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04/06/2009

「確実な証拠がなく、頑強に否認する被疑者」が無実である可能性に思いを馳せない捜査官

 矢部教授が開設する2ちゃんねる型の匿名電子掲示板は,今日も今日とて中傷文言で一杯です。その中に,次のようなコメントがありました。

1294 名前:感熱紙 投稿日: 2009/06/03(水) 20:01:03 ID:Fb.AVuDUC 話が逸れますが…
取調べや自白に関して、モトケン先生とオグラ弁護士とで話が全く噛み合わない理由が分かりました。
オグラ弁護士は「厳しい取調べ」と「拷問?脅迫」の区別が理解できない、あるいは区別したくないんですね。
つまり「確実な証拠がなく、頑強に否認する被疑者にはなすすべなく手を拱け」ということになる。
そりゃあ実際に数多くの被疑者と対峙してきたモトケン先生とは話が噛み合わないわけですな。

 この投稿者は警察にお勤めのようなのですが,この発言の中に,なぜ未だ虚偽自白に頼った結果の冤罪が絶えないのかが見え隠れしているようです。

 つまり,この人の信念としては,「拷問?脅迫」として特に禁止された手段さえ用いなければ,被疑者の真意に反して,捜査機関の見込みに沿った自白調書を作成し署名・捺印させることは,「善」なのでしょう。「自白調書がなければ有罪に持ち込めない危険が高い」ということは,「客観証拠を見る限りその被疑者が真犯人である可能性はさほど高くない」ということであるわけで,そのようなケースで,「厳しい取調べ」により捜査官の「見込み」に沿う自白調書を作り上げ,検察官もこれに乗っかって不十分な客観証拠の元で被疑者を起訴し,裁判官もこれに乗っかって不十分な客観証拠の元で有罪判決を下すということが冤罪の温床となっているということを理解できないのでしょう。

 もっとわかりやすくいうと,真犯人でなくとも自白調書に署名・捺印をしてしまうような状況で「自白調書」が作成されたとしても,それが被疑者の記憶に合致したものである蓋然性は,捜査官のそのときの認識が被疑者の認識と合致している蓋然性と大差ないのであって,そのような「自白調書」は,捜査官のその時点での認識を「報告書」という形で文書化したものと,本来の証明力において大差はありません。

 客観的な証拠が乏しい事案で。捜査官が自身の認識を自己の名義で記載した「報告書」を主たる証拠として被告人を有罪とするのが正しくないことは概ね合意が得られると思うのですが,被疑者の認識として自発的に語られるものを撥ね付けて,「厳しい取調べ」によって捜査官自身の認識を被疑者名義の「自白調書」という形で作成してしまえばそれを主たる証拠として被告人を有罪とするのが正しいというのは、普通に考えておかしい話です。

(実際、米国でも、弁護人の立会いがない状況で作成された自白調書には無茶苦茶なものが少なからずある(例えば、殺人を犯したと自白したが「被害者」は生きていたとか、「犯行」が行われたとされる日時には被疑者が服役していたとか。)と、米国の研究者が来日していたときに仰っていたかと思います。)

 矢部教授は,被疑者の手続権利を重視せよと主張した「パブ弁!」さんにはその氏名等の公開を求めましたが,このような認識を有している警察官の氏名等の開示を求めた方が,冤罪を少なくする役に立つのでは?とも思ったりします。

【追記】

 感熱紙さんは、その掲示板で次のように述べているようです。

客観的証拠の有無と犯人性の高低は必ずしも相関しない、という現実が分かっていない貧弱な認識ですね。

 しかし、「客観的な証拠は十分ではなくとも、自分には、あいつが真犯人であることがはっきりと分かっている。だから、『厳しい取調べ』によりあいつを自白に追い込むのだ」という捜査官は、冤罪を生み出す危険が高いと言わざるを得ません。

 被疑事実を否認している被疑者に関して、「客観的な証拠はない」が「犯人性が高い」場合としてどのようなものを想定しているのかよく分かりませんが、「犯人性が高い」とする根拠が「ヤマ勘」以上のものであるならば、その捜査官以外も同じ論理で犯人性を認定することができるのでしょうから、「厳しい取調べ」により自白調書を押しつけなくとも、その被疑者を起訴し、有罪に導くことができるはずです。

 しかし、実際には、その被疑者が真犯人であると考える根拠は万人を納得させられるようなものでないことが分かっているが故に、捜査官は、真犯人でなくとも自白をしてしまうような手法を用いて、自白を取りに来るのです。

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