政府は経済財政運営の基本となる「骨太の方針2009」を決めた。麻生太郎首相の下では初めてである。衆院選を前に自民党内で強まる歳出増加の圧力を受け、小泉政権時代の「骨太06」から続いてきた社会保障費の抑制方針を事実上撤回、従来の財政健全化路線から大きく転換する内容となった。
骨太09の副題は「安心・活力・責任」。日本が直面する経済危機や社会危機を克服していくには、安心社会の実現、将来のための成長力強化、財政の健全化の責任に同時に取り組む必要がある。その実現の道筋を示そうというわけだ。
しかし、中身は国民受けを狙った選挙仕様が色濃く、道筋を示すにはほど遠い。自民党との間で最後までもめた問題が財政の健全化である。
政府は、歳出・歳入一体改革を目玉とする骨太06を踏襲し、社会保障費の自然増を毎年度2200億円抑制する方針を掲げてきた。今回も原案では「骨太06などを踏まえ」と表記していた。これに対し、自民党内からは「衆院選が戦えない」と強い不満の声が上がった。
調整を重ねた末、10年度予算編成については原案になかった「安心・安全を確保するために社会保障の必要な修復をする」などの文言を追加、さらに社会保障費の抑制を行わない方針を示し了承にこぎ着けた。一方で、政府側は「骨太06などを踏まえ」との表記を死守し、文言を残した。党内の改革派の批判を懸念したものとみられるが、双方の顔を立てることに腐心せざるを得ない点に、麻生政権の求心力の喪失ぶりが表れているといえよう。
「小さな政府」を掲げた小泉構造改革は、それなりの成果を挙げた一方で、弱者へのしわ寄せをもたらした。医療や介護などの現状に対する国民の不安や不満は大きい。その見直しは必要だが、なし崩し的に公共事業など他の分野の歳出増加圧力にならないか懸念される。
麻生首相は政策の財源問題で、景気回復後の消費税率引き上げを発言してきた。だが、骨太では決意が十分盛り込まれたとはいい難い。歳出・歳入の在り方は国や国民の活力、さらには後世への重要な方向付けにもつながる。選挙目当てのばらまきでは、麻生首相のいう「責任ある政党」「責任ある政治」とはいえまい。将来を見据えた国のビジョンを明確に示し、国民に厳しいことも含め、説得力ある改革を積み重ねていかなければ、政権の基盤は揺らぐだろう。
国土交通省には談合体質が染み渡っているのだろうか。公用車運転業務の入札をめぐり、国交省北海道開発局の幹部職員らが談合に関与していたとして、公正取引委員会が官製談合防止法を適用し、国交省に改善措置を求めた。
公取委は国交省OBの天下り先となっている北協連絡車管理(札幌市)、日本道路興運(東京)など3社を含む10社に、独禁法違反(不当な取引制限)で排除措置命令と総額約26億円に上る課徴金納付命令を出した。
国交省への改善要求は、ダムや河川の水門工事をめぐり官製談合が認定された2007年に続き2回目だ。天下り先を確保したい「官」と、安定受注を求める企業がもたれ合う不正の構図がまたも明かされた。相次ぐ談合にはあきれるほかない。
公取委によると、北海道開発局では02〜06年度、開発監理部長や次長らが、同開発局OBである北協連絡車管理の社長や専務に、運転委託業務の入札で指名業者や発注機関を伝え、談合を容易にしていた。また、10社は08年度まで国交省出先機関などが発注する入札で受注予定者を事前に決めていたという。
国交省出先機関の8地方整備局と北海道開発局の9機関の発注額は05〜07年度では年間計170億円前後。3社には昨年2月時点で国交省OB計55人が天下っており、国交省によると03〜08年度の発注の約88%を3社が受注していた。
3社には現在も計36人が天下りで在籍している。癒着の土壌は本質的に変わっていないのが実情だ。これでは官製談合の根を断ち切ることはできまい。癒着の温床となっている受注企業への天下りを排除しない限り、再発防止はおぼつかないのではないか。信頼回復に向けた国交省の覚悟が問われている。
(2009年6月25日掲載)