出産費用は、都道府県によって1・5倍の差があることが、厚生労働省研究班(研究代表者=可世木(かせき)成明・日本産婦人科医会理事)の初の実態調査で分かった。研究班は少子化対策に役立ててほしいとしている。【江口一】
昨年10月、横浜市の一般病院で出産した女性(33)の出産費用は約66万円だった。当初約45万円とみていたが、予定日を超過し管理入院費や希望の助産師による病院への出張分娩(ぶんべん)介助費などでかさんだ。「大きな出費だが、助産師のおかげで希望に近いお産ができた」と納得した。
今年3月に東京都の大学病院で出産した女性(31)は帝王切開に伴い約74万円かかった。入院料が21万円、分娩料が23万円など。常時2人の医師が当直に当たり、出産時には小児科医や麻酔医などがかかわった。「人件費を考えれば仕方がない。安心のための費用」と受け止めた。
出産は、家庭的なお産ができる助産院を希望する人がいる一方、緊急時に対応しやすい大学病院を選ぶ人がいたりと、人によって対応が分かれる。一律に金額を定める保険適用はなじまないとされる。分娩料や妊婦・新生児それぞれの投薬、検査料などは、医療機関が任意に決める自由診療になっている。
●平均42万円
調査は今年1月、日本産婦人科医会に登録している病院・診療所の計2886施設を対象に実施し、回答率は59・1%だった。
それによると、出産費用は総額で平均42万4000円。都道府県別でみると、東京都が最も高く51万5000円、最も低いのは熊本県の34万6000円だった。施設間では21万円から81万円まで4倍の開きがあった。自治体によって大きな差が生じた背景には、地域間の所得格差がありそうだ。
内閣府の06年度県民経済計算によると、年間所得は東京が482万円で、熊本が240万円という。研究班は「自由診療だけに、医療機関が地域の経済事情に配慮しているのかもしれない」と推測する。
●未請求額7万円
妊婦に多いとされる脳出血などの緊急時に対応するため、研究班は60万円の出産費用が必要と分析している。しかし、調査では6割の施設が出産費用をすべて請求していないと回答した。研究班は「所得水準や近隣の医療機関との競合を考えての対応ではないか」と推定する。
未請求額は1回の出産当たり7万円。対象の項目は、出産時の安全確保のために必要な医師の待機料や帝王切開の準備費用などが挙がった。
現在、医師やスタッフの待遇改善や離職防止、機器充実などが急務として、出産費用の値上げを予定している施設は52%で、その額は平均4万8000円だった。
現在、健康保険組合などから支給される出産一時金は全国一律で38万円。少子化対策として今年10月から11年3月までの1年半、暫定措置で42万円に増額される。その後の対策は今後、検討される見通しだ。研究班は「出産一時金に、地域の状況に応じて加算する仕組みが必要だ」と提言する。
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■都道府県別の平均出産費用
北海道 38万2000円
青森 39万1000円
岩手 40万0000円
宮城 45万6000円
秋田 39万5000円
山形 41万6000円
福島 41万4000円
茨城 44万3000円
栃木 46万3000円
群馬 42万2000円
埼玉 45万5000円
千葉 44万2000円
東京 51万5000円
神奈川 47万7000円
山梨 41万6000円
長野 42万7000円
静岡 41万9000円
新潟 42万3000円
富山 41万2000円
石川 39万9000円
福井 39万4000円
岐阜 41万5000円
愛知 43万2000円
三重 42万8000円
滋賀 41万7000円
京都 41万0000円
大阪 43万8000円
兵庫 43万1000円
奈良 41万1000円
和歌山 39万5000円
鳥取 37万5000円
島根 39万9000円
岡山 41万7000円
広島 41万8000円
山口 37万8000円
徳島 39万9000円
香川 36万7000円
愛媛 39万4000円
高知 39万3000円
福岡 41万2000円
佐賀 40万2000円
長崎 41万9000円
熊本 34万6000円
大分 37万9000円
宮崎 40万3000円
鹿児島 36万5000円
沖縄 37万0000円
全国平均 42万4000円
毎日新聞 2009年6月26日 東京朝刊