主観的構成要件要素もあるとはいうけれど
客観証拠がそろっていれば,自白を強要しなくとも被疑者を起訴し,有罪に持ち込むことが可能です。
という発言を取り上げて,
そのような弁護人の対応に照らして、少なくとも、自白は原則として強要されたものである、という指摘は正しくないと思われます。
と小括しています。しかし,「客観証拠がそろっていれば,自白を強要しなくとも被疑者を起訴し,有罪に持ち込むことが可能です。」という文は,捜査段階での自白における自発的になされるものと強要されてなされるものの各割合等については中立的です。
また,
事件によっては、被疑者が犯人であることが被疑者の自白を待つまでもなく明々白々な事案であっても、被疑者の自供によって犯行動機を解明しないと、被疑者の責任能力に問題が生じるという事案もあります。責任能力を否定されますと無罪になります。
とのことですが,被疑者が完全黙秘を貫き動機がついに明らかにされなかった事案で責任能力を否定され無罪となった事案があるのであれば,それをまず提示したら良いのではないかと思います。
また,
犯罪によって自白がないと罪名の決定(被疑者は何罪を犯そうとしたのか?)の問題について困難を来す場合があります。これは、刑法の規定の仕方によって生じる問題です。
とも述べられています。これは,捜査段階での自白を証拠とすることに積極的な方がよく行う反論です。
ただし,行為当時の主観的事情は,多くの場合,行為の外形等から推認していくものであって,必ずしも「自白」を得る必要はありません。例えば,児童ポルノ法違反被疑事件で被害児童が10歳くらいであった場合に「18歳未満だとは知らなかった」との主張を被疑者が貫いたとしても,被害児童が18歳未満であったことを知っていたと認定して起訴をすることが可能です。他方,被害児童が17歳くらいの場合は,行為の外形等から推認しにくいところですが,このような場合に,「真犯人でなくとも自白してしまいかねない手法」での取調べを容認すると,本来(法的には)処罰されるべきではない人々を処罰することになります。警察が逮捕した以上,無実であっても処罰することが,一般予防に資するという人もいるかもしれませんが。
また,主観的事情を認定するにあたって被疑者にこれを問い糺すことが有益だとしても,それは,犯人性が主たる争点となっている事案において被告人の捜査段階での自白調書を中核たる証拠として被疑者を起訴し被告人を処罰することの問題点がなくなるわけではありません。
そして、強要された自白の信用性に問題が生じることは、捜査機関を含めて刑事司法に携わる全ての者のコンセンサスです(どんな場合にも大多数に同意しない一部の人がいることは否定しません。)
とのことですが,強要された自白が客観証拠から見て自然なものとなっているのかについては,調書の作成を担当する取調担当官が当時どこまで正確に事案を把握していたかによるところが大きいです。とはいえ,この点に問題があり,自白調書の記載が,後に判明した客観的事実と食い違っていても,平然と有罪判決を下すのが我が国の刑事裁判所です。
「蓋然性が高いとは認められない」というのも不適切です。ここでは「客観証拠だけでは真犯人であると証明できるとは認められない」と言うべきでしょう。
刑事裁判では「蓋然性が高い」という程度では有罪認定しないからです。
とのことですが,制度論と現実論を混同されているようです。建前上は,「蓋然性が高い」という程度では有罪認定しないことになっていますが,現実には,被告人が真犯人であるとしてもあながち不合理とはいえないという程度でも,有罪認定がなされる場合が少なからずあります。その典型例は一連の「痴漢冤罪」関係ですが,かならずしもそれに限られません。御殿場事件などを見れば,
「一生刑務所から出られなくしてやる」等と脅して自白調書を取ってしまえば,被疑者及び被害者の足取りについて裏付け捜査をしなくとも,着衣等に被疑者の体液等が付着していないかどうか検証しなくとも強姦の容疑で訴追することが可能だし,被疑者から,「門限を過ぎていて、親に怒られるのが怖くてウソをついた」と供述を得ても,「犯行日時」を前倒しする訴因変更を行えば,裁判所はこれ幸いと有罪認定してくれます。
「お前は人間として扱わない」
いずれにせよ,弁護人がきちんと起訴前弁護を行い被疑者が意に沿わない自白をしないようにすることは将来の犯罪被害者を生み出す行為であると考えている弁護士に弁護される無実の被疑者は大変だなあと思います。
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