--- パソコン通信のニフティサーブでは「ロト」さんのハンドルネームで活躍されていましたが、どのような雰囲気でしたか?
「ニフティサーブに入会したのは、会社に勤めていた1988年からですね。
当時は書き込み数もほとんどなくて、アニメフォーラムをのぞいたら、感想がぽつぽつと書いてある程度で話が続かないし、失礼な話ですけど内容も薄いと思ったんです。たしか当時は会議室が10個以下という制限もあって、SFアニメの会議室、その他のアニメ会議室みたいに仕分けも大雑把で、どこに何を書いたらいいのかわかりにくい。
パソコンも普及していなくて通信人口も少ないし、そもそも何のためにやるのかも手探り。まだ前例がない時代ですからね。そういう状況の中、誰かの書き込みに中身のあるコメントを返すと、また次の人が食いついて話がつづいていくといううれしい経験が生まれてきました。コミュニケーションの面白さがわかってくると、ますます書くのが楽しくなる」
--- ポジティブな状況ですね。
「当時はネットにギブ・アンド・テイクの概念が強くあったのも重要です。ギブとテイクは平等と思われがちですが、ギブが先という並び順には意味があります。最初に与えなさい、そうすればテイクが返ってくる。これが正しい理解の仕方なんです。誰かが最初に情報を与えなければ、ネットって空っぽになるでしょ?
最初に種まきをすることで、初めて返ってくるものをとる権利が得られる、ということはパソコン通信のおかげで学べた社会的ルールですね」
--- マナーを学べる場でもあったんですね。その後、サブシスオペを担当することにもなったそうですが、その時に注意していたことは?
「新しい人が書き込んだら、必ず『○○さんいらっしゃい』と返す。コメントがつかない人をゼロにするという地道な努力をしていました。ビギナーの頃の自分って何が嫌だったかというと、誰も返事をしてくれないことだったんですね。これはかなり効果があったようで、アニメフォーラムは活況を呈しました。
おそらく昭和から平成に変わる89年から90年頃が、アニメフォーラムにとって最初の成長期だったかな。オフラインミーティング、いわゆるオフ会で顔を知らなかった人たちと直接会話することも楽しかったです。90年代に入ると実際のアニメーションの作り手たちでパソコンを使える方たちも入ってきます。岡田斗司夫さんもその頃、深夜にチャットへ参加されて……」
--- 制作現場の人たちと直接交流できたんですね。
「ちょうどガイナックスで『ふしぎの海のナディア』を作られている頃で、反応の情報収集をされていたようです。後に聞いたら、チャットでは樋口真嗣さんたちスタッフも「岡田斗司夫」名義の背後にいらしたようで、あれは複合人格だったと言われました(笑)。
脚本家の伊藤和典さんも、テレビ版の『機動警察パトレイバー』の会議室でご自分が気になることを指摘されたらしく、「鋭いな」とチャットでもらしたり(笑)。アニメファンとスタッフの距離が縮まる状況が次第に生まれていましたね」
--- 非常に濃い時代だったと思いますが、荒れることなくうまくいった秘訣はなんだったのでしょう。
「当時、パソコン通信をやろうと思って掲示板までたどり着くには、それなりのスキルが必要だったからでしょう。『ドラゴンクエスト』に例えれば、中ボスを二人ぐらい倒してレベル20ぐらいに上がった状態(笑)。そこまでクリアできる実力と根気のある人たちが集まるから、やりとりにも中身があって、その価値がまた新メンバーを呼ぶんです。
90年代初頭は特にその良いサイクルがありました。その頃にできた友人も多いですし、最初は顔も知らないところから友人になるから、特別に濃い間柄になって長続きするようです。90年代半ばにはガイナックスやサンライズが直営する製作サイドの公式のステーションもできるようになります。
忘れもしないのが『新世紀エヴァンゲリオン』の衝撃の最終回が放送された日。『なんだこの最終回は―!』と会議室が一夜にして全部埋まりました。思い返すと、あれこそが日本最初のネット炎上事件だったのではないでしょうか(笑)」
--- 日本初の炎上も含めて、前向きに楽しめたわけですね。
「ただ、当初は人が増えていけば楽しさもどんどん増すと思ってましたが、実際にはそうはなりませんでした。最初は会議室などネットのリソースも限られていたので無駄に使えず、必然的に中身のあるやりとりになっていたわけですが、会員の増加でサーバーがどんどん増設されて会議室も増えると、全部に目を通すことはできなくなる。リソースを大事に使う必要もなくなって軽いやりとりが増えると、当事者同士は楽しいかもしれないけど、必要な情報も見つかりづらくなって排他的な雰囲気も出てくるんです」
--- ネットの負の部分の原型ですね……。
「ギブ・アンド・テイクの概念も崩れてきて、だんだんと『与えられて当然』という空気も出てきました。僕自身はスタッフという立場以前に、まずお互いに持ち出しから始めて場を作りあげていこうよというスタンスでしたが、それを消費者感覚で『当然』なんて言われると萎えますよね。90年代中盤は、自分の仕事が多忙をきわめたこともあって、次第にパソコン通信の表舞台からは足が遠のいたと思います」
パソコン通信からインターネットへと移った氷川さん
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