これまで繁華街に限られていた警察の防犯カメラ設置が、住宅街にも拡大されることになった。犯罪抑止効果や犯人逮捕など捜査活動への有効利用が期待される一方で、住民のプライバシー侵害も懸念される。
警察庁が岡山市など全国15地域の住宅街にカメラを設け、来年1月ごろから運用を始めることを明らかにした。関連費用を盛り込んだ2009年度補正予算が成立したからである。
機材や映像データの管理は、住民の防犯ボランティア組織に委託する。警察は現在、全国の繁華街に363台のカメラをセットしているが、住宅街への設置と住民側への委託は、いずれも初めてだ。戸惑いを感じる人も多いのではないか。
犯罪の多発に伴い、警察が運用する繁華街のカメラをはじめ、民間レベルでもマンションや駐車場などでよく目にするようになった。悪いことを企ててなくても、何か監視されているようで嫌な思いをする。録画データがどう扱われているのかも気にかかる。これが一般的な心情だろう。
警察庁の計画では、14都府県の15地域で、小中学校の登下校路を中心に25台ずつカメラを設置する。映像モニターや録画機器は、公民館など警察以外の施設に集約し、住民組織が登下校時だけ画面をチェックすることなどを想定しているという。
要するに子どもの安全対策を主にしている。警察のパトロール強化には限界があり、地元のボランティアが人海戦術で見守りなどをしている地域が増えている。だが、ボランティアの高齢化や働く人の増加などで、活動に支障が生じているケースも少なくないという。
住宅街へのカメラ設置を求める声があるのは、理解できないわけではない。しかし、不特定多数の人でにぎわう繁華街に比べ、住宅街はプライバシーの侵害につながりやすいなどの批判は根強い。微妙な問題だけに、準備不足の感は否めない。
今回の対象地域では、受け皿の住民組織さえ結成されていない所もあるという。予算獲得で見切り発車したと批判されても仕方あるまい。設置を求めていた地域でも、歓迎と不安が交錯している例もあるようだ。
最大の課題は録画データの取り扱いだろう。警察庁は犯罪捜査の際だけ使うとするが、日常的には民間が管理する。住民への周知と合意の徹底が欠かせない。透明性の高い厳格なルールづくりも必要だ。拙速な対応は禍根を残すだけである。
今春廃止された、生活保護を受けている母子家庭への母子加算を復活させる生活保護法改正案が26日、参院本会議で民主党など野党の賛成で可決された。与党は棄権し、反対姿勢であることから、衆院での成立は困難とみられている。
母子加算は、2005年度から段階的に減額され、今年4月に打ち切られた。改正案は野党4党が提出し、減額以前と同じ額を、10月から再び支給するとしている。東京23区では月額約2万3千円で、必要な年間経費は約180億円と見積もる。
厚生労働省は加算廃止の根拠として、厚労相の諮問機関である社会保障審議会の専門委員会が04年にまとめた報告を踏まえ、母子家庭が受給できる生活保護費の年間総額が、生活保護を受けていない母子家庭の平均年収を上回っていることを挙げる。加算廃止の代わりに母親の就労を促すため働いていれば最高で月1万円を支給する手当を新設した。
舛添要一厚労相は、今年2月の衆院予算委員会で「母子加算をカットするのは、仕事についてもらいたいからだ。就業支援策を拡充したい」と述べた。だが、不況が深刻化し、解雇や職探しの難航で母子家庭の生活は厳しさを増している。肝心の就業支援は不十分だ。
厚労省が加算廃止の根拠とした専門委員会の報告についても、当時の委員長が「加算を削れと言ったつもりはない」と証言した。比較対象とした一般母子家庭のサンプル数が32世帯(子ども1人)と少なかったことも判明し、データとして有効か疑問が深まった。
舛添厚労相は「加算復活ですべてが解決するわけではない。さまざまな政策が必要だ」と語る。早急にひとり親世帯を支える総合施策を打ち出すべきだ。
(2009年6月27日掲載)