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あきれ返るような不正が農林水産省で横行していたことが、またも明るみに出た。
地方の農政事務所や農政局の専門官らが農家、農協を訪ね、米麦の在庫や価格を調べる業務がある。3年分を点検したところ、計34人が調査にも行かずウソの報告を繰り返していた。先月には3人の同様の不正も発覚した。
駐車場で時間をつぶしただけで出張費を受け取ったり、農家への謝礼品を懐に入れたりした職員もいた。「次々と協力を断られ、面倒臭くなった」。職員らはそう話したという。
コメの生産調整を決める基礎データを集める仕事である。虚偽分はごく一部に過ぎず、全体には影響ないというが、コメ政策に対する信頼を大きく損なったのは間違いない。
農水省は今回の不正発覚を受け、7種類あった調査を三つにまとめて回数も減らすという。それこそ、必要性の薄い調査が漫然と続けられていたことの証左というべきだろう。
全国に39ある農政事務所では、1万数千人の職員がコメ検査や統計作業などに当たっている。政府がコメを全量買い上げる時代はすでに終わったにもかかわらず、大きな組織を抱え続けてきた矛盾が露呈した形だ。
昨年起きた汚染米の食用転売問題では、農政事務所が業者に100回近く立ち入りながら不正を見逃していた。本省と出先の意思疎通のまずさも問題の背景として指摘された。
この反省に立って昨年12月、省改革推進本部が発足し、事務次官が地方を行脚するなどして、「お役所体質」改善の取り組みが進められてきた。
そのさなかにも不正が続いていたわけだ。「しょせん自分たちは関係ないという意識が蔓延(まんえん)している」。石破農水相は記者会見でそう嘆いた。
役割を終えた農政事務所は廃止するしかない。石破大臣もその方向を打ち出し、8月までに機構案をまとめるという。残すべき仕事をどこに移すかなど、知恵の絞りどころだ。看板の掛け替えでごまかしてはならない。
同省ではほかにも、地方の労組役員のヤミ専従疑惑が浮上した。さらにその調査結果を隠したとして、3月には本省の秘書課長が更迭された。不適切な労使慣行が長年続いていたことも、次々と明らかになっている。
旧来のやり方を惰性で続け、チェックが働かない。問題への対応が後手に回って傷を深める。本省の混乱で地方との距離も広がる。この役所の「組織疲労」はきわめて重症だ。労使関係も含めて問題点を洗い出し、職員の意識改革を徹底すべきだ。
食の安全、農業の将来像など、農水省に課せられた課題は多い。国民の目線に立った「政策官庁」として出直すほかあるまい。
衆院と参院がそれぞれ、「核兵器廃絶に向けた取り組みの強化を求める決議」を採択した。
唯一の被爆国として日本は先頭に立って行動する責務がある▽政府は核兵器廃絶の動きを世界的な潮流とすべく努力する▽包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効など、核廃絶・核軍縮・核不拡散に向けた努力を一層強化すべきだ――。
「核のない世界」をめざすと宣言したオバマ米大統領のプラハ演説を受けて、行動する姿勢を示したい。今回の決議は、衆院の河野洋平、横路孝弘の正副議長のそういう呼びかけで全会一致で採択した。
文案づくりの過程で民主党は、核攻撃を受けない限り核兵器は使わないという「先制不使用」の文言を盛り込めないか模索した。核保有国がこの原則を受け入れれば、非核国は核攻撃の対象にはならなくなる。
だが、「核抑止力を弱めることになる」と日本政府が否定的なこともあって自民党が難色を示し、断念したという。結局、決議の中身には、政府の従来の立場から踏み出した点はない。米国の「核の傘」をめぐる議論も決議には反映されていない。
とはいえ、北朝鮮の核開発をにらんで自民党など一部に核保有論もくすぶる。そんななかで立法府として意思を明確に示したことには意義がある。
問題は、これから日本の政治家たちがどういう行動をしていくかだ。
ひとつは、選挙でこの問題を取り上げ、有権者に訴えていくことだろう。例えば、民主党の岡田克也幹事長は米国に先制不使用を宣言するよう求めるべきだと主張しているし、公明党内にも同様の意見がある。これに対して自民党はどう答えるだろうか。
さらに重要なのは、核保有国への働きかけだ。オバマ大統領がめざすCTBT批准には米上院で3分の2の賛成が必要だが、共和党内に反対論が根強い。同盟国の議員として説得すべきだろう。同時に、米国にらみで全国人民代表大会での批准承認手続きを先延ばしにしている中国にも、積極的に議員外交を仕掛けてもらいたい。
決議を呼びかけた河野議長は昨夏、G8下院議長会議を広島で開き、米国のペロシ議長を被爆地に招くなど、議員として軍縮活動を引っ張ってきた。その河野氏は今期で引退する。
北朝鮮の核やミサイルの実験を受けて敵基地攻撃論も一部に出ている。そういう現状に河野氏ら軍縮に関心を寄せてきた議員たちの危機感は強い。
対人地雷やクラスター爆弾の禁止条約では、議員がNGOと連携して政府の背中を押し、実現にこぎつけた。核軍縮の分野でも、新しい発想と工夫で、河野氏の後を継ぐような議員たちの行動を期待したい。