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「ディア・ドクター」で映画初主演 笑福亭鶴瓶

2009年6月26日

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■懐に入り込むマジック

 「日本で一番顔を知られた男」が初主演映画で演じたのは、誰も素性を知らぬ男・伊野。村でただ一人の医者として誰からも好かれていたが、突然失跡する。神さま仏さまと頼りにしてきた村人たちに、刑事から意外な事実が告げられる。

 序盤、スクリーンに誰もが知る人なつこい笑顔が映る。しかし「伊野でございます」と名乗った瞬間、「鶴瓶」は消えて「伊野」がスルリと懐に入ってきた。高座で瞬時に人物を演じ分ける落語家ならではのマジックだろうか。

 「あれ、セリフがうろ覚えやったんです。監督が『今のがリアルでいい』とOKにした。芝居は監督に全部お任せです」

 西川美和監督から出演依頼を受け、彼女の前作「ゆれる」を見て「この人は面白い!」と即決。1カ月の夏休みを返上して長期ロケに臨んだ。

 「レギュラー7本抱えて、旅番組の収録も2回入れて、ようやったなと思います。みんなで合宿して、近所の人と仲良うなって、隣の家でフロ借りて、その家の人がエキストラで出てくれたりしてね、楽しかった」

 旅番組でも見せる、誰とでもたちまちうち解ける姿は、伊野にぴたりと重なる。「そういう性格だろうと思って監督も指名したんやろね。人との間に壁がないというか、壁があるという意識がない。でも案外、そんなフリをしてるだけかも。それって伊野みたいやね、ふふ」

 謎めいたほほえみも、伊野みたい。伊野は村人に尽くすが食い物にもし、善人でうそつきで、臆病(おくびょう)でずぶとい。村人も白黒定かでない。真実を知るや「そういえばあやしかった」と手のひらを返す。

 「まさに世間、大衆ですよ。ああいうところ描くからこの監督おもろい。あるでしょ? いい人やいい人やとみんな持ち上げてたのに、何かやったら途端に『あかんやん』って」

 旅番組で地方各地を歩く。へき地の医療や高齢化という映画のモチーフに、何か思うところはあったかと尋ねると、こんな答えが返ってきた。

 「観光地でも何でもないとこで、そこのおばあちゃんにスポットを当てると、番組を見た知り合いから電話がかかってきて喜ぶ。そういうのが僕はうれしい。テレビはこういうこともできる。一種の心の活性化やね」

(文・小原篤、写真・郭允)

    ◇

 しょうふくてい・つるべ 51年、大阪市生まれ。72年、六代目笑福亭松鶴に入門。NHK「鶴瓶の家族に乾杯」などテレビ・ラジオにレギュラー多数。映画出演作は「母べえ」など。主演作「ディア・ドクター」が27日公開。

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