きょうの社説 2009年6月25日

◎加賀藩ネットワーク 研究成果の地域還元に期待
 北陸を中心に全国の加賀藩研究者が発足させた「加賀藩研究ネットワーク」は、歴史研 究にとどまらず、「地域貢献」と「情報発信」を活動の柱に打ち出した点で大きな意味がある。金沢、高岡市を中心に加賀藩の財産を生かした都市づくりが進められ、加賀藩を切り口にした石川、富山県西部の広域観光圏づくりも軌道に乗ってきた。いまや「加賀藩」は地域づくりに欠かせぬキーワードであり、歴史研究も地域の今と無関係ではありえないだろう。

 加賀藩研究はこれまで幅広い視点から取り組まれ、豊富な蓄積があるが、成果の共有は 研究者レベルにとどまり、専門領域に踏み込むあまり、一般の人々の手に届きにくい面もあった。歴史研究はそんなものと言ってしまえばそれまでだが、地域が成果を幅広く共有できれば、学術研究の社会的意義も一層高まるに違いない。研究ネットワークには、従来の研究会や学術組織とは違ったかたちで成果を幅広く活用し、地域へ還元することを期待したい。

 加賀藩研究ネットワークは大学教官や資料館、博物館の学芸員、学生ら約40人で発足 した。個々の研究をデータベース化してインターネットで発信し、例会や講演会、会誌発行など多彩な活動を計画している。とりわけ、ネットなどの情報基盤を最大限に生かして歴史研究の「情報化」に取り組むのが大きな特徴である。

 研究ネットワークは加賀藩について「日本近世という時代の解明にとって重要な研究対 象である」「現在の地域アイデンティティーの形成にも強い影響力を与え続け、地域住民の興味・関心の対象であり続けている」などと位置づけている。研究者が狭い範囲に閉じこもらず、地域社会に積極的にかかわっていく姿勢はこれからの歴史研究にとって極めて重要である。

 ふるさと教育の広がりで地域の歴史に対する関心はかつてないほど高まっている。そう した学びの意欲に刺激を与え、ふるさと教育の土壌に厚みを加える点でも研究者の役割は大きい。住民の知りたいという欲求にこたえるためには専門的な成果をかみ砕いて発信する工夫も求められるだろう。

◎五輪決定100日前 より緻密なロビー活動を
 2016夏季五輪の開催都市決定まで残り100日を切った。昨年6月の1次選考で、 「世界一コンパクトな会場配置」をうたう東京の開催計画は高い評価を受け、トップ通過を果たしたが、招致活動のその後の足取りは必ずしも順調とは言い難い。特にシカゴとリオデジャネイロの巻き返しが目立ち、招致レースは横一線との見方も出てきた。

 開催都市決定投票は、過半数を取る都市が出るまで、最下位の都市を除外し、2回、3 回と投票を繰り返す方法である。IOC委員の多くは既に投票先を決めているといわれるが、意中の都市が落選した場合、次にどの都市を選ぶかで、勝敗の行方が決まってくる。他都市の支持が固いとみられるIOC委員に対しても、2回目以降、確実に票を上積みできるよう緻密(ちみつ)な戦略が求められる。

 招致委員会理事で、建築家の安藤忠雄氏は、「国民の意欲や未来への希望なしに、国家 を繁栄させていくのは難しい。私はオリンピックを通して、首都東京の在り方を変えることで、日本人に未来への希望を持ってもらうことができると考えている」と述べている。私たちも同じように考え、閉塞感漂う日本の政治、経済状況を打ち破る手段として、東京開催を熱望している。3兆円の波及効果をもたらす五輪誘致の成功に向け、世論のさらなる喚起に努めたい。

 昨年6月の1次選考以降、シカゴはオバマ大統領の誕生で盛り返し、ホワイトハウスに は「五輪局」が設けられた。南米初の五輪開催を訴えるリオも支持を伸ばしているという。ライバルの追い上げに対し、石原慎太郎東京都知事は、「決め手は皇太子殿下」と述べ、10月2日、コペンハーゲンで開催されるIOC総会への皇太子夫妻の出席を改めて要望した。

 シカゴはオバマ大統領、スペインは国王カルロス1世、リオはサッカーの王様ペレが、 招致の「顔」になる見通しであり、石原都知事では、この顔ぶれに対抗するのは難しい。宮内庁には、誘致に失敗したケースを想定し、慎重論もあるというが、皇太子殿下の出席を前向きに検討してほしい。