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歴史的仮名づかひ
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簡単に覚えられる歴史的仮名遣ひ 1/2/3/4/5

4.語中語尾にワがきても「わ」と表記するもの
 
「歴史仮名」のハ行表記の覚え方は、その基本は、「現代仮名」で語中語尾にくる「ワ・イ・ウ・エ・オ」は原則としてハ行になるといふことです。「原則として」といふのは例外があるからです。
  その例外は次のやうなものです。普段は漢字で表記しますから、覚えなくても差し障りはありません。
  あわ(泡) あわてる(慌…泡と語源的に関連あり〈泡立てる〉) よわい(弱) いわし(鰯…弱いと関連あり) さわぐ(騒) すわる(坐る…据ゑると仲間) うわる(植…植ゑると同じ) こわいろ(声色…声はこゑ) しわ(皺) たわいない たわむ(撓) ことわる(理・断…言割るからきたもの) かわく(気湧くからきたもの)
  語の頭にくるワは常に「わ」と書くので、二つの語の接続によって生じた語中のワは「わ」と書く。
  うちわ(内輪) いひわけ(言訳) しわざ(仕業) しわけ(仕分) はらわた ことわざ ものわかり(物分り) おきわすれ(置忘れ)――など。
  「ことわる」も「かわく」もこの部類に入れてよい。

5.語中語尾にイがきても「い」と表記するもの
 
これはほとんどが音便変化によるものです。ですから、「現代仮名」で語中語尾の「い」を「き」に置きかへて、それでも意味の通ずるものは音便変化と一応考へてよいでせう。本当に覚えなくてはならない語は、数少ないものです。
  おいて(於…おきての音便) さいはひ(幸…さきはひ) たいまつ(松明…たきまつ) ついたて(衝立…つきたて) ついて(就…つきて) ついで(序、次…つぎて) やいば(刃…やきば) おほいに(大…おほきに) かいぞへ(介添…かきぞへ) かいまみる(垣間…かきまみる) あいにく(生憎…あやにくの変化) にいさん(兄…あにさまの変化) かはいい(可愛…かはゆいの変化)
  注意したいのは、「つひに」と「つい」です。「つひに〜をした」の「つひに」は「ひ」だが、「ついうっかり」「ついつい」といった副詞や接頭語の「つい」は、「い」です。間違ひやすいものの一つとして覚えておいてください。また、「あるいは」「あるひは」は、これはどちらを遣ってもよい(明治の学校教育における仮名遣ひの統一以前はどちらも遣はれてゐた)が、「あるひは」は間違ひとの説もあり、このため、明治の学校教育では「あるいは」に定められました。
  どちらを遣ってもよいものとしては、このほかに「用ゐる」と「用ひる」があります。

6.語中語尾にウがきても「う」と表記するもの
 
この場合はほとんどが「ウ音便」による音便変化と、意志・推量を表す助動詞「う」がついたものです。「ウ音便」については別の項で説明しますが、「ありがた(く)う」「おめでた(く)う」「美し(く)う」「楽し(く)う」「おはや(く)う」「少な(く)う」「かたじけな(く)う」など、「く」の音が「う」に変はったものです。
  次に、意志・推量の助動詞「う」です。書かう、行かう、走らう、飲まう、食はう、言はう、あらう――など、動詞の未然形につく意志・推量の助動詞「う」は「う」と表記し、「書かふ」「行かふ」などと書いては誤りです。
  ここでは助動詞の「う」そのものよりも、動詞の未然形の方に注意してください。このことは、「『言ふ』か『言う』か」の項で説明しましたが、合理性がないと指摘されてゐる「現代仮名」の大きな欠陥を含んだ問題なので、もう一度説明しませう。
  動詞の「書く」は、「書か・ない(未然)、書き・ます(連用)、書く(終止)、書く・とき(連体)、書け・ば(仮定)、書け(命令)」と活用し、未然形は「書か」で、意志・推量の助動詞は未然形につきますから、「書かう」となります。「行く→行かう」「飲む→飲まう」「ある→あらう」「言ふ→言はう」みな同じです。
  「現代仮名」は「書こう」で、「こ」は本来、未然形でもなんでもありませんが、「現代仮名」は発音どほり書くのを原則としますから、「こ」をむりやり未然形の中に押し込んで、「書かない、書こう」と、「か」と「こ」の二つを未然形だと説明づけてしまひました。同じやうに「行く」は「行かない、行こう」、「飲む」は「飲まない、飲もう」、「言う」は「言わない、言おう」となります。
  「ある」といふ動詞に打ち消しの「ない」がつくとき、口語では「あらない」といふいひ方はしません。この場合は「ない」といふ形容詞だけを遣ひますから、未然形は「あろ」だけです。「あろ・う、あり・ます、ある、ある・とき、あれ・ば、あれ」で、「ろ、り、る、る、れ、れ」と活用します。これでは文法の説明がつきません。そこで、「あらぬ噂」「さはらぬ神」といふ文語的用語がまだ残ってゐますので、これを口語として残し、未然形に留めました。さうして、「ら」と「ろ」の二つを未然形とし、ラ行五段活用動詞としてゐるわけです。口語でほとんど遣はない打ち消しの助動詞「ぬ」がまだ生きてゐるのはうれしいことですが、果たしてこれが口語といへるかどうか、疑はしいと思ふのですが……。
  これが「歴史仮名」だと、未然形「あら」で、推量の助動詞「う」がついて「あらう」と書きます。活用は、「ら、り、る、る、れ、れ」のラ行四段活用動詞ーーと、実にすっきりした説明がつきます。さて、「現代仮名」の「書こう、飲もう、言おう、あろう」と書いた場合、どんな問題が起こるかといふと、「こう、もう、おう、ろう」の「う」は、「こー、もー、おー、ろー」と、それぞれの音ののびた部分を、単に「う」の字で表記したにすぎないことになります。長音を表す単なる記号に、助動詞といふ説明をつけるのはこじつけにすぎません。
  時枝誠記博士は、かういふ文法説明が生じてくるのを大変恐れて、「現代仮名は文法意識の抹殺である」と批判してをられます。博士は、「文法的表記を存置しておくのは、単に文法学のために必要なのではなく、言語の理論性を保つためのもの」といってをられるのは重要なことです。理にかなった文字遣ひを子々孫々に伝へたいものです。

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