Popteenの研究AERA6月 4日(木) 11時33分配信 / 国内 - 社会ギャルの気持ちを研究しなければ。いま一番10代女子に 愛されている雑誌といえば、コレです。── 顔の半分ぐらい目か、というぐらい、つけまつ毛とアイラインやマスカラを重ねづけしたアイメイクに、ほとんどブロンドの髪。超美白バービー人形みたいなモデルの上には、キラキラのラインストーンで縁取りされた雑誌名、「Popteen」(角川春樹事務所、定価450円)。 この出版不況にありながら、2008年下半期は平均実売28万部以上、今年3月号からは部数をさらに伸ばし、完売する書店も続出した。 30万部と侮るなかれ。読者は10代後半女子と限られた層だが、15〜19歳女子の雑誌閲読率は21・6%で全雑誌中1位(08年度、ビデオリサーチ調べ)と圧倒的な人気と知名度。その年代の女子人口は約300万人だから、10人に1人が購入している計算になる。 ■益若つばさが続々来店 10代後半向けのアパレルブランド「LIZ LISA」を展開するヴェント・インターナショナルの関谷浩介さんは06年の後半、ふわふわとした巻き髪とガーリーな服装で来店する女の子が急増したと感じた。LIZ LISAのイメージモデルで、Popteenのモデルでもあった益若つばささん(23)そのもの。彼女たちは、「つばさちゃんが着ていたワンピースを」と、指名買いした。当時、つばささんのPopteenへの露出が急に増えていた。 「ギャルのトレンドを理解するため、全国の店長が集まる会議ではPopteenを読むように伝えています」(関谷さん) お姫様系の甘めな服装が流行ったかと思えば、お姉さん系のキレイめファッションが流行したりと、ギャルのトレンドサイクルは短い。移り気な彼女たちの気持ちを常に先読みするためにも、必須メディアなのだ。 売り上げにも直結する。5月9日のLIZ LISA福岡天神コア店。Popteenモデルが出演したイベントでは通常100万円程度の売り上げが倍以上だった。誌面でのタイアップでも、人気モデルの菅野結以さんが着た小花柄レースのトップスは2000枚がすぐに品切れ。その後、2週間で2回も追加発注した。想定以上だった。 急伸している10代向けコスメ市場に本格的に参戦するコーセーコスメポートでは、消費者に直接届く広告媒体を探していた。取締役企画部長の森一由さんは、Popteenがコスメページでモデルのすっぴん姿まで載せているリアルさに注目。「コスマジック」という目元の化粧品の発売にあたり、全面的に組んだ。効果はバツグン。発売1カ月で年間販売計画を達成した。 「10代女性へのコミュニティーアプローチの入り口として、Popteenほど訴求力のある雑誌はありません」 東京都港区に住む高校3年生のミホさん(仮名)は、中3からの愛読者。発売日にコンビニで購入すると、その日のうちに隅々まで読み込む。流行を全部押さえていて勉強になるし、何より好きなモデルが輝いているのを見るのが好き。お気に入りの写真は切り抜いて部屋に貼り、うっとりと眺めてしまう。 「モデルさんがダイエットやオシャレで頑張っているのを見ると応援したくなるし、私も可愛くなりたいって思えるんです」 ■モデルに100の質問 特に読み込むのはモデルのプライベート特集だ。3〜7月号で表紙を飾っている舟山久美子さん(くみっきー)には、ファンレターも書いた。彼女のファミコン(ファミリーコンプレックス)話や、モデルをやめようか迷っていたという記事に一気に親近感が湧いた。彼女の私服やコスメはもちろん、食事や恋愛観、悩んでいることまで全部を知りたい。 長年Popteenでライターをしている根岸聖子さんは、 「ヤセた、彼氏が出来た、というモデルの一つ一つが全部ストーリーとなっている」 とモデルの小さな変化も見逃さない編集部の嗅覚に脱帽する。 Popteen編集部には毎月1千枚以上ものアンケートが届く。人気の企画やモデルを順位付けし、誌面に徹底的に反映させる。露出の多さは人気順。かつての漫画雑誌の手法だ。 内容は着回しやメイクのプロセス、効果的なダイエット法まで盛りだくさん。モデルへのインタビューでは100個の質問が定番。かばんの中身公開では見開き2ページで写真は100点を超える。 「ギャルって欲張りなんです」 馬場麻子編集長は言う。 「大人が考える企画より、読者の感受性から誌面を組み立てた方が面白い。それが前面に出てくるように心がけています」 仲の良い友達同士でのペアルックを、読者が「2娘1」と話しているのを聞けば、そのまま企画のタイトルにしてしまう。モデルたちがパステル調の小物をそろえていれば、誌面もパステル調全開にする。 ■幸せそうな女子全肯定 ミーハーで柔軟性に富み、可愛いものを徹底的に追求するという編集方針そのものがギャル的なのだ。馬場さんはPopteenを「イチバン普通のギャル誌」だと言う。自分なりにオシャレをきわめようと努力している10代を追いかけてきたのが、支持される理由だと考えている。 女性誌に詳しいライターの中沢明子さんは、こう話す。 「幸せそうな女の子を全肯定できるのが今の若い子の特徴。早く家庭を持ち、子どもを作るのがアリになってきた時代背景も、反映しているのかもしれません」 たしかに今回登場してくれた同誌の人気モデル5人の将来の夢は、「幸せな家庭を持つこと」。『ヤンキー進化論』の著者であり関西学院大学社会学部教授の難波功士さんは、「1990年代の不況でも唯一元気だったのがギャル産業」としたうえで、 「それが15年後の現在、ギャルの生き方が定着化したんですね。むしろこういう時代だからこそ、時代に翻弄されず、無理せず人生を充実させるギャルの生き方にスポットライトが当たっていると思います」 彼女たちの生の「生き方」を伝える手段として最適なのがブログ。ブログの登場で、読者はモデルの「毎日」を知ることができ、距離が近くなった分思い入れも強くなる。イベントでモデルと握手して号泣、というシーンは、ブログ登場前まではあまり見られなかった光景だ。 「モデルのキャラという等身大の魅力を出すのにずっとこだわってきたので、ブログの登場はまさに衝撃。彼女たちの心の中まで取材するのは大変ですが、より日常や想いを理解できるようになりました。一方で、誌面でブログ以上にモデルの個性を出すのに苦労しています」(馬場さん) ■「ギャルの神様」生む ブログでブレークした代表格がPopteen出身の益若つばささん。彼氏との日常や、可愛いと思ったファッションや小物などを次々とブログにアップ。次第に固定読者が増え、彼女がブログで薦めたコスメが突発的にバカ売れした。その影響力からか、当時は「ギャルの神様」と呼ばれ、経済効果は100億円とも言われた。ブログは単行本化され、現在はテレビにも出演し、自らのブランドも持つ。 ■月刊5000万のPV 実はPopteenは女性誌の中ではネット後発組。昨年12月にホームページ「GALs' POP」をリニューアルし、通販やネット広告にも力を入れ始めた。現在の月間ページビューは携帯で約3200万件、パソコンで約2000万件。集英社が発行する女性誌12誌のポータルサイト「s-woman.net」は、携帯とパソコン合わせて月約3800万件(09年3月現在)というから、凄さが窺える。 ここに企業が目をつけないはずはない。「MILKITTY」という紅茶の新商品でタイアップをしたのは日本ミルクコミュニティ。誌面にQRコードをつけオリジナルマスコットグッズのプレゼントを募集したところ、応募は即日で2000個分を超えた。ブログでの意見を参考にし、夏には甘さすっきりに改良した商品の販売を検討している。 読者のほぼ100%が自分のブログを持つブログ世代。今後効果的にウェブと連携すれば、ギャルパワーが無限大に広がる可能性も秘めている。 編集部 鈴木琢磨 (6月8日号)
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