結婚前から仕事をしていた女性の7割が出産を機に退職している。育児休業(育休)を取る男性は1・56%と極端に少ない。昨年秋以降の急激な不況下で、育休を取った社員を不当に解雇した「育休切り」が社会問題となっている。育休が取りづらく、少子化対策につながっていないというのが、この国の現実だ。
少子化が続く中で、子育てしている夫婦に働きやすい環境を整える育児休業制度が施行されたが、欧州各国と比べれば、日本は普及が相当に遅れていると指摘せざるを得ない。
こうした状況を変えようと、育児・介護休業法の改正案が参院本会議で全会一致で可決、成立した。3歳未満の子どもがいる従業員に対する1日6時間の短時間勤務、残業免除を事業主に義務づける▽共働きの両親が育休を取る場合、子どもが1歳2カ月(現行は1歳)まで可能(パパ・ママ育休プラス)▽違法行為に対する勧告に従わない場合、企業名を公表する--などが改正の柱だ。
短時間勤務や残業免除の制度化は、事業主が考えを変えて前向きになればできる。そのためには、経営者だけでなく、職場の上司や仲間たちが改正法の理念を受け止め、育休を取得する従業員を支援する体制を広げていくことが必要だ。
スウェーデンでは子どもが満1歳になるまでの間に最長4週間、有給で育児休暇が取れる「パパ・クオータ(父親割当)制度」があり、男性の8割近くが育休を取っている。こうした制度も参考にしながら、男性が子育てや家事に参画する仕組みを広く普及させていくべきだ。
改正法で注目されるのは「育休切り」の防止措置だ。政府原案にはなかったが、与野党で修正し、育休を申し出た従業員に対し休業期間を明記した確認書を交付することを省令で定めることにした。
米国発の世界不況の影響で、厚生労働省には労働者からの相談が前年の1・4倍も増えたことが背景にある。育休を取った人への退職強要や解雇、期間雇用者の雇い止め、減給、復職後の不利益な配置転換などの相談があり、育休制度が社会に定着していない実態が明らかになった。その意味からも、総選挙を前に与野党の対立が激しくなっている中で、与野党が柔軟に歩み寄って、「育休切り」に歯止めをかけることで合意した意義は大きい。
育児・介護法の改正は、育休制度を普及、定着させるためのスタートである。改正法を作って終わりではない。肝心なことは、事業主の意識変革であり、上司や同僚の理解である。育休を取った後、また職場に戻って働くことが、ごく自然なことになる社会にしたい。
毎日新聞 2009年6月26日 東京朝刊