2009年06月
2009年06月26日
実録『ＷＪ』１−誇りと驕り��
福田政二という北海道の実業家の名前が永島氏との会話の中から出て来たのは、その年の夏かと思う。
日時の記憶が定かではないが、私はその頃に長州力と初めて出会った。
実際には、それまでに二度、彼とは会っている。
一度目は、1993年、SPWF時代、谷津嘉章達が新日本プロレスに復帰参戦を果たした時だった。
新日本の事務所で行われた谷津達の記者会見での態度が悪いと、長州力が烈火の如く怒り狂った時だった。
怒る長州が当たり前だった。
ワゴン車に谷津と仲野を乗せ、私の運転で旧テレビ朝日の一角に在った新日本プロレスのオフィスに向かう。
都内の交通情況を充分考慮して時間はかなり余裕を持たせて出発。
ところが、約束の時間に私達は遅刻してしまった。
理由は、途中で谷津が…『局長【SP時代私は事務局長という肩書の為、こう呼ばれていた】腹が減ったんで、軽く蕎麦でも…』
もちろん、私は反対したが、結局、ラーメン屋へ寄り道。
その結果、大遅刻。
新日本のオフィスでマスコミ各社も新日本プロレスのフロントも、そして長州力も皆さん待ちぼうけ、だった。
怒り心頭の長州力に茫洋とした谷津嘉章、『コラッ！谷津ゥ！何やってんだコラッ！』
今になって思うとこの人は、コラッを使うのが昔から得意だったんだ。
『クルマが渋滞したんデスョ、しょうがないっスョ！』
『バカヤロッ！コラッ！電車で来いッ！』
『…』
う〜ん、勝負有り。
しかしながら私はこの時、長州力と云う人の繊細さと紳士的な一面を垣間見る事に成る。
控に用意された部屋で待機していた谷津達を相手に、怒鳴りまくっていた長州力は、立ったままだった。
何故なら、その部屋の椅子の数が私達が座る分しかなかったからだ、揚句の果てに、革命戦士・長州力は、私の前に仁王立ちしているのだ。
座りたくても、座る場所が無い。
余計に機嫌も悪く成るだろう。
ここは立場上、私が席を譲るべきだろうと思った私は、話しの腰を折らないように、静かに椅子から立ち上がろうと身体を少し動かした。
その時だった。
『いいよ』と一言。
私の方には目もくれずに。
私は、モグラ叩きのモグラのように、頭を引っ込め、椅子に座り直した。
《あ〜この人は、冷静なんだ、それに気配りも出来る人なんだ》と私は、胸の中でそんな事を思って居た。
あの時、『長州サン！キレました？』と聞いたら、彼はなんと答えたろうか。
次に彼と会ったのは、あまり嬉しい場所では無かった。
それは、福田雅一の葬儀の会場だった。
真っ赤に泣き腫らした眼をして愛弟子の葬儀のど真ん中に居た。
私も泣いた。
もちろん、言葉は交わしていない。
その長州力と私が、三年を経たずして深い繋がりを持つように為るなど、この時、夢にも思わなかった。
人生解らないものである。
天国の福田雅一が結んだ縁(えにし)を感じずにはいられない。
日時の記憶が定かではないが、私はその頃に長州力と初めて出会った。
実際には、それまでに二度、彼とは会っている。
一度目は、1993年、SPWF時代、谷津嘉章達が新日本プロレスに復帰参戦を果たした時だった。
新日本の事務所で行われた谷津達の記者会見での態度が悪いと、長州力が烈火の如く怒り狂った時だった。
怒る長州が当たり前だった。
ワゴン車に谷津と仲野を乗せ、私の運転で旧テレビ朝日の一角に在った新日本プロレスのオフィスに向かう。
都内の交通情況を充分考慮して時間はかなり余裕を持たせて出発。
ところが、約束の時間に私達は遅刻してしまった。
理由は、途中で谷津が…『局長【SP時代私は事務局長という肩書の為、こう呼ばれていた】腹が減ったんで、軽く蕎麦でも…』
もちろん、私は反対したが、結局、ラーメン屋へ寄り道。
その結果、大遅刻。
新日本のオフィスでマスコミ各社も新日本プロレスのフロントも、そして長州力も皆さん待ちぼうけ、だった。
怒り心頭の長州力に茫洋とした谷津嘉章、『コラッ！谷津ゥ！何やってんだコラッ！』
今になって思うとこの人は、コラッを使うのが昔から得意だったんだ。
『クルマが渋滞したんデスョ、しょうがないっスョ！』
『バカヤロッ！コラッ！電車で来いッ！』
『…』
う〜ん、勝負有り。
しかしながら私はこの時、長州力と云う人の繊細さと紳士的な一面を垣間見る事に成る。
控に用意された部屋で待機していた谷津達を相手に、怒鳴りまくっていた長州力は、立ったままだった。
何故なら、その部屋の椅子の数が私達が座る分しかなかったからだ、揚句の果てに、革命戦士・長州力は、私の前に仁王立ちしているのだ。
座りたくても、座る場所が無い。
余計に機嫌も悪く成るだろう。
ここは立場上、私が席を譲るべきだろうと思った私は、話しの腰を折らないように、静かに椅子から立ち上がろうと身体を少し動かした。
その時だった。
『いいよ』と一言。
私の方には目もくれずに。
私は、モグラ叩きのモグラのように、頭を引っ込め、椅子に座り直した。
《あ〜この人は、冷静なんだ、それに気配りも出来る人なんだ》と私は、胸の中でそんな事を思って居た。
あの時、『長州サン！キレました？』と聞いたら、彼はなんと答えたろうか。
次に彼と会ったのは、あまり嬉しい場所では無かった。
それは、福田雅一の葬儀の会場だった。
真っ赤に泣き腫らした眼をして愛弟子の葬儀のど真ん中に居た。
私も泣いた。
もちろん、言葉は交わしていない。
その長州力と私が、三年を経たずして深い繋がりを持つように為るなど、この時、夢にも思わなかった。
人生解らないものである。
天国の福田雅一が結んだ縁(えにし)を感じずにはいられない。
2009年06月25日
実録『ＷＪ』１−誇りと驕り
ここから先は、年表を追うような方法ではなく、今私が記憶している出来事の中で、これは、言っておきたいと思う事を、思いつくままに、書いて行こうと思う。
あくまでも、書きたいことを書くので、読まれる方からすれば、物足りなさを感じる事も多いのかも知れない。その辺りは、これが私的なblogだと云うことで、お許し頂こう。 とにかく、戦犯は誰？的な物は書くつもりが無い。
それでは何故、前回までの内容の大半を、あたかも永島勝司氏がＷＪ崩壊の一番の戦犯だとでも言うかのような書き方をしているのかと思う方も居ると思い、事情を説明しようと思う。
永島氏は、プロレスマスコミを使い、自分の主張を展開している。福田社長との裁判沙汰が一段落したせいもあってのこととは思うが…、マスコミもそれを面白がって取り上げている。
福田社長は、反論する場を持たない。
長州力も、黙して語らない。
ジャーナリズムの鉄則として内容の裏は取るべきだと思う。
一方の話しだけ聞いて不特定多数の読者の前に、総てが、真実だとでも言うかのように投げ出す。
これでは、公平を欠く。
実際に、私の場合で云えば、永島氏の著書『地獄のアングル』の中で、私が協力者を探し、その協力者が出資した事に為っている。
実際は、前に述べたように、私からも500万円という金が出ている。
ついでに言えば、その金は、旗揚げ興行後にその大半を返済すると本人が、協力者である内田益三会長に告げている。
既に７年が過ぎようとしている。
この期間に、返済された金額は200万円に満たない。
銀行等の公的金融機関から、いかに低利で借り出したとしても、７年という期間を考えれば、利息にも足りないだろう。
そして私は、私を信用し永島氏に無条件で1500万円もの大金を出してくれた内田会長に申し訳が立たないので、２年を過ぎた頃から、月々、30万円を永島氏に代わって返済して来た。
更に、昨年の夏から、内田会長の債権を譲り受けている。
この７年間の間、永島氏は、この事の釈明に内田会長のもとを訪ねたのは、一度だけである。
今年に為ってからは、一度も入金は無い。
私達は、こんな人間の出まかせを信じ金を出したのである。
それでも、その金がＷＪ設立の為に、またはリキナガシマ企画の運営に、純粋に使用されていれば、計画した事業が頓挫したのだから諦めもつくし、請求など、私も内田会長もしなかった。
資本金として、リキナガシマ企画の口座に入った1000万円も含めて、ほとんどが氏の私的な事に使われたのだ。
私達の金は、ＷＪの為には、一円も使われなかった事が、無念なのだ。
金が振り込まれた翌日、永島氏から連絡が来た。
『…いやぁ、ありがとう、今ね、俺の古くからの友人のね、これが中京方面の顔役なんだけど、うん…そいつを通じてね、俺直接だといろいろ上手くない事も有るしさ…彼を通じてね、レスラー６人に無事振込みが終わりました。龍さん、ありがとね。』
本当を言うと、私はこの時の話しは、この時点で嘘だと思っていた。
理由のひとつは、単純に、勘であるのだが、他にも理由は有る。
ただ、ご本人の名誉にも関わるので、理由については、これ以上は述べるつもりはない。
しかしながら、永島氏本人もしくは、永島氏サイドの誰かなりが、このblogについて事実ではない等の反論をされた場合は、しっかりと、証拠に成る資料も提示して自身の正当性を証明する為に戦う覚悟である。
永島氏は、マスコミで『俺は逃げも隠れもしねぇ、債権者の電話には全部、対応してきた』と云っているが、それは、凄いことではなく当たり前の事だと思う。
誠意と正義の永島氏は、内田会長と私の事は蚊帳の外に置いた。 何故だろう。
とにかく、私の気持ちは、リキナガシマ企画の登記が終了した時点で、永島氏に協力する思いは失せていた。
永島氏との関係は、金銭の貸借だけに留めようと決めた。
私の、内田会長に対する責任として、全額が返済される迄は我慢して最低限の繋がりは維持しょう。
興行が始まれば、直ぐに返済されるはず、暫くの辛抱だ。
私が、かくも短期間にこのような考えに変わってしまったのは、金銭の事が理由ではない。
返済に関するトラブルは、後の問題であり、私が嫌になったのは、氏の、人間性である。しかし、私の思惑は外れた。
あくまでも、書きたいことを書くので、読まれる方からすれば、物足りなさを感じる事も多いのかも知れない。その辺りは、これが私的なblogだと云うことで、お許し頂こう。 とにかく、戦犯は誰？的な物は書くつもりが無い。
それでは何故、前回までの内容の大半を、あたかも永島勝司氏がＷＪ崩壊の一番の戦犯だとでも言うかのような書き方をしているのかと思う方も居ると思い、事情を説明しようと思う。
永島氏は、プロレスマスコミを使い、自分の主張を展開している。福田社長との裁判沙汰が一段落したせいもあってのこととは思うが…、マスコミもそれを面白がって取り上げている。
福田社長は、反論する場を持たない。
長州力も、黙して語らない。
ジャーナリズムの鉄則として内容の裏は取るべきだと思う。
一方の話しだけ聞いて不特定多数の読者の前に、総てが、真実だとでも言うかのように投げ出す。
これでは、公平を欠く。
実際に、私の場合で云えば、永島氏の著書『地獄のアングル』の中で、私が協力者を探し、その協力者が出資した事に為っている。
実際は、前に述べたように、私からも500万円という金が出ている。
ついでに言えば、その金は、旗揚げ興行後にその大半を返済すると本人が、協力者である内田益三会長に告げている。
既に７年が過ぎようとしている。
この期間に、返済された金額は200万円に満たない。
銀行等の公的金融機関から、いかに低利で借り出したとしても、７年という期間を考えれば、利息にも足りないだろう。
そして私は、私を信用し永島氏に無条件で1500万円もの大金を出してくれた内田会長に申し訳が立たないので、２年を過ぎた頃から、月々、30万円を永島氏に代わって返済して来た。
更に、昨年の夏から、内田会長の債権を譲り受けている。
この７年間の間、永島氏は、この事の釈明に内田会長のもとを訪ねたのは、一度だけである。
今年に為ってからは、一度も入金は無い。
私達は、こんな人間の出まかせを信じ金を出したのである。
それでも、その金がＷＪ設立の為に、またはリキナガシマ企画の運営に、純粋に使用されていれば、計画した事業が頓挫したのだから諦めもつくし、請求など、私も内田会長もしなかった。
資本金として、リキナガシマ企画の口座に入った1000万円も含めて、ほとんどが氏の私的な事に使われたのだ。
私達の金は、ＷＪの為には、一円も使われなかった事が、無念なのだ。
金が振り込まれた翌日、永島氏から連絡が来た。
『…いやぁ、ありがとう、今ね、俺の古くからの友人のね、これが中京方面の顔役なんだけど、うん…そいつを通じてね、俺直接だといろいろ上手くない事も有るしさ…彼を通じてね、レスラー６人に無事振込みが終わりました。龍さん、ありがとね。』
本当を言うと、私はこの時の話しは、この時点で嘘だと思っていた。
理由のひとつは、単純に、勘であるのだが、他にも理由は有る。
ただ、ご本人の名誉にも関わるので、理由については、これ以上は述べるつもりはない。
しかしながら、永島氏本人もしくは、永島氏サイドの誰かなりが、このblogについて事実ではない等の反論をされた場合は、しっかりと、証拠に成る資料も提示して自身の正当性を証明する為に戦う覚悟である。
永島氏は、マスコミで『俺は逃げも隠れもしねぇ、債権者の電話には全部、対応してきた』と云っているが、それは、凄いことではなく当たり前の事だと思う。
誠意と正義の永島氏は、内田会長と私の事は蚊帳の外に置いた。 何故だろう。
とにかく、私の気持ちは、リキナガシマ企画の登記が終了した時点で、永島氏に協力する思いは失せていた。
永島氏との関係は、金銭の貸借だけに留めようと決めた。
私の、内田会長に対する責任として、全額が返済される迄は我慢して最低限の繋がりは維持しょう。
興行が始まれば、直ぐに返済されるはず、暫くの辛抱だ。
私が、かくも短期間にこのような考えに変わってしまったのは、金銭の事が理由ではない。
返済に関するトラブルは、後の問題であり、私が嫌になったのは、氏の、人間性である。しかし、私の思惑は外れた。
2009年06月23日
実録『ＷＪ』序- ６
２時間程の車中で、内田会長は私の話をずっと聞いていた。
昨今のプロレス事情、新日本プロレスの現状、永島勝司氏の立場などを説明する私の話を、頷きながら聞いていた。
私達が乗るクルマが京王プラザ・ホテルの
駐車場に到着し、エンジンを切り、私がクルマから降りようとしたときだった。
反対の助手席側から降りた内田会長は、クルマの屋根越しに私を見て『還暦間近の身で、なおも夢を追う。素晴らしいことじゃないか。そんな男の夢に力貸せないようでは、俺達は詰まらない人間になっちゃうよ。その夢に乗りましょう！』
私達は、永島勝司氏に会う前に、2000万円を出す事を決めた。
その日、私と内田会長は2000万円の現金を、どぶに棄て、永島勝司氏の夢に賭けた心をズタズタに引き裂かれた。
二人が、その事に気が付くのは、もっと後の事に成るのだが…。
二人は、ホテル内の郷土料理の店で会い、名刺を交換し、酒を酌み交わした。
話題は、これから永島氏が何をやりたいのか、今後のプロレス界の展望、アントニオ猪木との馴れ初め、確執から訣別。
長州力のこと。
永島氏が独り話し続け、内田会長は終始にこやかに話を聞いていた。
今話されていることが、やがて実現すれば間違いなく大事件である。
プロレスの歴史の一頁を飾るだろう、そしてその大事件のキャスティング・ボードを握る一人に成れるというのに、不思議に私の心の中に高揚感は無かった。
自らを『弱小中の弱小』と呼び、大半が無名の選手で構成された『レッスル夢ファクトリー』の設立時でさえ、私は、自身の内側から突き上げてくる熱い思いを、抑え切れずにいたものであるのに、そういったものが、何も湧いて来ないのだ。
もしかすると、私の心の奧の何かが、この計画の先行きを感じとっていたのだろう。
その夜、法人登記をいつにするかを、永島氏から伝えられ、私達はそこから逆算した日時を決め、その日に氏の口座に現金を振り込む事を約束した。
ともあれ、後日本人が云う様に、私達の出現が永島氏の夢を、手元に引き寄せた事は、間違いない。
内田会長と私は、1500万円を会長が、残り500万円を私の会社が出す事に決めた。
そして、約束の日が来た。
昼前に、一度、永島氏から連絡が来る。
内容は、今日の振込み宜しくと云う挨拶程度のものだった。
二度目の連絡は、少し声がいらついていた。『未だ入ってないんだけど、どうなってるんだろう』活字にすれば何でもない振込みを確認する言葉なのだが、その時の話し方は、まるでこちらが借りた金を期日に為っても返さない為に、催促されているような口ぶりで、正直腹が立った。
それでも約束は約束なので、私は状況を掌握して連絡すると告げ、電話を切った。
事情はこうだ、当時、内田会長の経営する管理会社はパブ、クラブに始まり焼肉屋まで、40店舗を超える店の経理、総務を一手に管轄していた。
永島氏にしてみれば、幾ら金を出せるのかしか興味はないのだろうが、�蠧眦弔髪召Σ饉劼榔陛膸瓩�、想像しているよりも遥かに多忙を極めていて、担当者が処理を後回しにした為だった。
３時少し前に、処理は終わり、永島氏の口座に2000万円の現金は無事、振り込まれた。
しかし、それまでの間に永島氏からは何度、電話が入ったろうか、最後の電話で永島氏は面白い事を言っていた。
完全にキレていた？と云うよりは、慌てて居た。
これを読んで下さっている方の中には、会社経営や経理、設立登記などに、知識の高い方もいらっしゃると思うが、税理士や司法書士に、会社設立登記を依頼したとして、登記手続き日時を決めて、何かの都合でそれを、遅延したとしても、段取りの悪さに恥をかき、司法書士や税理士の先生方に迷惑がられる事はあるだろう。
だからと言って取り返しの着かないような事にはならないだろう。いや、絶対に為らない。
ましてや、担保、保証人はもとより、借用書すら永島氏は書いていないのだ。
文句を言える立場ではないだろう。
いったい、世の中に、担保も保証人も無く借用書すら巻かずに、2000万円もの金を人に貸す人間はあまり居ないと思う。
もっとも、借用書だけは、かなり経ってからいやそうに書いて頂いた。
永島勝司という人格は、非常に興味深い。
氏の個人攻撃をするつもりは無いのだが、氏の人間性を語らずにはＷＪは語れない。
私は、嘘をついていない。
尾鰭も付けていない。
立場上、否定せざるを得ないだろうが、私が此処までに、日時以外の間違いはともかく、嘘を言っていないのは、永島氏本人が一番知っている筈だ。
ともかくＷＪは、産声をあげるべく、胎動を開始したのである。
昨今のプロレス事情、新日本プロレスの現状、永島勝司氏の立場などを説明する私の話を、頷きながら聞いていた。
私達が乗るクルマが京王プラザ・ホテルの
駐車場に到着し、エンジンを切り、私がクルマから降りようとしたときだった。
反対の助手席側から降りた内田会長は、クルマの屋根越しに私を見て『還暦間近の身で、なおも夢を追う。素晴らしいことじゃないか。そんな男の夢に力貸せないようでは、俺達は詰まらない人間になっちゃうよ。その夢に乗りましょう！』
私達は、永島勝司氏に会う前に、2000万円を出す事を決めた。
その日、私と内田会長は2000万円の現金を、どぶに棄て、永島勝司氏の夢に賭けた心をズタズタに引き裂かれた。
二人が、その事に気が付くのは、もっと後の事に成るのだが…。
二人は、ホテル内の郷土料理の店で会い、名刺を交換し、酒を酌み交わした。
話題は、これから永島氏が何をやりたいのか、今後のプロレス界の展望、アントニオ猪木との馴れ初め、確執から訣別。
長州力のこと。
永島氏が独り話し続け、内田会長は終始にこやかに話を聞いていた。
今話されていることが、やがて実現すれば間違いなく大事件である。
プロレスの歴史の一頁を飾るだろう、そしてその大事件のキャスティング・ボードを握る一人に成れるというのに、不思議に私の心の中に高揚感は無かった。
自らを『弱小中の弱小』と呼び、大半が無名の選手で構成された『レッスル夢ファクトリー』の設立時でさえ、私は、自身の内側から突き上げてくる熱い思いを、抑え切れずにいたものであるのに、そういったものが、何も湧いて来ないのだ。
もしかすると、私の心の奧の何かが、この計画の先行きを感じとっていたのだろう。
その夜、法人登記をいつにするかを、永島氏から伝えられ、私達はそこから逆算した日時を決め、その日に氏の口座に現金を振り込む事を約束した。
ともあれ、後日本人が云う様に、私達の出現が永島氏の夢を、手元に引き寄せた事は、間違いない。
内田会長と私は、1500万円を会長が、残り500万円を私の会社が出す事に決めた。
そして、約束の日が来た。
昼前に、一度、永島氏から連絡が来る。
内容は、今日の振込み宜しくと云う挨拶程度のものだった。
二度目の連絡は、少し声がいらついていた。『未だ入ってないんだけど、どうなってるんだろう』活字にすれば何でもない振込みを確認する言葉なのだが、その時の話し方は、まるでこちらが借りた金を期日に為っても返さない為に、催促されているような口ぶりで、正直腹が立った。
それでも約束は約束なので、私は状況を掌握して連絡すると告げ、電話を切った。
事情はこうだ、当時、内田会長の経営する管理会社はパブ、クラブに始まり焼肉屋まで、40店舗を超える店の経理、総務を一手に管轄していた。
永島氏にしてみれば、幾ら金を出せるのかしか興味はないのだろうが、�蠧眦弔髪召Σ饉劼榔陛膸瓩�、想像しているよりも遥かに多忙を極めていて、担当者が処理を後回しにした為だった。
３時少し前に、処理は終わり、永島氏の口座に2000万円の現金は無事、振り込まれた。
しかし、それまでの間に永島氏からは何度、電話が入ったろうか、最後の電話で永島氏は面白い事を言っていた。
完全にキレていた？と云うよりは、慌てて居た。
これを読んで下さっている方の中には、会社経営や経理、設立登記などに、知識の高い方もいらっしゃると思うが、税理士や司法書士に、会社設立登記を依頼したとして、登記手続き日時を決めて、何かの都合でそれを、遅延したとしても、段取りの悪さに恥をかき、司法書士や税理士の先生方に迷惑がられる事はあるだろう。
だからと言って取り返しの着かないような事にはならないだろう。いや、絶対に為らない。
ましてや、担保、保証人はもとより、借用書すら永島氏は書いていないのだ。
文句を言える立場ではないだろう。
いったい、世の中に、担保も保証人も無く借用書すら巻かずに、2000万円もの金を人に貸す人間はあまり居ないと思う。
もっとも、借用書だけは、かなり経ってからいやそうに書いて頂いた。
永島勝司という人格は、非常に興味深い。
氏の個人攻撃をするつもりは無いのだが、氏の人間性を語らずにはＷＪは語れない。
私は、嘘をついていない。
尾鰭も付けていない。
立場上、否定せざるを得ないだろうが、私が此処までに、日時以外の間違いはともかく、嘘を言っていないのは、永島氏本人が一番知っている筈だ。
ともかくＷＪは、産声をあげるべく、胎動を開始したのである。
2009年06月22日
実録『WＪ』序-５
ここで、もう一度言っておこう。
何故、私が今頃、『ＷＪ』について書き残す気持ちになったのかを。
団体が、事実上の崩壊を迎えた後、団体の内外から、駄目に為った理由が、あれこれと語られて来た。
また、２chなど、それぞれ様々に書かれているようだ。
ただ、戦犯を探し出すような事を続けても、ＷＪ崩壊の要因を見つけ出すことは出来ないと思う。
更に、運営の中心的メンバーだった者達が自分を善意の第三者の位置に置いた上で、誰がどうだの、誰のせいでこうなった等の論評は的を射ていないどころか、醜く滑稽である。
皆が、頑張って居たことは間違いない。
そして、皆の、その頑張りが足りなかった事も事実だった。
私は、誰が被害者だったのかと云えば、それは純粋にＷＪを応援した人達だと答える。
利害の枠組みの外側で、エールを贈り続けてくれた人々が被害者なのだ。
福田社長でも永島専務でも長州力でも谷津嘉章でもない。
もちろん、私でもない。
私を含む彼等は、誰もが何等かの被害を被っている。
だからと云って被害者だとは言えないだろう。
代表取締役や専務取締役が、自分を被害者だと言ってしまえば、加害者は存在しなくなる。
団体のエースがその団体の崩壊に関して、責任を放棄して被害者だなどと云えば、これはもう滑稽としか言いようがない。
いかほどの原稿料が手に入るのか知らないが暴露話の様な物を書いたり、そのての本に話題を提供する元ＷＪの首脳陣に名を連ねた人間に『自分が至らなかった事を謝罪し、自身の不徳を認めた上で、支援してくれた方々、ファンに話したいことが有るなら、それからどうぞ』言いたい。
それが出来ないなら、黙して語るべきではない。
福田社長も沈黙しているし、長州力も何も語ろうとはしていない。
しかるに何故、永島勝司元専務や谷津嘉章は事実を曲げてまでＷＪ崩壊の顛末を語るのか、理解しがたい。
私は、何年も前のプロレス団体の崩壊のいきさつなどが、人の興味を引くなどとは思わなかったが、最近なにかとＷＪの話題が、雑誌やネット上を賑わしていると聞いて、それならば本当の事を知って貰いたいと思ったのだ。
福田社長の心の底も、長州力の苦悩も、永島氏に、無能なフロントと、著書の中で切り捨てられた若者達がどんな思いで毎日を送って居たのか、知りたいなら本当の事を知って欲しい。
ベールの向こう側の真実には英雄もいなければ、悪人も居ない筈だ。
ただそこに居るのは、自分の弱さを克服出来ないでいる、心優しき人間の群れだけだろう。
それでは、次回更新から、また話を続けよう。
何故、私が今頃、『ＷＪ』について書き残す気持ちになったのかを。
団体が、事実上の崩壊を迎えた後、団体の内外から、駄目に為った理由が、あれこれと語られて来た。
また、２chなど、それぞれ様々に書かれているようだ。
ただ、戦犯を探し出すような事を続けても、ＷＪ崩壊の要因を見つけ出すことは出来ないと思う。
更に、運営の中心的メンバーだった者達が自分を善意の第三者の位置に置いた上で、誰がどうだの、誰のせいでこうなった等の論評は的を射ていないどころか、醜く滑稽である。
皆が、頑張って居たことは間違いない。
そして、皆の、その頑張りが足りなかった事も事実だった。
私は、誰が被害者だったのかと云えば、それは純粋にＷＪを応援した人達だと答える。
利害の枠組みの外側で、エールを贈り続けてくれた人々が被害者なのだ。
福田社長でも永島専務でも長州力でも谷津嘉章でもない。
もちろん、私でもない。
私を含む彼等は、誰もが何等かの被害を被っている。
だからと云って被害者だとは言えないだろう。
代表取締役や専務取締役が、自分を被害者だと言ってしまえば、加害者は存在しなくなる。
団体のエースがその団体の崩壊に関して、責任を放棄して被害者だなどと云えば、これはもう滑稽としか言いようがない。
いかほどの原稿料が手に入るのか知らないが暴露話の様な物を書いたり、そのての本に話題を提供する元ＷＪの首脳陣に名を連ねた人間に『自分が至らなかった事を謝罪し、自身の不徳を認めた上で、支援してくれた方々、ファンに話したいことが有るなら、それからどうぞ』言いたい。
それが出来ないなら、黙して語るべきではない。
福田社長も沈黙しているし、長州力も何も語ろうとはしていない。
しかるに何故、永島勝司元専務や谷津嘉章は事実を曲げてまでＷＪ崩壊の顛末を語るのか、理解しがたい。
私は、何年も前のプロレス団体の崩壊のいきさつなどが、人の興味を引くなどとは思わなかったが、最近なにかとＷＪの話題が、雑誌やネット上を賑わしていると聞いて、それならば本当の事を知って貰いたいと思ったのだ。
福田社長の心の底も、長州力の苦悩も、永島氏に、無能なフロントと、著書の中で切り捨てられた若者達がどんな思いで毎日を送って居たのか、知りたいなら本当の事を知って欲しい。
ベールの向こう側の真実には英雄もいなければ、悪人も居ない筈だ。
ただそこに居るのは、自分の弱さを克服出来ないでいる、心優しき人間の群れだけだろう。
それでは、次回更新から、また話を続けよう。
2009年06月21日
2009年06月20日
実録『ＷＪ』序- ４
私が永島勝司氏の個人口座に印税の立て替え分の40万円を振り込んだのは、翌日の午前中だった。
氏に、振込みが完了したことを電話で伝えると、氏は大変喜んでくれ、先々の事をいろいろ相談したいと上機嫌で語っていたが、私は冷めた気持ちで聞いていた。
この人と仕事の話をするのは、酒の席は絶対に避けなくては為らない。
受話器から聞こえて来る永島氏の声を聴きながら、私はそんな事を考えていた。
私は、永島氏の必要としている2000万円については、出す出さないの明言はしていなかった。
その前に相談したい人が居たからである。
その人とは、かつて私が、経営していたプロレス団体、『レッスル夢ファクトリー』のスポンサーだった内田益三氏だ。
何を相談したかったのか。
それは、永島勝司氏に協力したいと云うことと、私の会社の株主でもある内田会長にも参画して貰えないかと云うことだった。
けして自分の背負う荷物を軽くしようと思った訳ではない。
内田会長は、かつて谷津義章の社会人プロレスに一方ならぬ力添えをし、結果的に金銭的にも不愉快な思いをさせられ、その後はレッスル夢ファクトリーのスポンサーとして文字どおり私達をスポンサードしてくれた人である。
そしてその夢ファクの為に、億単位の金を注ぎ込み、その金は回収される事も無かった。私が、今の事業に職を移してから、毎月50万円づつ、会社とは別に私の社長給の中から返済した金が、約５年間で3000万円位には為ったと思うが、会長が出した総額には遠く及ばない。
感謝しても仕切れない私の人生の恩人である。
そんな内田会長に、少しでも、恩返しが出来ると私は思ってしまったのだが、今にして思えば、全くの見当違い、私は迷惑をかけた恩人に、迷惑の上塗りをしてしまった。
我ながら、馬鹿さ加減に呆れ返ってしまう。
何故、恩返しに成ると思ったのかと云えば、内田会長は、プロレス団体やレスラーに関わって、好い思いをした事が無かった。
金も、真心も大きく目減りさせていた。
永島勝司氏の構想では、ナガシマ企画を法人化したあと、団体を設立する。
その団体は、別法人にする。
そして、ナガシマ企画が団体の興行をプロデュースする。
グッズの販売等、付帯する事業の一切はナガシマ企画で取り仕切る。
別法人の団体に所属する選手は、長州力を始め、中西学、ライガー、川田利明、佐々木健介、越中詩郎、鈴木健想、まだまだ有名なレスラーの名前が出されているが、これも今に為っては虚しいだけなのでこのぐらいにしておこう。
法人登記をするにあたっては、社名は『リキナガシマ企画』にすると云う。
当時の私は、プロレス界に限定していえばと前置きした上で、これほどのチャンスは無いだろうと思った。
この事業に参画し、金を出すという事は、天下の長州力を擁する団体を動かせるという事なのだから、これはもう、乗るか反るかといえば、断然とは言えないまでも、乗るだろう。
私は、ありのままを、内田会長に伝えた。
内田会長は、『とにかく、永島さんと会いましょう！』
と言ったのである。
数日後、私の運転で内田会長と私は、永島勝司氏に会うために、京王プラザへ向かった。
この時の私達には、将来にこのような不愉快極まりない結末が待っているなどとは、夢にも思ってはいなかった。
氏に、振込みが完了したことを電話で伝えると、氏は大変喜んでくれ、先々の事をいろいろ相談したいと上機嫌で語っていたが、私は冷めた気持ちで聞いていた。
この人と仕事の話をするのは、酒の席は絶対に避けなくては為らない。
受話器から聞こえて来る永島氏の声を聴きながら、私はそんな事を考えていた。
私は、永島氏の必要としている2000万円については、出す出さないの明言はしていなかった。
その前に相談したい人が居たからである。
その人とは、かつて私が、経営していたプロレス団体、『レッスル夢ファクトリー』のスポンサーだった内田益三氏だ。
何を相談したかったのか。
それは、永島勝司氏に協力したいと云うことと、私の会社の株主でもある内田会長にも参画して貰えないかと云うことだった。
けして自分の背負う荷物を軽くしようと思った訳ではない。
内田会長は、かつて谷津義章の社会人プロレスに一方ならぬ力添えをし、結果的に金銭的にも不愉快な思いをさせられ、その後はレッスル夢ファクトリーのスポンサーとして文字どおり私達をスポンサードしてくれた人である。
そしてその夢ファクの為に、億単位の金を注ぎ込み、その金は回収される事も無かった。私が、今の事業に職を移してから、毎月50万円づつ、会社とは別に私の社長給の中から返済した金が、約５年間で3000万円位には為ったと思うが、会長が出した総額には遠く及ばない。
感謝しても仕切れない私の人生の恩人である。
そんな内田会長に、少しでも、恩返しが出来ると私は思ってしまったのだが、今にして思えば、全くの見当違い、私は迷惑をかけた恩人に、迷惑の上塗りをしてしまった。
我ながら、馬鹿さ加減に呆れ返ってしまう。
何故、恩返しに成ると思ったのかと云えば、内田会長は、プロレス団体やレスラーに関わって、好い思いをした事が無かった。
金も、真心も大きく目減りさせていた。
永島勝司氏の構想では、ナガシマ企画を法人化したあと、団体を設立する。
その団体は、別法人にする。
そして、ナガシマ企画が団体の興行をプロデュースする。
グッズの販売等、付帯する事業の一切はナガシマ企画で取り仕切る。
別法人の団体に所属する選手は、長州力を始め、中西学、ライガー、川田利明、佐々木健介、越中詩郎、鈴木健想、まだまだ有名なレスラーの名前が出されているが、これも今に為っては虚しいだけなのでこのぐらいにしておこう。
法人登記をするにあたっては、社名は『リキナガシマ企画』にすると云う。
当時の私は、プロレス界に限定していえばと前置きした上で、これほどのチャンスは無いだろうと思った。
この事業に参画し、金を出すという事は、天下の長州力を擁する団体を動かせるという事なのだから、これはもう、乗るか反るかといえば、断然とは言えないまでも、乗るだろう。
私は、ありのままを、内田会長に伝えた。
内田会長は、『とにかく、永島さんと会いましょう！』
と言ったのである。
数日後、私の運転で内田会長と私は、永島勝司氏に会うために、京王プラザへ向かった。
この時の私達には、将来にこのような不愉快極まりない結末が待っているなどとは、夢にも思ってはいなかった。
2009年06月17日
三沢選手の訃報の向こう側に見えた福田雅一
驚きの後から、悲しみが打ち寄せる。
それが退いた時に、無念の思いが、プロレスファンの心に残された。
三沢選手とは、未だ馬場さんの生前に一度、挨拶をした程度なので、とても知人と呼べるような間柄ではない。
後に、『ノア』を旗揚げされ、その営業の人や、永源さんとは交流もありましたが、三沢選手とは、会うことも無く、今日迄来ています。
頼まれて、私の地元で興行があった時は、少しばかりのチケットをお付き合いしていました。
そんな中で、私が一番印象に残っている事は、季節の挨拶を絶対に欠かさないことと、贈答して頂く品々が、頂いた側が、重宝に使える物ばかりだったことです。
社長である三沢選手の気配りか、側近の方々、奥様の陰の尽力なのかは判りませんが、いずれにしても、三沢選手の人徳であることに違いは無いでしょう。
この度の、訃報の後、辛かったことは、新聞やテレビで、三沢選手の事が報道される度にひきあいに出される、過去にリングで不帰の人と為った何人かのレスラー達の中に、福田雅一を見る事でした。
人に話したことはないが、今も朝夕に我が家の仏前で彼に回向を続けている。
福田雅一の死と云う事の手触りがやっと消えて、過去の思い出のひとつに為っていたのに、悲しみが戻って来てしまい、私は泣きました。
テレビの画面いっぱいに映し出された福田雅一は、逞しく、力強く眩しく、悲しかった。
三沢選手のゆかりの方々も、こんな思いを、これからいつまでもしなくてはならないのでしょう。
人が死ぬ。
避けられないことですが、嫌な事です。
ともあれ、三沢選手、お疲れ様でした。
ゆっくりお休み下さい。
それが退いた時に、無念の思いが、プロレスファンの心に残された。
三沢選手とは、未だ馬場さんの生前に一度、挨拶をした程度なので、とても知人と呼べるような間柄ではない。
後に、『ノア』を旗揚げされ、その営業の人や、永源さんとは交流もありましたが、三沢選手とは、会うことも無く、今日迄来ています。
頼まれて、私の地元で興行があった時は、少しばかりのチケットをお付き合いしていました。
そんな中で、私が一番印象に残っている事は、季節の挨拶を絶対に欠かさないことと、贈答して頂く品々が、頂いた側が、重宝に使える物ばかりだったことです。
社長である三沢選手の気配りか、側近の方々、奥様の陰の尽力なのかは判りませんが、いずれにしても、三沢選手の人徳であることに違いは無いでしょう。
この度の、訃報の後、辛かったことは、新聞やテレビで、三沢選手の事が報道される度にひきあいに出される、過去にリングで不帰の人と為った何人かのレスラー達の中に、福田雅一を見る事でした。
人に話したことはないが、今も朝夕に我が家の仏前で彼に回向を続けている。
福田雅一の死と云う事の手触りがやっと消えて、過去の思い出のひとつに為っていたのに、悲しみが戻って来てしまい、私は泣きました。
テレビの画面いっぱいに映し出された福田雅一は、逞しく、力強く眩しく、悲しかった。
三沢選手のゆかりの方々も、こんな思いを、これからいつまでもしなくてはならないのでしょう。
人が死ぬ。
避けられないことですが、嫌な事です。
ともあれ、三沢選手、お疲れ様でした。
ゆっくりお休み下さい。
2009年06月12日
実録『WＪ』序-３
『当面の支払いや、預金をいじらずに、使える現金で無理の無い金額って、幾らぐらいかな。』
永島氏と会った翌日の午後、私は会社の経理全般を任せている人間に電話を入れ、会社の業務に何等影響を与えない金額がどれほどかを尋ねた。
経理の人間からは、無理なくと云うなら、500万円〜600万円、預金を崩すなら、2000万円は問題無いとの答えが返って来た。
肚は決まった。
何であれ、永島氏に金を出そう、もう一度氏に会い、今後について、金の用途、返済方法等、細々と聞かなくては為らない。
最初に書いたように、ＷＪの事を文章にすることなど、考えてもいなかった為に、何時、何処で、誰がという部分が不明確な処が有る事を、ご容赦願いたいのだが、次に永島氏と会ったのは最初に会ってから一週間と経たないうちのことだったように思う。
待ち合わせ場所は、最初の時と同じ居酒屋。
永島氏は、私とは別に出版関係の人達とも、待ち合わせていたらしく私が店の暖簾(のれん)をくぐった時には、その人達となにやら打ち合わせの最中だった。
女性の編集者ともうひとりの男性スタッフに紹介されて、名刺を交換した。
『背広レスラー』とかいうタイトルの氏の本の出版についての打ち合わせだと教えられ、その席の隅に座り、打ち合わせの終了を待った。
永島勝司氏の著作とは云っても、原稿用紙に向かって最初から最後まで、氏が書くという事ではなく、彼の口述したものを、整理してライターが文章化していくらしく、その日はそれの打ち合わせの様だった。
打ち合わせの大半は本の内容についてよりも、印税の支払を前倒し出来ないかとか、額面は幾らなのかとか、そんな話題が多かったようだ。
出版社のシステムとしては、印税の前払いは有り、だそうだが、氏が希望する期日は無理だと云うのが編集者の見解で、そこから先は平行線だった。
永島氏は、よほど手元不用意らしく、何度も頼み込んでいたのだが、女性編集者の方も退く訳にはいかないらしく、私は余計なお節介とは思ったが、その前払いの立て替えを申し出た。
何故その時、私はそんな出過ぎた真似をしたのだろうか。
理由は簡単だ。
『貧すれば鈍する』と云う言葉が有るが、出版社の人達と話をしている永島氏を見ているのが辛かったからである。
打ち合わせ中も、氏の酒のピッチは下がらず、酔うほどに言葉遣いも下卑たものに成り、さらに態度は尊大だった。
彼等と永島氏との人間関係では、許される範疇(はんちゅう)なのだろうが、見ている私には不愉快この上ないやり取りが、と云うより一方的に、永島氏の言動が、不快なものだった。
年齢的にも、それ迄の関係から云っても、立場の上の人に、金銭の手助けを、頼まれもしないのに申し出るというのは時として、無礼な事だろう。
解っていた。
しかし、あえて私は申し出たのだ。
お叱りを被れば、素直に詫びれば好い。
『えっ、いいの？悪いねぇ龍さん』
話は簡単だった。
印税の立て替えが成立すると安心したのだろうか、永島氏は一気に酔いが回ったらしく、出版社との打ち合わせも此処で終了。
私との打ち合わせは始まることは無かった。
帰り際、女性編集者は、立て替えの件の礼を述べて店を出て行ったが、笑顔の口元に嫌気がさしていた様に見えたのは、私の考え過ぎだろうか。
酔い潰れてしまった永島氏を、店の女将の帰りの手配はするからと云う言葉に甘え、その場に残し私は店を出た。
独りになった私の脳裏に、永島勝司氏の人格に対して、小さな小さな『？』が芽生えて居た。
それは、プロレス界の風評や噂話の類から生じたものではない。
そして、その小さな小さな『？』は、その後も消える事は無かった。
永島氏と会った翌日の午後、私は会社の経理全般を任せている人間に電話を入れ、会社の業務に何等影響を与えない金額がどれほどかを尋ねた。
経理の人間からは、無理なくと云うなら、500万円〜600万円、預金を崩すなら、2000万円は問題無いとの答えが返って来た。
肚は決まった。
何であれ、永島氏に金を出そう、もう一度氏に会い、今後について、金の用途、返済方法等、細々と聞かなくては為らない。
最初に書いたように、ＷＪの事を文章にすることなど、考えてもいなかった為に、何時、何処で、誰がという部分が不明確な処が有る事を、ご容赦願いたいのだが、次に永島氏と会ったのは最初に会ってから一週間と経たないうちのことだったように思う。
待ち合わせ場所は、最初の時と同じ居酒屋。
永島氏は、私とは別に出版関係の人達とも、待ち合わせていたらしく私が店の暖簾(のれん)をくぐった時には、その人達となにやら打ち合わせの最中だった。
女性の編集者ともうひとりの男性スタッフに紹介されて、名刺を交換した。
『背広レスラー』とかいうタイトルの氏の本の出版についての打ち合わせだと教えられ、その席の隅に座り、打ち合わせの終了を待った。
永島勝司氏の著作とは云っても、原稿用紙に向かって最初から最後まで、氏が書くという事ではなく、彼の口述したものを、整理してライターが文章化していくらしく、その日はそれの打ち合わせの様だった。
打ち合わせの大半は本の内容についてよりも、印税の支払を前倒し出来ないかとか、額面は幾らなのかとか、そんな話題が多かったようだ。
出版社のシステムとしては、印税の前払いは有り、だそうだが、氏が希望する期日は無理だと云うのが編集者の見解で、そこから先は平行線だった。
永島氏は、よほど手元不用意らしく、何度も頼み込んでいたのだが、女性編集者の方も退く訳にはいかないらしく、私は余計なお節介とは思ったが、その前払いの立て替えを申し出た。
何故その時、私はそんな出過ぎた真似をしたのだろうか。
理由は簡単だ。
『貧すれば鈍する』と云う言葉が有るが、出版社の人達と話をしている永島氏を見ているのが辛かったからである。
打ち合わせ中も、氏の酒のピッチは下がらず、酔うほどに言葉遣いも下卑たものに成り、さらに態度は尊大だった。
彼等と永島氏との人間関係では、許される範疇(はんちゅう)なのだろうが、見ている私には不愉快この上ないやり取りが、と云うより一方的に、永島氏の言動が、不快なものだった。
年齢的にも、それ迄の関係から云っても、立場の上の人に、金銭の手助けを、頼まれもしないのに申し出るというのは時として、無礼な事だろう。
解っていた。
しかし、あえて私は申し出たのだ。
お叱りを被れば、素直に詫びれば好い。
『えっ、いいの？悪いねぇ龍さん』
話は簡単だった。
印税の立て替えが成立すると安心したのだろうか、永島氏は一気に酔いが回ったらしく、出版社との打ち合わせも此処で終了。
私との打ち合わせは始まることは無かった。
帰り際、女性編集者は、立て替えの件の礼を述べて店を出て行ったが、笑顔の口元に嫌気がさしていた様に見えたのは、私の考え過ぎだろうか。
酔い潰れてしまった永島氏を、店の女将の帰りの手配はするからと云う言葉に甘え、その場に残し私は店を出た。
独りになった私の脳裏に、永島勝司氏の人格に対して、小さな小さな『？』が芽生えて居た。
それは、プロレス界の風評や噂話の類から生じたものではない。
そして、その小さな小さな『？』は、その後も消える事は無かった。
2009年06月06日
実録『WＪ』序-２
『本当か高田君、有り難いなぁ』
『使って下さい、あんな物でよければ…』
その夜、そんな会話が交わされたが、その時点では、永島勝司氏の側に具体的な事は何ひとつ決まっていた訳ではなく、私の方も、将来的に氏が、興行でも打つ時が有ったなら、必要に応じてリングを貸せばいいと思った程度の事だった。
ところが『リング有りますよ…』の、軽い気持ちで放たれた私のひと言は、永島氏の頭の中のシナップスに新たな情報として書き込まれたようだった。
何も考えていない筈の永島氏の口から、酒の勢いも手伝ってか、様々な構想が語られた。
曰(いわく)、ナガシマ企画と云う肩書きの名刺を刷ったが、法人登記している訳ではないので、法人化したい。やがて長州力が新日本を飛び出した時には、その受け皿にしたい。
曰、プロレス団体にするには多額の資金が必要となるしリスクも大きい。
むしろ、プロデュースを中心として、興行会社の形態にはしない。映像、グッズ、その他のプロレスに関する様々な事業を展開する。曰、唯一の所属選手は長州力である。
その長州力と総合の格闘家の試合を、もちろん総合のリングで企画する、既に水面下で交渉は始まっている。
他にも高額のギャラである処からオファーが来ている。
その名前を聞いたときは、ゾクゾクしたことを今でも、はっきりと覚えている。
『しかしなぁ、金が無いんだ、金が…』
この夜遅く、家路に着く私の頭の中を、様々な思いが浮かんでは消えていた。
私が、夢ファクトリーを閉じてから、三年が過ぎようとしていた。
別れ際に永島氏は取り敢えず2000万円が大至急要るんだと私に告げた。
当時の私には、どうすることも出来ないという金額では無かった。
ただ金が無いと云うだけで、チャンスを逃した人が古今東西、どれだけ居たことだろう。
この私も、あと少し資金力があれば、あんな惨めな思いをすることは無かったろう、還暦間近い永島氏の事を思うと、出来る事ならと云う気持ちが、次第に私の中で膨らんで行った。
ただ、矛盾するかも知れないが、私の中には釈然としない思いが居座っていたのも事実だ。
何故かと云えば、氏の目指す夢への動力源が意趣遺恨だからである、根底に恨みつらみが横たわっている内は、明朗な目標とは為らないと私は思うからだ。まして、その夢や目標に到達するには、一般的に言って自分独りではなく多くの人の協力を必要とする。
同じ夢を共有出来たとしても、単純に夢を追うことと、その根底に遺恨なり復讐という感情を忍ばせて居るのとでは、始めから微妙にズレを生じてしまうと思う。
それに、夢は共有出来たとしても、復讐心などは直接同じ被害を被らない限り、温度差が生じてしまうのは当然、動機が不純と言ってしまえば当事者には失礼とは思うものの、やはり、永島氏の口から何度も聞かされた『猪木の野郎云々』は、耳障りだった事だけは確かだ。
ともあれ、その日から永島氏からの連絡は頻繁になった。
永島氏の会社設立とそれに関わる協力者探しは、さしたる進展も無く時間は過ぎるばかりのようだった。
そうこうしているうちに、永島氏の言っていた通り、長州力が新日本プロレスを電撃的に退団。
何かが動き出した。
私は、志半ばにしてプロレス界を後にはしたが、この当時、プロレス界に復帰したいと云う気持ちはまったく無かった。
今の仕事で力を貯えながら、人生の仕上げの準備に入ろうと思っていた。
しかし、私の思いとは反対に、私の立ち位置は、少しづつプロレス界に近付いていたのだった。
『使って下さい、あんな物でよければ…』
その夜、そんな会話が交わされたが、その時点では、永島勝司氏の側に具体的な事は何ひとつ決まっていた訳ではなく、私の方も、将来的に氏が、興行でも打つ時が有ったなら、必要に応じてリングを貸せばいいと思った程度の事だった。
ところが『リング有りますよ…』の、軽い気持ちで放たれた私のひと言は、永島氏の頭の中のシナップスに新たな情報として書き込まれたようだった。
何も考えていない筈の永島氏の口から、酒の勢いも手伝ってか、様々な構想が語られた。
曰(いわく)、ナガシマ企画と云う肩書きの名刺を刷ったが、法人登記している訳ではないので、法人化したい。やがて長州力が新日本を飛び出した時には、その受け皿にしたい。
曰、プロレス団体にするには多額の資金が必要となるしリスクも大きい。
むしろ、プロデュースを中心として、興行会社の形態にはしない。映像、グッズ、その他のプロレスに関する様々な事業を展開する。曰、唯一の所属選手は長州力である。
その長州力と総合の格闘家の試合を、もちろん総合のリングで企画する、既に水面下で交渉は始まっている。
他にも高額のギャラである処からオファーが来ている。
その名前を聞いたときは、ゾクゾクしたことを今でも、はっきりと覚えている。
『しかしなぁ、金が無いんだ、金が…』
この夜遅く、家路に着く私の頭の中を、様々な思いが浮かんでは消えていた。
私が、夢ファクトリーを閉じてから、三年が過ぎようとしていた。
別れ際に永島氏は取り敢えず2000万円が大至急要るんだと私に告げた。
当時の私には、どうすることも出来ないという金額では無かった。
ただ金が無いと云うだけで、チャンスを逃した人が古今東西、どれだけ居たことだろう。
この私も、あと少し資金力があれば、あんな惨めな思いをすることは無かったろう、還暦間近い永島氏の事を思うと、出来る事ならと云う気持ちが、次第に私の中で膨らんで行った。
ただ、矛盾するかも知れないが、私の中には釈然としない思いが居座っていたのも事実だ。
何故かと云えば、氏の目指す夢への動力源が意趣遺恨だからである、根底に恨みつらみが横たわっている内は、明朗な目標とは為らないと私は思うからだ。まして、その夢や目標に到達するには、一般的に言って自分独りではなく多くの人の協力を必要とする。
同じ夢を共有出来たとしても、単純に夢を追うことと、その根底に遺恨なり復讐という感情を忍ばせて居るのとでは、始めから微妙にズレを生じてしまうと思う。
それに、夢は共有出来たとしても、復讐心などは直接同じ被害を被らない限り、温度差が生じてしまうのは当然、動機が不純と言ってしまえば当事者には失礼とは思うものの、やはり、永島氏の口から何度も聞かされた『猪木の野郎云々』は、耳障りだった事だけは確かだ。
ともあれ、その日から永島氏からの連絡は頻繁になった。
永島氏の会社設立とそれに関わる協力者探しは、さしたる進展も無く時間は過ぎるばかりのようだった。
そうこうしているうちに、永島氏の言っていた通り、長州力が新日本プロレスを電撃的に退団。
何かが動き出した。
私は、志半ばにしてプロレス界を後にはしたが、この当時、プロレス界に復帰したいと云う気持ちはまったく無かった。
今の仕事で力を貯えながら、人生の仕上げの準備に入ろうと思っていた。
しかし、私の思いとは反対に、私の立ち位置は、少しづつプロレス界に近付いていたのだった。
2009年06月05日
実録『ＷＪ』 序-１
四谷三丁目から坂を半分程降った処にその店は在った。
小さな間口ながら、洒落た和風のインテリアで、間口同様、店内も狭かったが、落ち着ける店だったと記憶している。
私は、こんな事を書き残すつもりが無かったために、時系列がさっぱりなのだが…。
多分、2002年の３月の半ば頃だったと思う。その数日前、スポーツ誌上で新日本プロレスの取締役、永島勝司氏が退職した事を知った私は、氏に電話を入れ永年の労をねぎらった。
『おう！高田君、久しぶり。』
『お疲れ様です。何かいろいろ大変だったようですね、新団体でもやるんですか？』
『いやいや、そんなモノやらないよ、やらないって、ウン。』氏は笑いながら電話の向こう側で否定した。
プロレス界からボロボロになって零れ落ちて３年、何とか今の仕事で人並みの生活を取り戻していた私には、氏が今、どのような思いで居るのか、容易に察する事が出来た。
私は、都内で会う約束をして電話を切った。
会って酒でも振る舞って思い出話でも、と思っただけの、おそらくは永島氏もその程度の軽い気持ちだったと思う。
人には、必ず敵と味方が居る。
アグレッシブに活動する人ほど、その周囲は賛否両論、囂(かまびす)しいものだ。
永島氏も、そう云った類の人物だった。
私は、風聞を人物評価の中心には据えない。あくまでも、自分が相手をどう見るかだと思う。
アントニオ猪木の壊刀(ふところがたな)とか、平成の仕掛人などの形容詞の対極に、金、女にまつわる醜聞もかなり囁かれていた。
私は、そのどちらの人物評も鵜呑みにはしなかった。
少なくとも、弱小団体の代表だった頃の私に関わって居るときの永島氏は、恩人と呼ばなくてはならない存在だった。
私は、永島勝司と云う人間に好印象を持っていたし、当時を振り返って感謝の思いは今もなくしてはいない。
それほど、レッスル夢ファクトリーにとって新日本プロレスの永島勝司氏の影響力は大だった。
数日後の再会は、夕暮れと共に、河岸(かし)を変えて冒頭の飲み屋へ。
たわいもない世間話から、プロレス界の近況へ話題は移り、呑むほどに、氏の心の内側が吐露されて行く。
『アントニオ猪木に一泡吹かせたい！』
『長州力も新日本を早晩辞めるだろう』
『会社を創ってプロレスのプロデュースを…』次第に永島氏の話は熱を帯びて来るが、実現させる事の難しさも同時に伝わって来た。
人には必ず全盛期と云うものが在る。
そして、終焉も必ずやって来る。
氏は老いはじめていた。
久しぶりに見る氏には、間違いなく老いが忍び寄っていた。
私は、言った。
『俺、リングならまだ持ってますよ』
この言葉に、永島氏は反応した。
テーブルの上に盃を置くと、おどろいたような、何かの踏ん切りが着いたような視線で私を見た。
酔いで真っ赤に充血した眼に、正気が戻っていた。
小さな間口ながら、洒落た和風のインテリアで、間口同様、店内も狭かったが、落ち着ける店だったと記憶している。
私は、こんな事を書き残すつもりが無かったために、時系列がさっぱりなのだが…。
多分、2002年の３月の半ば頃だったと思う。その数日前、スポーツ誌上で新日本プロレスの取締役、永島勝司氏が退職した事を知った私は、氏に電話を入れ永年の労をねぎらった。
『おう！高田君、久しぶり。』
『お疲れ様です。何かいろいろ大変だったようですね、新団体でもやるんですか？』
『いやいや、そんなモノやらないよ、やらないって、ウン。』氏は笑いながら電話の向こう側で否定した。
プロレス界からボロボロになって零れ落ちて３年、何とか今の仕事で人並みの生活を取り戻していた私には、氏が今、どのような思いで居るのか、容易に察する事が出来た。
私は、都内で会う約束をして電話を切った。
会って酒でも振る舞って思い出話でも、と思っただけの、おそらくは永島氏もその程度の軽い気持ちだったと思う。
人には、必ず敵と味方が居る。
アグレッシブに活動する人ほど、その周囲は賛否両論、囂(かまびす)しいものだ。
永島氏も、そう云った類の人物だった。
私は、風聞を人物評価の中心には据えない。あくまでも、自分が相手をどう見るかだと思う。
アントニオ猪木の壊刀(ふところがたな)とか、平成の仕掛人などの形容詞の対極に、金、女にまつわる醜聞もかなり囁かれていた。
私は、そのどちらの人物評も鵜呑みにはしなかった。
少なくとも、弱小団体の代表だった頃の私に関わって居るときの永島氏は、恩人と呼ばなくてはならない存在だった。
私は、永島勝司と云う人間に好印象を持っていたし、当時を振り返って感謝の思いは今もなくしてはいない。
それほど、レッスル夢ファクトリーにとって新日本プロレスの永島勝司氏の影響力は大だった。
数日後の再会は、夕暮れと共に、河岸(かし)を変えて冒頭の飲み屋へ。
たわいもない世間話から、プロレス界の近況へ話題は移り、呑むほどに、氏の心の内側が吐露されて行く。
『アントニオ猪木に一泡吹かせたい！』
『長州力も新日本を早晩辞めるだろう』
『会社を創ってプロレスのプロデュースを…』次第に永島氏の話は熱を帯びて来るが、実現させる事の難しさも同時に伝わって来た。
人には必ず全盛期と云うものが在る。
そして、終焉も必ずやって来る。
氏は老いはじめていた。
久しぶりに見る氏には、間違いなく老いが忍び寄っていた。
私は、言った。
『俺、リングならまだ持ってますよ』
この言葉に、永島氏は反応した。
テーブルの上に盃を置くと、おどろいたような、何かの踏ん切りが着いたような視線で私を見た。
酔いで真っ赤に充血した眼に、正気が戻っていた。