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「エコ」ではなく「表現」に磨きを!──液晶テレビの未来を麻倉怜士氏に聞く(2)

nikkei TRENDYnet6月25日(木) 10時57分配信 / テクノロジー - テクノロジー総合
「エコ」ではなく「表現」に磨きを!──液晶テレビの未来を麻倉怜士氏に聞く(2)
2011年7月のアナログ放送終了に向け、各社が半期に一度のペースで新製品を投入し、猛烈な勢いで画質を進化させている液晶テレビ。では今後の流れはどのようになっていくのか。前回に引き続き、デジタル・メディア評論家の麻倉怜士氏に聞いた。
 2011年7月のアナログ放送終了に向け、各社が半期に一度のペースで新製品を投入し、猛烈な勢いで画質を進化させている液晶テレビ。では今後の流れはどのようになっていくのか。前回に引き続き、デジタル・メディア評論家の麻倉怜士氏に聞いた。

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多様化するコンテンツとテレビの高解像化に向けて超解像技術が重要に

──テレビの画質を向上する技術として「超解像」という新しいトレンドが生まれました。

麻倉 技術発表自体は日立製作所が先でしたが、テレビ製品としては東芝が最初に手がけました(※)。三菱電機も液晶モニターに搭載しています。ソニーも(パソコンの)「VAIOシリーズ」やカムコーダー内のソフトウエアで超解像処理を行うなど、各社で研究を進めている状況です。

 東芝が初めて超解像技術を搭載したのは、2008年秋に発売した「REGZA Z7000シリーズ」以上の上位機種です。これらの機種では、DVDコンテンツ(720×480ドット)や地上デジタル放送(1440×1080ドット)からフルHD(1920×1080ドット)への超解像処理を実現していました。

 最新モデル(REGZA Z8000シリーズ以上の上位機種)はさらに進化し、SD解像度からフルHDへアップコンバートされた映像や、BDタイトルなどのフルHD映像も超解像処理によってさらに高精細化できるようになりました。今度の東芝の超解像技術はかなり進んだと思います。

──DVDなどのSD映像にも効くのでしょうか?

麻倉 DVDがハイビジョンのように見えるというところまでは行きませんが、映像はそれなりに良くなります。それよりも、地デジとフルHD映像の方が効果が現れますね。ディテールがある映像であれば、よりクッキリと表示されます。

──超解像はこれから重要になる技術でしょうか。

麻倉 単純拡大ではなく、アルゴリズムを用いて“知恵の入ったアップコンバート”を行う機能は、これから非常に重要になります。テレビは解像度が上がりましたが、映すコンテンツがそこまで達していない。地デジもそう(地上デジタル放送の解像度は1440×1080ドット)だし、IP放送は良くても(垂直解像度が)720程度で、YouTubeなどはもっと悪い。

 今後4倍密(フルHDの縦横それぞれ2倍の3840×2160ドット)、16倍密(スーパーハイビジョンと呼ばれる、7680×4320ドット)とかのテレビが出てくると、フルHDのコンテンツでも解像度が足りません。そうなるとコンテンツの解像度をさらに高める超解像は必須の技術になると思います。

コンテンツと環境に合わせた自動画質調整機能も今後のトレンド

──パイオニア「KUROシリーズ」の「リビングモード」や、東芝「REGZAシリーズ」の「おまかせドンピシャ高画質」など、自動画質調整機能を搭載するメーカーが増えています。

麻倉 これも一つのトレンドになっていますね。似たような機能としては、三菱電機が目の保護のために「家庭画質モード」を搭載しています(※)。これは画質を向上するというよりは、健康志向ですね。

麻倉 画質を良くするという意味では、パイオニア「KUROシリーズ」の「リビングモード」や東芝「REGZAシリーズ」の「おまかせドンピシャ高画質」が以前から搭載しており、日立製作所「Woooシリーズ」も最新モデルで「インテリジェント・オート高画質」を搭載しました。ソニーもEPG(電子番組表)に応じてプリセットながら画質調整を行う機能を搭載しています。自動的に画質を調整するというのは一つの流れになっていますね。

──自動画質調整機能というのは、画質向上の面ではどのような効果があるのでしょうか。

麻倉 画質調整というのは、実は必ずしなければならないものなんです。暗いところで見てちょうどいい画は、明るいところではぼやけてしまう。明るいところで見やすい画は、暗いところではまぶしすぎる。「視聴環境」と「視聴コンテンツ」の2つに合わせて、その都度テレビの画質調整を行わないと、一番いい画は出てこないのに、誰もやっていないんですよ。

 これは「テレビのあり方」そのものにかかわることです。というのは、テレビを購入したほとんどの人が、購入後に画質調整をしていない。つまり初期出荷モードのままなんです。換言するとテレビ製品の本来の機能や性能を、ユーザーは使っていないということになる。これは大きな問題ですよ。これから「自動画質調整」は、「エコ」も含めて重要なキーワードになります。

ナチュラル指向で表現領域に入ってきた東芝 今後の画作りにも期待

──前回、薄型テレビは「表示」から「表現」レベルへ進まなければならないという話がありました。液晶テレビが「表現」を実現するために、現状で各社はどのような取り組みをしているのでしょうか。

麻倉 日本ビクターが主観的ながら説得力のある画作りをしていました。長期にわたってブレない、納得のいく画作りをしていたように思います。これから再度、市場にチャレンジするといことですから、楽しみです。

 そのほかに、ずっと「表現」を考えてきたメーカーの一つとして挙げられるのが東芝です。「高画質」をまじめにとらえており、メタブレイン(東芝「REGZAシリーズ」の映像エンジン)に毎回さまざまな高画質機能を付加しています。店頭のこれ見よがしな演出で人を誘うのではなく、ユーザーの視聴環境を考えて、その中で一番いい画は何だろうと検討している。半期ごとに製品を作ってはレビューし、新たな機能をプラスしてというのを3〜4年繰り返したことが今の高い評価につながっています。

 REGZAシリーズ全体として表現領域に入りかけたように思います。ただし、東芝はナチュラルな方向で、客観的に見て良い画を作ろうとしています。LEDバックライトや超解像などさまざまな機能をベースに、自分なりの価値観をどう表現していくか。今後にも期待したいですね。

──現時点でのお薦めのモデルは何でしょうか?

麻倉 プラズマならパナソニックの「VIERA Vシリーズ」が良いです。明るい部屋で見ると、液晶に比べてピークの立ち上がりが悪いですから。普通のテレビ番組ではいまひとつですが、暗い環境で観る映画は超絶的に素晴らしい。トータルバランスがいいのは東芝「REGZA ZX8000シリーズ」ですね。ZX8000シリーズは部分駆動LEDバックライトのおかげで黒がかなり沈みますし、明るい場所ではハイコントラストになります。映画などのBDタイトルだけでなく、テレビ番組も楽しみたいなら、REGZA ZX8000シリーズが推薦できます。

「エコ」にテレビの未来はない!

──薄型テレビの今後の方向性について、各メーカーに期待されることは何でしょうか。

麻倉 2011年(7月のアナログ放送停波)に向けて、買い換え需要がこれからさらに高まることと思います。しかし私としては、ファッション化している「エコ」などに行かないで、画質をちゃんと高めてほしいと思います。エコで画質が良ければ理想ですが、私に言わせればエコなんてどうでもいい(笑)。ほかでエコをしっかりとやって、テレビには(最高の画質を実現するための)最高のリソース、電力を突っ込む。「贅沢は素敵だ」というのが僕の基本方針です。

 各社とも、エコなんかでなくより「表現」の方向に入っていって、「表現」レベルの高い次元で戦ってほしいです。「この監督のこの気持ちは、このテレビじゃなきゃ分からない、おまえのテレビに分かるか!?」みたいな、表現を磨き上げてほしいです。

 「表示」というのは一律なんですよ。「見えないより見えた方がいい」とか、「消えるより消えない方がいい」といったものでしかない。しかし「表現」というのは解釈です。数値では語れない定性的なものだからこそ、「心の感動」といった世界になる。

 スピーカーなどもそうです。「このスピーカーは周波数特性が広いから良い」とかは言わないでしょう? あるスピーカーを気に入っている場合に、「このスピーカーはほかのスピーカーでは聞こえない音が聞こえてくる」とか、「ベートーベンの魂が聞こえてくる」といった表現になる。スペック競争をしているうちは初歩的なんですよ。テレビも、そういうところから早く脱して、“表現競争”に入ってほしいですね。

 「表示」の世界であれば、遅いより速いほうがいいし、高いより安い方がいい。ですが、それだけではテレビがコモディティー(日常製品)の一つになってしまう。日本のメーカーは自社で統合して画質をプロデュースできる。そんな日本のメーカーだからこそ、表現的なアプローチを期待したいです。

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  • 最終更新:6月25日(木) 10時57分
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