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選択の手引:’09衆院選 どうする消費増税(その2止) 財政再建の方途は

 <世の中ナビ NEWS NAVIGATOR>

 <1面からつづく>

 ◇「主要国で最悪」

 次期衆院選をにらみ、与野党では社会保障や子育て支援などへの歳出増を求める声が強まる。だが、政策の充実には財源を手当てすることが必要だ。「主要先進国で最悪」と懸念される日本の財政事情。破綻(はたん)へのカウントダウンを食い止められるのか。財政を切り盛りしてきた政府・与党も、政権奪取を目指す民主党も、借金依存体質の脱却に向けた処方せんを示すことが必要だ。【谷川貴史】

 ◇増税具体化先送り--政府・与党

 麻生太郎首相は昨年10月の記者会見で「経済状況が好転した後、税制抜本改革を速やかに開始する。3年後に消費税引き上げをお願いしたい」と明言した。世界的な経済危機を踏まえて「短期は景気対策」「中期は財政再建」との2段階での対応を財政運営の基本にすえている。

 これまで四つの補正・本予算を成立させ、昨年12月の政府の「中期プログラム」では、消費税を含む税制抜本改革を11年度から実施する方向性を打ち出した。消費税収を全額、社会保障費と少子化対策に充てる考えだ。

 ただ、政府・与党の財政再建策も明確なものとは言い難い。

 今年1月にまとめた09年度税制改正関連法の付則案では、消費税の増税に向けて「11年度までに必要な法制上の措置を講ずる」と明記したが、一方で「施行期日等を定めるに当たっては、景気、国際経済の動向等を見極める」との一文を挿入し、実施時期はあいまいにした。

 政府が今月23日に閣議決定した「骨太の方針09」では、新たな財政再建目標を設定した。国内総生産(GDP)に対する国・地方の債務残高の比率を「10年代半ばにかけて安定化させ、20年代初めには引き下げる」との内容だ。

 これを実現するには増税が不可欠で、「消費税率を12%とすれば目標は達成できる」との試算も発表した。だが与謝野馨財務・金融・経済財政担当相は「機械的な試算で、断定的に何%でなければ駄目だとは言っていない」と釈明した。税率や実施時期をぼかしたのは、与党内の増税反対派に配慮したためだ。

 10年度予算では歳出増を求める党内世論に押され、歳出改革の象徴だった「社会保障費2200億円の抑制」の旗も降ろした。財政再建への道筋を模索するものの、政府・与党の対応は歳入・歳出の両面で揺らいでいる。

 ◇ムダ削減に疑問符--民主

 税金の無駄遣いを解消して財源を捻出(ねんしゅつ)し、消費税率の引き上げは当面凍結する。これが小沢一郎代表の時代から堅持する民主党の基本戦略だ。

 小沢氏は昨年10月、衆院本会議の代表質問で「税金の無駄遣いを再生産している財政構造を大転換し、予算の総組み替えを断行する」と表明した。一般会計と特別会計を合わせた予算総額は08年度当初ベースで212兆円。その約1割に当たる20・5兆円を新たな財源とし、中学卒業まで月2万6000円の子ども手当の支給や、高速道路無料化などを実現する。

 民主党は財源をさらに精査し、次期衆院選のマニフェスト(政権公約)には16兆~17兆円程度を盛り込む方向で調整している。

 そのうち半分近くは国家公務員の人件費削減や入札改革などの予算の見直しで確保し、残りを特別会計の積立金など「埋蔵金」や、税負担軽減を定めた「租税特別措置」の改定などで創出する考えだ。

 だが、自民党は「数字に誇張があり、10兆、20兆も節約できる無駄な経費があるわけない」(細田博之幹事長)と批判する。

 200兆円を超える予算総額のうち、国債費や社会保障関係費、地方交付税交付金などが8割以上を占めており、これらから削減することは困難だ。

 検討対象となるのは公共事業費や教育関係費、防衛費など30兆円余に過ぎず、ここを大幅に削減すれば国民生活に大影響が出る、というのが自民党の主張だ。

 確かに、現時点では民主党の財源論は具体性に乏しく、実現の可能性に疑問符がつく。ただ、政府支出の在り方に不信感を抱く国民の意識を代弁している側面もあり、民主党の中堅幹部は「安易な増税ではなく、税金の使い方に徹底的にメスを入れる。それが政権交代に期待する国民の思いだ」と力説する。

 ◇自民と民主、主張が入れ替わり

 「消費税収は社会保障以外に充てないことを明確にし、引き上げが必要なら選挙で国民の審判を受けて具体化する」。民主党は昨年12月の「税制抜本改革アクションプログラム」で、無駄遣いの根絶などの条件が整えば、消費税の引き上げを検討する意向を示した。「自民も民主も税制改革の大きな方向性はほとんど同じ」(財務省幹部)との見方は強く、違いは増税のタイミングだけとも言える。

 民主党の岡田克也幹事長は党代表だった04年、年金の財源として将来の消費税引き上げに言及して参院選で党勢を拡大。「在任中は消費税を引き上げない」と繰り返した小泉純一郎首相(当時)を「無責任」と批判した。

 現在、麻生首相は「消費税凍結」を主張する民主党の鳩山由紀夫代表を「財源がなければ極めて無責任」と批判する。自民と民主、それぞれの立場が逆転した格好だ。

 長期政権を維持した小泉氏は国民の反発を招きかねない消費税増税を封印しつつ、一般会計から公共事業費などを大幅削減し、歳出改革を断行した。民主党は削減対象を特別会計に広げて「無駄遣いがある」と強調し、消費税論議を先送りしようとしている。

 消費税の引き上げが政治的な駆け引きに翻弄(ほんろう)される中で日本の財政状況は悪化の一途をたどっている。

 ◇消費税上げ不可欠、受益の姿も示せ--森信茂樹氏・中央大法科大学院教授(租税法)

 国内総生産(GDP)に対する債務残高の比率を見れば、主要先進国で日本の財政状況が最悪であるのは間違いない。ここ数年はっきりした問題は、国債のほぼ全額を国内で消化することはもはや難しく、海外の投資家に頼らざるを得なくなってきたことだ。

 貯金で暮らす高齢者が増え、貯蓄率は低下した。輸出の伸び悩みで経常黒字も縮小し、国内の余剰資金は国債投資に回らなくなってきた。海外の投資家を引きつけるためには金利を上げて金融商品としての魅力を高める必要があるが、金利上昇は国債の利払い費の増加と、財政の硬直化を招いてしまう。

 金利が上がれば景気回復の足かせとなる。日本経済にとり、巨額の財政赤字は最大の弱みだ。政府が財政再建への取り組みを緩めれば、市場で金利が跳ね上がる事態がいつ生じてもおかしくない。市場という「外圧」が働く前に、深刻な財政問題について政治は国民に警告を発するべきだ。

 世界では、所得課税から消費課税に重点を移すのが大きな流れとなっている。日本の場合、少子高齢化で社会保障費がさらに膨らんでいくことを考えれば、消費税率の引き上げは不可欠だ。

 増税を求める際に大切なのは、単に税率を示すのではなく、年金額や支給開始年齢、医療体制の強化など国民が受けるサービスの具体的な内容を併せて示すこと。受益と負担をパッケージで政策を打ち出し、国民の理解を得る努力が必要だ。

毎日新聞 2009年6月28日 東京朝刊

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