キャラクター&開発コンセプト
言わば軽の4ドアスペシャリティ
2006年6月19日に発売されたソニカは、言わば軽自動車の4ドアスペシャリティ。「爽快ツアラー」をコンセプトに据えて「走りの質感革新」を謳うなど、見た目だけでなく走りの面でも上質感を追求。全車3気筒ターボ+CVTとし、さらにレーダークルーズコントロールを用意するなど、並みの普通車を凌ぐ内容を誇る。ターボ車ながら10・15モード:23.0km/Lという低燃費も特長だ。
車名のソニカ(SONICA)は、英語の「SONIC speed(音速)」や「Soaring and Nimble Car(舞うように軽快なクルマ)」が由来とのこと。目標台数は月間2000台と少ないが、実質的な先代のMAX(NAとターボで同6000台)のターボ車分だけ、と考えれば妥当なところだ。
価格帯&グレード展開
キーフリーシステムが全車標準
全車3気筒ターボ+CVTでグレードは3種類。「R」(118万6500円)、「RS」(134万4000円)、「RSリミテッド」(141万7500円 ★今回の試乗車)で、FFと4WD(13万1250円高)がある。15インチタイヤ&アルミや、HIDヘッドランプが付いた「RS」が主力だ。
画期的なのは全車標準の「キーフリーシステム」だ。キーを携帯して車両に接近するだけでドアをアンロックし、エンジン始動まで可能なもので、トヨタのスマートキー(ドアの施錠にはスイッチ、解錠にはセンサースイッチを使う)とは違うタイプとなる。今後トヨタ系のキーはどっちの方向へ進むのだろうか?
レーダークルーズが安い!
オプションとしてはHDDナビ(G-BOOKアルファ対応、27万8250円)はともかく、レーダークルーズコントロール(11万250円)が破格に安い。荒天に強いミリ波レーダーではなくレーザーレーダーの採用、およびブレーキ制御の省略でコストを抑えたものだろうが、間違いなく世界で一番安いレーダークルーズ設定車だ。約40~100km/hまで設定可能とあるから、一般道でも使えるはず。
パッケージング&スタイル
今時の軽らしからぬ背の低さ
全長と全幅はいつもの軽サイズ(3395mm×1475mm)だが、目を引くのが1470mmの全高だ。これは旧MAX(1550mm)よりだんぜん低く、スバルR2(1520mm)や現行ダイハツミラ(1500mm)より低い。しかし過去を振りかえれば、'90年代前半のミラは全高1400mm余り、当時のスペシャリティ軽だったダイハツ・リーザ(1986~91年)は全高1335mmだったのだから、あくまで今の基準では、ということになる。全幅と全高がほぼ同じというスクエアな寸法だから、操縦安定性の点では有利なはずだ。
洗練度の高いエクステリア
ワンモーションのスタイリングは三菱 i ほど未来的ではなく、スバルR2ほど個性的でもないが、MAXより洗練度ははるかに増し、十分にカッコよく見える。ホンダストリームのような楕円のサイドウインドウや、MAXのアルファ145風から発展したと思しき、今度はアルファ147風のリアコンビランプなどはさておき、質感は確かに高い。ボディカラーはメーカーオプション(試乗車のルージュレッドクリスタルメタリックなど3色)を含む計8色で、全車クリアコートをもう一層加えて塗装品質を上げている。試乗車のRSリミテッドはサイドストーンガードやドアミラーターンランプ、フロントフォグランプなどを標準装備。
2リッタークラス並みの装備
インテリアは質感が高いだけでなく、オーディオとエアコンの操作が出来るステアリングスイッチをはじめ「これが軽自動車か!」的な快適装備を満載。試乗したRSリミテッドにはオートエアコンや自発光式メーター、平均/瞬間燃費計(以上はRSも装備)、さらにMOMO製ステアリングや7速シーケンシャルモードが付く。リッターカー並みというより、ほとんど2リッタークラス以上の装備だ。
前席シートは「カップルをゆったり包み込む」(広報資料)ベンチシート。もちろんアームレスト付だ。試乗車のシート地は黒だが、どのグレード/ボディカラーでも赤のシート地が選べる。
ちゃんと大人4人が乗れる
外からは狭そうに見える後席だが、これが意外にも十分に広い。2440mmというロングホイールベースと軽乗用車最大という1320mmの室内幅、さらに下手なシートアレンジを捨てたことも重なって、大人2人でも但し書なしで快適だ。ダイハツ車ゆえ、もちろんドアは約90度まで開く
荷室の狭さが唯一の弱点
パッケージングで唯一の死角が荷室だろう。後ろ一杯まで寄せられた後席と短いリアオーバーハングに挟まれて、通常時だとスポーツバッグ1個くらいの空間しか残らない。もちろん6:4分割の後席背もたれをパタンと倒せば拡大できるが、18~20Lのポリタンクが3つ以上だと載せ方に工夫が要りそうだ。
基本性能&ドライブフィール
申し分ないパワートレイン
試乗車は最上級の「RSリミテッド」(FF)。シートに座ってドアをバスッと閉めた瞬間から「タダの軽じゃない」感が伝わってくる。アイドリング振動や騒音も、軽どころかパッソを超えて、ヴィッツクラスに届くものだ。
そのクラスレス感は走行中も変わらない。新型の3気筒ターボ(64ps、10.5kg-m)とCVTとのマッチングは完璧で、特に低中回転域のトルク感や扱いやすさは非の打ち所がない。車重が820kgと意外に軽いことも要因だろう。ターボラグなんてものはない。ヒューンという音さえ気にしなければ、1.5リッター車に乗っているかのようだ。ステアリングの隣に位置する7速シーケンシャルシフトのレスポンスやギアのつながり具合も申し分ない。
重厚かつ安定方向の走り
普通車の水準で言っても、乗り心地や安定感は上のレベル。小さくてボディ剛性の高いクルマ独特の、小粒な重厚感がある。静粛性も軽らしからぬレベルで、CVTとエンジンの結合剛性アップ、新型エンジンマウントの採用、ドア下端2重シール化といった対策が生きている。唯一の不満は舗装の荒れたところでドラミング(ロードノイズの1種で低周波のもの)が生じることくらいだ。
ハンドリングにも期待してしまうが、山道では弱~強アンダーステアのまま、安定して走ってしまう性格。前後のスタビライザーによって姿勢変化は小さいが、タイヤとパワーのバランスから言って、それ以上どうこうは出来ないし、ならない。そもそもがロングホイールベースのナロートレッド、そこそこ重心が高く、言うまでもなく前輪駆動と、スポーツカーのようには出来ていない。あくまでも「爽快ツアラー」だ。
ターボにして燃費も優秀
10・15モード燃費は23.0km/Lとまるで自然吸気エンジン並みに優秀だが、今回の試乗でもトータルで約13km/Lも走ってしまった。この走りっぷりなら10km/L程度でもおかしくないのだが、エコラン無しで街中でもこれぐらい走れてしまう。丁寧に走ればさらに伸びるはずだ。なにせ10・15モード燃費はノンターボ+4ATで車重が100kgも軽いエッセ(22.0km/L)よりいい。
ここがイイ
エッセのロングストローク型の3気筒「KF型」エンジンに、インタークーラー付きターボを追加した新型エンジン。そして新型のCVT。トルクが十分あり、しかも燃費がいい。軽自動車のパワートレインとしては究極と言いたい。
加えて高い質感、いいシート、運転席以外の各シートにある天井のグリップといった装備は、ほとんど不満らしい不満を感じさせない。軽の極み。コペンよりも完成度は上では、とすら思える。ぜひこちらも英国で試しに売ってみてほしい。その評価が聞いてみたいものだ。
ここがダメ
上で触れたように高速巡航中、常用速度域でドラミングが発生。せっかくの上質車なのにこれはたいへん残念。個体の問題ならいいのだが。
RSリミテッドに付く、とても本革とは思えない人工的な手触りのMOMO製ステアリング。センターパッドの「MOMO」バッジも安っぽく、これならウレタンの方がいい。もっとも、市販されているMOMOのステアリングも最近かなり安っぽいものが多い。リム部分が一枚革ではなくなり、もはや革なのかウレタンなのかも分からないものが出回っている。背景としては、さすがにエアバッグを外して交換するような人が少ないという事情もあるだろう。いよいよ交換ステアリング市場も風前の灯火という感じだ。
総合評価
確かにソニカの全高は他車より低めだが、低く構えたカッコ良さとは無縁のスタイリングで、今ひとつスタイリッシュには見えない。またテレビで上戸彩が魔女に扮するCMを見たりすると、婦女子向けの中途半端なスペシャリティ軽にも見えてしまう。おそらく多くのクルマ好きには、試乗対象どころか頭の片隅にも残らないクルマではないだろうか。また軽のお手軽カーが一台増えた、と言った印象だろう。
実際我々の認識も最初は、軽本来のポジショニングからすればずいぶん高価なクルマだなという程度に過ぎなかった。しかし走り出してすぐに分かったのは、その認識が間違いだということだ。規格こそ軽に収まっているが、前述してきた通りこのクルマはまさに小型車の域に達している「別物」だ。
ダイハツは軽自動車らしい軽自動車としてエッセを持つが、それと対をなすクルマがソニカだろう。良くできた小型車であるダイハツクー(トヨタbB)、ブーン(パッソ)、ビーゴ(ラッシュ)を作ったダイハツが、そのノリで軽も作ってみました、というのがソニカだ。軽自動車らしからぬ軽自動車であり、小型車を軽の規格にはめ込んだ、というものだ。ロングホイールベースと軽最大の室内幅でもって、身長170cm、体重70kg程度までの人なら室内は十分広い。そして低圧ターボは660ccの排気量をうまくカバーして、我々が軽の理想的な排気量と考える800cc程度の力感を出している。遮音も乗り心地ももはや軽ではない。
さらにカタログ数値でみるとソニカの室内幅は1320mm、室内長1915mm、室内高1230mm。これに対してブーンは室内幅1400mm、室内長1830mm、室内高1275mmで、もはや小型車との実質的な差は幅だけと言っていい。このクルマで軽の恩恵を受けられるのだから、ユーザー側からすればとてもありがたい話だ。
一方で、車両価格はもはや小型車以上になった。ブーン(モータースポーツ用のX4を除く)が94万5000円~140万7000円。これに対してソニカは118万6500円~141万7500円で、排気量が倍のブーンより、ソニカの方が高いのだ。むろん他のミニバン型軽にはさらに高価なものもあるが、同じハッチバック車である両車の価格差がソニカの成り立ちを表していると思う。これはつまり、理想的な小型車としての軽自動車がついに現れたと言うことだ。
しかしそれではいよいよ軽自動車という制度が形骸化していくのではないか。ソニカに軽としての恩恵を与えるのは、あまりに不公平に思えてしまう。いや、軽と小型車との制度上の落差がありすぎることこそ問題だろう。軽規格ができて約50年、さすがに見直すべき時期に来ていると思う。高速道路の最高速制限もずいぶん前に引き上げられたのだから。ただし、軽の恩恵を無くせと言っているのではない。逆にクルマに関わる制度全体を「もっと安く」して欲しいということだ。特に、低所得化しているといわれる若年層の自動車購入に関しては、「もっと安く」を推し進めないと、若者はますますクルマに関心を失っていくだろう。それは自動車産業立国ともいえる日本の国益に反するのではないだろうか。
さて、こんな素晴らしいソニカだが、CM(魔女がほうきに乗っているヤツ)でそのイメージは台無しになっていると思う。上戸彩に罪はないが、あのCMでソニカのすばらしさの何が伝わるというのか。商品を説明することより、イメージを売るのがテレビCMの役割なのは分かっているが、少なくともこのCMではソニカが間違った解釈で人に知られてしまう。婦女子のための乗り物ではないはずなのだが。
ABSのなんたるかもわかっていない消費者に商品説明をしても意味がない、というのは分からないでもないが、やはりここはキーフリーシステムからレーダークルーズコントロールまで装備するソニカの先進性、小型車並みの出来の良さをユーザーにもっと訴求すべきだ。ワケのわからないイメージで、あるいはキャラクター商品的に売られることで、クルマという商品はますますその商品力を失っていく。それはやがてクルマという商品の価値を下げてしまう。いま自動車会社にとって重要なのは、消費者への自動車技術の地道な啓蒙活動だと思うのだが。そうしないとますます「クルマの力」はなくなってしまうだろう。
試乗車スペック
ダイハツ ソニカ RS Limited
(0.66Lターボ・CVT・141万7500円)
●形式:CBA-L405S●全長3395mm×全幅1475mm×全高1470mm●ホイールベース:2440mm●車重(車検証記載値):820kg(F:530+290)●乗車定員:4名●エンジン型式:KF-DET●658cc・直列3気筒・DOHC・4バルブ・インタークーラーターボ・横置●64ps(47kW)/6000rpm、10.5kg-m (103Nm)/3000rpm●カム駆動:チェーン●使用燃料/容量:レギュラーガソリン/36L●10・15モード燃費:23.0km/L●駆動方式:前輪駆動(FF)●タイヤ:165/55R15(BRIDGESTONE POTENZA RE030)●試乗車価格:141万7500円(含むオプション:なし)●試乗距離:約120km●試乗日:2006年7月 ●車両協力:名古屋ダイハツ株式会社
公式サイト http://www.daihatsu.co.jp/showroom/lineup/sonica/index.htm