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国連安全保障理事会の決議に基づき、北朝鮮に出入りする船が核関連物資など禁止品目を運んでいないかを検査するための法案の骨格が固まった。
与党のプロジェクトチームがまとめた内容は、公海もしくは日本の領海での貨物検査は海上保安庁が対応するとしたうえで、「海保のみでは対応できないなどの特別の必要がある場合」に海上自衛隊も出動すると規定した。
また、検査に際しては、その船が属する国(旗国)の同意に加えて、船長の承諾も必要としている。
北朝鮮の2度目の核実験を受けて採択された安保理決議で、日本政府は制裁強化を主張した。決議に盛り込まれた措置を、日本も実施できるよう法律を整備しておくのは当然だろう。
国連決議の制裁措置は「兵力の使用を伴わない」非軍事的措置を定めた憲章第41条に基づいている。海保による貨物検査を原則としたことは、この法的根拠に則したものといえる。
自民党内には、自衛隊を中心とした検査活動を求める意見が根強くある。だが、ことさら自衛隊を前面に立てるのは憲章41条の趣旨にそぐわないし、北朝鮮との間で必要以上の緊張を生みかねない。目指すべきは、あくまでも決議の実効性を高めることだ。
とはいえ、与党案にはいくつかの疑問点がある。
「海上保安庁のみでは対応できない」場合とは、どういう事態を想定しているのか、具体的な内容がはっきりしていない。自衛隊の活動は情報収集に限定されているが、追尾も含まれるとしている。役割をもっと明確にしてもらいたい。
国会の関与にもいっさい言及していない。強制力を伴わない検査だから、国会の承認などは不要という考えのようだ。だが、自衛隊を領海外に出動させるとなれば、文民統制の観点から国会の関与を欠かすことは許されない。
貨物検査を行う海域も不明確だ。公海上で北朝鮮の船が検査に応じることは考えにくく、立ち寄り先の港でのその国による検査が中心になると見られている。現に米国は、禁止品目を運んでいる疑いのある北朝鮮の貨物船の追跡を続けている。
海保の巡視船が疑惑のある貨物船を追跡するにしても、どこまで追いかけるのか。遠距離に及んだ場合、どうするのか。他国との連携も必要になろう。そうした点も明確にしなければならない。
政府は与党の骨格案を踏まえて特別措置法案を作り、来週中にも閣議決定する方針だ。今国会中の成立を目指す構えだが、衆院の解散、総選挙をにらんだ政局判断が絡んでくるだろう。
いずれにせよ、疑問点をあいまいにしたままの拙速決着は困る。与野党ともに冷静な審議を尽くすべきだ。
麻生政権の経済・財政政策を一手に仕切る与謝野財務相。次の総選挙で民主党が勝てば首相になる鳩山代表。2大政党の中心人物に、政治資金をめぐる疑問が突きつけられている。
与謝野氏は、東京の商品先物取引会社のオーナーが代表を務める政治団体から、81年から05年まで毎月25万円ずつ献金を受けていた。団体の事務所は会社と同居していた時期がある。野党側は「政治資金規正法で禁じられている企業からの迂回(うかい)献金ではないか」と指摘している。
一方、鳩山氏はすでに亡くなった人や、過去に一度も献金した事実のない人の名前を、個人献金者として政治資金収支報告書に載せていた。
政治資金にからむ疑惑では、民主党の小沢前代表の秘書が逮捕、起訴されたばかりだ。総選挙を前に政治への信頼をこれ以上傷つけないためにも、両氏には記者会見や国会答弁を通じて丁寧に説明責任を果たすよう求めたい。
与謝野氏のこれまでの説明はまったく不十分と言わざるを得ない。
「(献金の)善意に対し、疑う余地はないと思っていた」「先方から陳情は受けていない」などと弁明した。だが、これでは西松建設からの献金をめぐる小沢氏や二階経済産業相の言い分そのままではないか。
与謝野氏は98年から99年にかけて通産相を務め、先物取引を監督する立場だった。仮に法的な問題がなかったとしても、政治的、道義的な責任はどうか。もっと踏み込んだ説明が必要だ。
鳩山氏の場合は、事実なら金額の多寡にかかわらず、明確な虚偽記載と言われても仕方がない。なぜこんな不可解で、不透明なことが起きたのか。早急に事実関係を調べ、はっきり説明しなければならない。
民主党にとっては、党のトップが2代続けて政治資金の疑惑に問われる深刻な事態である。
小沢氏秘書事件の反省から、民主党は企業献金の3年後の全廃と個人献金の拡充を打ち出した。その矢先、党代表の個人献金に疑惑が噴き出した。このままでは、せっかくの企業献金廃止の方針が説得力を失いかねない。
気になるのは、党首討論を来週やろうという自民党の呼びかけを、民主党が拒んだことだ。まさかとは思うが、鳩山氏の献金問題が影を落としているとしたら情けないことだ。
政治資金の規制を強めても、そのすき間を縫うように新たな疑惑が発覚する。その繰り返しにうんざりする人は多かろう。
与謝野氏も鳩山氏も、そして小沢氏も、2大政党の指導的な立場にある。政権交代をかけた総選挙に、不透明な政治資金の問題をそのままにして臨むべきではない。それでは国民を愚弄(ぐろう)することになる。