きょうの社説 2009年6月27日

◎「育休切り」増加 「強欲資本主義」では困る
 育児休業を取った社員を不当に解雇する「育休切り」が北陸でも増えている。世界的な 不況の影響なのだろうが、妊娠や出産、育児休業の取得を理由に退職を強要するなど、あってはならぬことだ。次代を担う子どもたちを安心して産み、育てていける社会の実現は、少子化対策の根幹であり、すべての企業が薄く広く負担を分け合っていくほかない。

 育児休業制度の普及を妨げるのは、経済合理性のみを追求し、弱い立場の者を切り捨て て当然と考える利益至上主義の発想である。石川労働局に寄せられた相談には、育休を取った人への退職強要やアルバイト契約への変更、復職後の不利な配置転換などがあった。こんな不法な要求をして恥じぬ企業がこの先、業績を伸ばしていけるとは思えない。

 「強欲資本主義」の象徴である米ウオール街は金融危機を引き起こし、世界を塗炭の苦 しみに追いやった。強欲で自分勝手な企業は社会を不幸にする。経営が苦しく、雇用調整に走らざるを得ないケースもあるだろうが、育児休業の取得を理由とした解雇や給料カットなどは明確な育児・介護休業法違反であり、経営者のモラルがより厳しく問われてしかるべきだ。

 少子化に歯止めがかからないのは、日本の社会の仕組みが子どもを産み育てる環境にそ ぐわなくなっているためだろう。子どもの数が減れば国力は衰え、年金、医療、介護などの社会保障制度の安定維持も難しくなる。経営者の意識変革はもとより、社会全体の理解を深めていく必要がある。

 企業から見れば、育児休業明けで復帰してくる社員は、使い勝手が悪い存在かもしれな い。ブランクが長いため、「即戦力」になりにくく、残業も命じにくい。育児・介護休業法の改正案の成立により、企業は新たに3歳未満の子どもがいる従業員に対する短時間勤務や残業免除の義務を負うことになり、負担はますます重くなる。

 だが、社会全体で子育てを支援し、育休制度を定着させていかないと、日本の未来は開 けない。長い目で見れば、目先の不利益を補って余りある大きな果実が得られると思うからである。

◎政府の日航支援 地方路線維持策も同時に
 経営不振が続く日本航空に対し、政府が融資に保証を付け、経営再建を指導、監督する ことになった。民間企業を救済する異例の対応とはいえ、日航が担う国内外の航空ネットワークを考えればやむを得ない面がある。

 燃油高騰や景気悪化の影響があったにせよ、その時々の風向き次第でいとも簡単に失速 して路線削減に追い込まれる日航の不安定さは、航空会社の公的役割を考えれば頼りなさを感じる。政府監視の下で抜本的な経営改革を進め、旧特殊法人時代からの政府依存体質や高コスト構造ときっぱり決別してもらいたい。

 日航が示した中期経営計画の方向性では、地方路線には燃費の良い小型機を投入し、需 要に見合った国内路線ネットワークの再構築が柱の一つになっている。その切り替えの成否は、北陸新幹線開業後の北陸の空の便にも大きな影響を与えるだろう。政府が支援に乗り出すからには、航空会社が地方路線を維持できる公的な仕組みも合わせて検討してほしい。

 日航は2009年3月期決算で売上高が前期に比べ10%以上落ち込み、631億円の 純損益を計上した。10年3月期もほぼ同額の赤字を見込む。このため、政府は日本政策投資銀行などが実施する協調融資1千億円のうち、半分以上を占める政投銀の融資に80%程度の政府保証を付ける。

 国土交通省が支援に際して「航空ネットワーク維持」を掲げて一般の企業と区別したの は正しい認識だろう。日航は支援に甘えず、今度こそ自助努力を発揮し、経営基盤の強化を図る必要がある。

 国交省は航空業界の新たな支援策として、7月から空港着陸料の引き下げも実施し、コ スト軽減を手助けする。来年3月までの時限措置だが、地方路線維持の観点に立てば、世界的にも高い空港着陸料の低減措置はこれからの検討課題である。

 過度の救済は国頼みになりやすく、もろ刃の剣でもある。そこが航空会社支援の難しさ だが、政府は日本の航空政策の大きな枠組みのなかで日航再建を位置づけ、足腰の強い企業へと導いてほしい。