしれない。しかしそれは他の業種と比較しての話であり、新聞社単体としてはむしろ高い方。それは次の産経と毎日のデータをみれば分かる。
●産業経済新聞(E00749)
続いて産経新聞。他の2社と比べると規模が小さいことから、いわゆる「押し紙問題」など色々と改革を手がけているようだが、実態がそれに追いついていないのが分かる。
産業経済新聞社(単体)(単位:億円/売上高のみ10億円)
産業経済新聞社各種指標(単体)
一つ目の業績グラフで、縦軸のメモリ区分が違うとはいえ、先の朝日新聞と比べると「売上高」と他の利益のグラフの長さの対比がぱっと見で違うことが分かるだろうか。「売上に対して利益の額が少なめ……ということは、各種利益率が低いな」という想像ができるが、それが裏付けられるのが二つ目のグラフ。
中間期決算については【半期が赤字に転落した産経新聞の最新版「おサイフ事情」をチェックしてみる】で解説済みだが、結局期末決算では営業利益を黒字に転じることに成功したものの、経常利益はマイナス。純利益はギリギリプラスという次第。
朝日新聞と比べると元々売上高営業利益率・売上高経常利益率が低く、1〜2%台で低迷していたものの、昨今の新聞事業の不調でさらに低迷に拍車がかかった形だ。また、売上高販管費比率も昨年の43.6%から46.9%に上昇しており、販管費の額そのものは減少していることとあわせて考えると、「経費削減は進んでいるが、それ以上に新聞の売上減が進んでいて、リストラが追いつかない」状態にあることが分かる。
●毎日新聞(E00706)
最後は毎日新聞。色々な観点で話題を提供してくれる新聞社なだけに、業績グラフも期待に違わぬ結果となっている。
毎日新聞社(単体)(単位:億円/売上高のみ10億円)
毎日新聞社各種指標(単体)
まず一見して分かるのが、各種利益の棒グラフの長さが非常に短いこと。案の定、売上高営業利益率・売上高経常利益率は先の産経新聞よりさらに小さく、過去5年間においても0.2%〜1.8%の間で低迷している。それが直近期ではいずれもマイナス、つまり赤字を計上してしまっている。
具体的には営業利益で25億8400万円、経常利益で26億9500万円、純利益で17億6100万円。つまり本業の新聞事業の時点ですでに赤字を出し、その他の事業でもリカバーできなかった「どころか」さらに赤字を拡大していることになる。グループ会社の再編成の際に発生した各種特別損失(固定資産除売却損、固定資産圧縮特別勘定繰入額、退職給付会計基準変更時差異償却など)をのぞけば、この6年で最悪の業績。しかも今回は本業の時点で損失が出ていることから、根の深い問題であることが分かる。
ちなみに売上高販管費比率は昨年の40.3%から42.5%に上昇。一応額の上では販管費も減少しているものの、売上高の減少分には追いつかなかった形だ。
朝日新聞はまだマシに見えるが、産経新聞と毎日新聞は元々利益率が低く、さらに販管費の割合も元々高かったことから、売上高の減少が大きく業績に響いていることが分かる。また、3社とも売上高、すなわち新聞の売上が減少していること、販管費も減少しているが売上高減少分には追いついていないことを見ると、「新聞の売上減少が急激過ぎて業務体制の立て直しが間に合わない、効率的なリストラが出来ていない」ことが分かる。
新聞3社の売上高・販管費の前年比
特に毎日新聞は営業・経常・最終の全場面で損失を計上しており、新聞事業が大変な状態にあることが分かる。さらに諸表をじっくりと読めば分かるのだが、これでもまだ有価証券の売却益(16.5億円)で穴埋めをした結果で、これが無ければさらなる損失が計上され得たことになる。
新聞の売上低迷と業績の悪化が、何を意味しているのか。当事者はもちろんのこと、新聞を読む機会のある人は皆、考え直してみるべきかもしれない。
これらの書籍が参考になります
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