--- 氷川さんはアニメファンによる評論系のブログをどうとらえられていますか?
「学術論文や評論というのはスタンドアローンではなく、必ず先行するものを引用した上で新たな考察を加え、また次の人が引用していくものです。インターネット上のワールド・ワイド・ウェブというのはもともとそのために作られたものですよね。ハイパーリンクで相互参照していけるブログは、こうした継承、積み重ねで発展していく可能性を秘めていると思います。
ただし今現在は、リンクはできても、それをちゃんとしたロジックでとらえるための言葉が不足しているから、発展の本格化は今後であろう。僕は、そう感じています」
--- そのためには、まずは見る目を養うことが重要だと思いますが、良い手段があれば教えていただけますか。
「アニメーションは物語だけでできているわけではない。まず、それを知ってほしいです。もちろん物語は大事ですが、もし作り手が物語だけを問題にしているなら、小説など他のメディアでも表現可能なことをわざわざアニメにしているということになりますよね。
そうではなく、アニメという絵や動きや色や音をともなった実時間メディアでないと伝えられないものが確実にあるわけです。そこに迫ろうとするなら、集団作業で作られるアニメってどういうプロセスで作られているのか、一度はきちんと把握しておく必要があるはず。そこからまた物語論にフィードバックできることも多いと思います。
それと、僕らも昔よく先人に言われたことですが、アニメばかり見ない方がいい。これは言えます(笑)」
--- たしかに(笑)。
「たまには旅行をしてみるとか、アニメを見ないで一週間過ごしてみるとか、好きな演出家さんやスタッフさんがインタビューで触れている小説や映画をひたすら追っかけてみるとか。
アニメだけを見ていても、アニメのことは分からない。アニメ好きな人を否定しているわけではないです。アニメの外に目を向けることによって、自分が好きなものをもっと好きになれる可能性は高いということです。そもそもアニメ作品も世の中の人間関係やニュース、過去の映像作品、あるいは自然の風景など、アニメの外にある感動や強い想いを結晶化させたものですから、そうした大きな繋がりを見つけていくことで、はるかに豊かなことが見えてくる。そこから語る言葉も自然に見つかるはずです。そんな言葉がリンクを通じて誰かを刺激すれば、ブログの連鎖も豊かになって、それが未来のアニメ作品にもポジティブな影響を与える。そんなことを無邪気に信じています」
--- それでは最後に、ブロガーたちへのメッセージをお願いいたします。
「自分にしか言えない意見がある。まずその自信をつけてください。
最近よく話題になる叩きや炎上ですが、あれがなぜ発生すると思いますか?漠然と『今回はつまらなかった』と思ってた人が、ネット上で『今回は作画が良くない』という意見を目にすると、『そうか、作画のせいなんだ』と刷り込まれてしまう。
本当は自分には違う理由があったかもしれないのに。本当はそこを掘り下げれば、良い感想が書けたかもしれないのに、ショートカットされてしまう。
そして自分のブログにも同じ意見を書くことで、『作画のせいでつまらない』が2つになる。2つが4つになり、倍々ゲームで無限に増えていく。『大勢が言ってることだから正しい』と思いこまされる人も増える……。こういうことは結構ある気がします。アルファブロガーという言葉があるのが、その証拠ですよね」
--- 一昨年の、某作品を巡る騒動なんてその典型ですよね。
「やがて『炎上』と名前がつくことで事件扱いされる。だけど、それは価値観がデッドコピーされているだけで、意見は最初の1つだけかもしれないわけです。そんなのは正義でも定説でもありません。どんなに否定されても構わないから、他人の価値観に惑わされずに、踏みとどまって自分だけの言葉で自分の意見を言ってみる方が格好いい。全員がアルファブロガーであった方が、確実に次の作品が良くなる意見が出てくるわけです」
--- なるほど、確かにそうですね。
「今の若い方たちは、自分を否定されることを極度に怖がっているように見えます。でも、たかだがブログで意見を述べて論争になったとしても、実際の暴力に比べればね。僕もパソコン通信時代の論争では落ちこんだりしてひどいことになったことも多いですが(笑)、一生は長いですから。むしろ打たれ強くなってお得だったと思うくらいです。
それと、自分が否定されたくなかったら、否定情報を発信しないこともコツでしょう。ためしに否定文をいっさい使わずに文章を書いてみてはいかがでしょうか。否定したいことを肯定文に変換したりするのも有効です。たとえば『ここがこの理由で面白くない』という文章を、『ここをこうすれば良くなる』と変える。そのプロセスで、自分が本当に何を感じて何を考えたのか、改めて自分で気づくことも多いし、文章が魅力的になる確率もあがります。
そうした経験や訓練を若いうちからブログで日課にしておくと、一生涯では大きな差がついていくと思いますよ」
文:田中 元
撮影:上村写真事務所(上村明彦)
<プロフィール>
1958年生まれ、兵庫県出身、東京工業大学卒。
'77年のアニメ、特撮、マスコミ黎明期から、出版やレコード制作に関わり約30年。一方で技術者として電機系メーカーに勤務し通信機器を開発。2001年に独立して文筆専業に。理系の観点でアニメ・特撮作品の感動の根拠を解き明かす。
主な著編書は『20年目のザンボット3』『フィルムとしてのガンダム』『世紀末アニメ熱論』『アキラ・アーカイヴ』『ローレライ、浮上』など多数。
ガンダムから名作アニメ、テレビ放映中のアニメまで視聴できる「アニメ@nifty」でも、6/27(土)公開の『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』に関連してエヴァ特集を公開中!
「使徒、襲来!」から最終話に至る全エピソードのみどころから専門用語集、名言集など、これを読めばエヴァが百倍楽しくなるはず!ぜひ劇場に行く前にチェックしてください!
氷川さんが長年のキャリアを元に、作画や演出、美術など様々な角度からアニメ表現の特徴と楽しみ方を解説します。次回は、6/27(土)に「第2回/絵に生命をふきこむアニメート」というテーマで開催。初回を見逃した方も、単発でも参加できるので興味のある方はぜひ!
※「池袋コミュニティ・カレッジ」の公式サイトはこちら
文化放送の地上デジタルラジオのアニメ・ゲーム専門局『超!A&G』。その中の番組を紹介する『超!A&G+ナビ』にもパーソナリティとして出演中!
インターネットでも配信中なので、ぜひチェックしてください!
◆『超!A&G+ナビ』
放送日:隔週月曜日16時00分~17時00分
出演者:鈴木久美子・氷川竜介
※「超!A&G」の公式サイトはこちら
<ブログ紹介>
『氷川竜介ブログ』
アニメや特撮を語らせたら当代随一、氷川竜介さんの個人ブログ。広範囲にわたる活動、寄稿や講演、出演などを随時告知していく他に、注目のイベントやオンエア中の作品、DVD パッケージや CD なども新旧問わず紹介。関係者だけしか知りえない情報もアップされることも!?
セレブの出すお題に答えてプレゼントをもらっちゃおう!
「あなたにとって、忘れられないアニメの名場面を教えてください」(氷川竜介)
今回は、氷川さんの個人誌『ロトさんの本 Vol.20 アニメとSFの親和性』を3名様にプレゼントいたします。昨年の日本SF大会での講演内容を収めた、なかなか入手できない稀少なものです。奮ってご応募ください。
お題に対する記事をコメントまたはトラックバックでお寄せください。応募以外の感想も随時受付中です!
2009年6月11日~2009年7月2日
(当選者発表は2009年7月9日当記事内3ページ目にて)
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