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19/06/2009

回答者の回答を予測して二者択一の質問をすることは、刑事訴訟規則にいう「誘導尋問」にはあたらない。

 法律家は、定義及びその趣旨から、ある概念の射程範囲を考えていきます。どこまでを「誘導尋問」とするのかについても同様です。

 刑事訴訟規則は原則として主尋問において「誘導尋問」を行うことを禁止しています。主尋問の場合、尋問者と回答者との間は好意的である場合が通常なので、尋問者が欲する回答を暗示すると、暗示された尋問者の希望に添った回答を回答者がしてしまい、回答内容と回答者の記憶との間に齟齬が生ずる虞が高まります。

 また、「Yes/No Question」においては、尋問者が認識している事実等を質問文の中に含めることになりがちです。そして、それが主尋問において行われるときは、回答者は、尋問者が質問文の中で提示する事実は正しい(あるいは自分たちにとって好ましい)ものだと認識しがちです(質問時の声の発し方によっては、その真逆の暗示をすることも可能です。)。すると、回答者は、回答者が認識していなかった事実をその質問文によって認識した上で、これを以前から認識していた前提で回答を行う危険が十分にあります。

 主尋問において「誘導尋問」が原則禁止される根拠は、上記のような尋問が行われた場合、このようにして回答者の真の認識に反する回答がなされてしまう虞が高まるからです。

 主尋問で行うことが許されない誘導尋問の典型例として、

You were at Duffy's bar on the night of July 15, weren't you?

という文が例示されることが多いですが、これは「Duffyのbarにいた」という質問者が望む「答え」を疑問文の中に盛り込んでいるからこそ問題なのです。従って、やはり、「Duffyのbarにいた」という質問者が望む「答え」を疑問文の中に盛り込んでいる場合には、答えが限定されていなかったとしても、やはり主尋問で行うことが許されない誘導尋問となります。例えば、

7月15日の午後7時にDuffyのバーで見かけたという人がいますが、もしそうだとしたらあなたにはこの犯行は不可能です。7月15日の午後7時ころ、あなたはどこにいましたか?

という質問は、open-endではありますが、主尋問で行うことが許されない「誘導尋問」にあたるとするのが一般的です。

 他方、そのような回答者の認識を歪める虞が定型的に存在しない質問については、「Yes/No Question」であっても、「誘導尋問」にはあたらないと考えるのが一般的です。特に、ある提案についての賛否を問う質問というのは、そもそも「正しい」ものが存在しないのですから、歪められるべき認識が存在しないので、「誘導尋問」という概念自体が成立しません。それは、その質問が、閾値を明確にしたものであって、曖昧な、あるいは中間的な回答を許さないものであっても同様です。

 

 回答者のこれまでの言動から「AかBか」という二者択一の質問をした場合に回答者はAという回答をする蓋然性の高いことを知りつつ、回答者が「A」という回答をした場合にはCという批判をする目的で、「AかBか」という二者択一の質問をすることまで「誘導尋問」に含めようとしている人がいるようです。しかし、その場合には、回答者がもともとの認識に反してAと回答するという類のものではありませんので、定義を拡張してまで、主尋問では行い得ない「誘導尋問」にこれを含める合理的な理由はありません。

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Commentaires

>それは、その質問が、閾値を明確にしたものであって、曖昧な、あるいは中間的な回答を許さないものであっても同様です。

 これを誘導尋問に含まれるか含まれないかはともかく、曖昧な、あるいは中間的な回答が当然予想される問題に対して、曖昧な、あるいは中間的な回答を許さない質問をすることに何の問題もないのですか?

 小倉先生は、誘導尋問かどうかにこだわりまくって意見を述べていますが、中間的な回答を排除する質問が誘導的な質問であることは間違いないでしょう。
 そして誘導尋問が禁止されるのは、それが誘導尋問という定義に当てはまるからではなく、回答(証言)を誘導するからですよ。

 あなたは、このエントリが自分に向けられた批判に対する反論になっていると思っているのですか?

Rédigé par: 矢部善朗 | le 19/06/2009 à 10:09 PM

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