Re 庵野監督の手法は「人間ロトスコープ」なのであった
いくら「影響を受けている」と言ったって、ただスタイルをマネすりゃいいってもんでもなかろうに‥‥(^^;
なぜ庵野監督はスタイルだけをマネして良しとするのか?
説明しよう。それこそ彼が持つ唯一の「物作りの手法」だからだ。
「エヴァ」で監督を務めた庵野氏がアニメ界のイノヴェーターとして高く評価される根拠がひとつある。それは「実写の感覚をアニメに持ち込んだ」ということだ。
それまでにも「ロトスコープ」という手法を使ってセルアニメで実写をなぞるということは行われていたが、それは日本では廃れ、アニメはアニメのフォーマット中だけで隔絶したまま進歩してきた。
そこへきて、当時トーシロ同然の庵野氏が「DAICONオープニングアニメ」で実写そっくりの核爆発シーンを描き、業界全体に大きな衝撃を与えたというのだ。ちなみに、この場面は「爆発の衝撃波と爆風が一旦画面を軽く横切り、一瞬後に揺り戻し付きで逆方向にグワ〜ッと流れる」というものである。OVA『おたくのビデオ』にも採録された。これに目を付けた碇‥‥じゃない宮崎監督が、映画『ナウシカ』の爆発シーンの原画にじきじきに庵野氏を指名したという逸話がある。
庵野氏の作業手順は以下のようなものだという。担当すべきカットを依頼されると、まず庵野氏は資料として膨大な量のヴィデオを買い込んでくる。そしてリモコン片手に念入りにヴィデオを観て、必要なシーンのタイミングを頭に叩き込み、しかる後にエンピツを握って動画用紙に絵を描き始める。
それは、言ってみれば「写実」だ。『王立宇宙軍』のロケット打上げや空中戦の場面などは、このプロセスを踏んで描かれている。庵野氏は『王立』では「スペシャルエフェクツアーチスト」とクレジットされているが、まさに氏の面目躍如であった(ヴィデオがなければタダの人かもしれないけど)。
と、ここまで書けば「展開が読めた」という方もおいであろうが、話は「エヴァ」に移る。
庵野監督が「エヴァ」で描かなければならなかったのは、リアルな戦闘やメカもさることながら、主に人間の苦悩であった。もはや氏は一介のアニメSFXマンではなく、一つの作品全体をあずかる演出家なのだから、登場人物の動機付けをしなければならない。
しかし、庵野監督が採った方法はぜんぜん変わっていなかった。つまり、かつて核爆発を描くために核爆発のヴィデオを集めて勉強したのと同じように、人間の苦悩を描く必要があるなら、古今の苦悩の資料を買い込んで勉強すれば事足りると結論したのだ。
そこで氏は本屋に出かけて、太宰治とか三田誠広の小説をしこたま買い込み、苦悩とはどういうものであるかを頭に叩き込んだのである。それまで不幸にして苦悩とは縁のなかった庵野監督は、苦悩方面に詳しい脚本家の幾原邦彦(「セーラームーン」演出)に、苦悩ビギナーとして自分が何を読むべきか教えを乞うたという。
それって、どっかヘンだよな。
核爆発をリアルに描くことと人生の悩みをリアルに描くことは、等価ではありえない。―――違うか? 私は「違う」と思うよ。
|  |