「真相」は「被疑者=真犯人」とは限らない
矢部善朗創価大学法科大学院教授のブログのコメント欄で、「感熱紙(刑事)」さんが次のように述べているようです。
弁護人の立会により得られるものが、単に被疑者の防御権の拡大でしかなく、事件の真相究明に何ら寄与する事がないからですよ。
何か勘違いをされているようですが、取調べの一部あるいは全部の録画が取調べの任意性や正当性の担保となりうるのは、任意性の有無の判断が裁判官によって為されるからなのです。
どれだけ綺麗事を並べ立て捜査機関を非難しようとも、被疑者被告人の代理人たる弁護人に、「取調べの任意性の有無」を判断するに必要な公正中立な視点があるとは認められないでしょう。
しかし、捜査官のヤマ勘に沿った自白が得られてしまうと、捜査官としては、その被疑者以外の者が真犯人であることを前提とする捜査を打ち切る等してしまう蓋然性が高いので、被疑者が捜査段階で意に沿わない自白をしないようなシステムを採用することは、消極的な意味で事件の真相究明に寄与することになります。
また、取調べに弁護人が立ち会うことにより、捜査官が有している疑問点が弁護人に正しく伝われば、この疑問を解消するのに有益な資料を弁護人が収集して捜査官に提出することだってあり得るわけです。
もちろん、取調べ状況の可視化により任意性を欠く自白調書の証拠能力が否定され、被告人に無罪判決が下されれば、その被告人が無実であるという限度での真相はある程度明らかにされるわけですが、多くの場合、その段階で改めて真犯人を追及することは困難です。
捜査側の方々がとかく結論ありきで、自分たちのヤマ勘に沿ったストーリーを基礎づける資料(自白調書を含む。)のみを「真相究明」と評価しがちですが、そのヤマ勘の間違いに気がつくこともまた「真相究明」なのです。
【追記】
同じエントリーについてのコメント欄で、矢部教授は次のように述べています。
>必要に応じて被疑者に助言をし、又は相談を受けることに加えて、捜査官による違法な取調べがなされないように監視することになります
あなたの考え方によれば、被疑者が被疑事実を認めそうになったら直ちに制止することになるのでしょうね。
そして、自白調書には絶対署名させない、ということになりますよね。
捜査機関による被疑者の取調べについて弁護人の立会い権を認めよという見解を述べる人は少なくありませんし、実際そのような権限が認められている国もあるわけですが、では、弁護士立会いの下で行われた取調べにおいて被疑者が自白を始めた際に、矢部教授がいうような行動を弁護人がとることが当然に予定されているのか、あるいは、実際に弁護人は概ねそのような行動をとっているのかというと、そうではないように思われます。もちろん、接見の段階では「自分はやっていない」と自分に語っていた被疑者が突然犯行を自白しはじめた場合に、あるいは捜査官に一旦席を外してもらいながら、その真意を確認することはあるかも知れませんが、その結果、真に悔悟の念から、あるいは、これ以上は言い逃れできないと覚悟した等の理由で、犯行を自白する意思が明らかになったときは、弁護人として、これに特に反対する理由はないので、その場合には、その自白調書の正確性に問題がなければ、被疑者がこれに署名することを絶対に阻止するようなことを弁護人はしないであろうと予想されます。
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Voici les sites qui parlent de 「真相」は「被疑者=真犯人」とは限らない:
» [弁護士]捜査官のヤマ勘に沿った自白 [日暮れて途遠し]
21/05/2009 「真相」は「被疑者=真犯人」とは限らない 矢部善朗創価大学法科大学院教授のブログの コメント欄で、「感熱紙(刑事)」さんが次の ように述べているようです。 弁護人の立会により得られるものが、単に 被疑者の防御権の拡大でしかなく、事件の 真相究明に... [Lire la suite]
Notifié le le 21/05/2009 à 11:43 PM
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