60歳前後の「アラ還」(アラウンド還暦)世代なら、マレー・ローズと山中毅両選手のライバル対決に心躍らせた記憶があるだろう。競泳の話である。
かつて水泳は日本の「お家芸」といわれた。戦前、日本水泳界初の五輪金メダルを獲得した平泳ぎの鶴田義行。自由形の世界新記録を連発して「フジヤマのトビウオ」と呼ばれた戦後のヒーロー・古橋広之進。岡山出身の故木原光知子さんは東京五輪で一躍アイドルになった。
水泳の魅力は、己の肉体のみで限界に挑む姿だろう。だが最近は「体一つで」とはいかなくなった。水着騒動に火を付けた英国メーカーに続き、国内でも高速水着の開発が相次ぐ。
今年4月の日本選手権では、20個の日本新が生まれた。5月には男子200メートル背泳ぎで入江陵介選手が驚異的な世界新を出したが、国際水泳連盟が「待った」をかけた。
結局、未認可水着着用選手が出した記録を世界新として公認しないとの結論で水着問題に一応の終止符が打たれた。だが世界記録を日本記録が上回る「ねじれ」も起き、混乱は収まっていない。
外電によると、女子100メートル平泳ぎの五輪覇者、リーゼル・ジョーンズ選手(豪)は「もはや競泳者でなく、水着がどれだけ速く泳ぐかになってしまった」と嘆いているという。どうにかならぬか。