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社説:船舶検査特措法 海自の活動は限定的に

 国連安全保障理事会の制裁決議を受け、政府は北朝鮮に出入りする船舶の公海上での貨物検査を実施するための特別措置法案の原案を与党に提示した。焦点の活動主体は海上保安庁に加え海上自衛隊による対応も可能とした。政府は当初、海保中心の案を検討したが、海自の活用を主張する自民党案でまとまった与党の意向を反映させた。確かに検査活動で海自の方がふさわしい場面も想定されよう。しかし、戦時の臨検とは異なり警察活動である船舶検査の主体はあくまで海保とし、海自の活動は限定的なものにとどめるべきだ。

 決議は大量破壊兵器をはじめとする武器・関連部品などの北朝鮮の輸出入を禁止し、各国に貨物検査の実施を要請、禁止品目の押収・廃棄を義務づけている。公海上での船舶検査は、禁輸物資積載を疑う「合理的な根拠」と、「船舶が所属する国(旗国)の合意」を条件としている。

 現行国内法では決議に盛られた活動はできない。船舶検査活動法と外国軍用品等海上輸送規制法は公海上の検査も可能だが、前者は武力攻撃につながる「周辺事態」と認定した時、後者は武力攻撃があった場合に限られ、海上保安庁法による船舶検査は領海内に限定されている。

 決議は日米両国が推進した経緯があり、国内法が不備なら制定の必要もあろう。ただ、今回の法案は安保理決議に基づく特措法案である。日本が公海上の船舶検査に乗り出すにあたっては、想定される活動内容と実効性を冷静にみる必要がある。

 北朝鮮船舶のほとんどは朝鮮半島と中国の間の黄海を往来している。日本が船舶検査を実施する事態に直面する可能性は低いとみられている。また、禁輸物資積載の疑いのある船舶を発見しても、北朝鮮が船舶検査に同意するとは考えにくい。現実には、日本近海で追尾し、船舶が寄港すると考えられる国や米軍に連絡するのが中心的活動だろう。

 警察活動の一環である船舶検査の中心になるのは海上保安庁であるべきだ。海保も対応は可能と表明している。ただ、海自を活用する場面も考えられる。北朝鮮船舶に関する情報の収集・分析や、武器など禁止品目の押収・管理・処分である。さらに、船舶が重武装している場合には、検査に当たる海保を支援しなければならないケースもあろう。海自の活動はこうした分野に限定するのが妥当だ。

 自民党内には、海自を活用する法案で民主党の反対を導き、総選挙の争点にしようという動きがある。安全保障にかかわる法案を選挙に利用しようというのは党略に過ぎる。

 民主党も決議に対応する国内法整備自体には前向きである。与野党の合意のうえで制定すべきだ。

毎日新聞 2009年6月26日 東京朝刊

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