7月の歌舞伎座(東京・銀座)で泉鏡花の2作品が上演される。坂東玉三郎と市川海老蔵が共演する。
昼の部が「海神別荘」(戌井市郎、玉三郎演出)。玉三郎の美女と海老蔵の公子の取り合わせでは3回目となる。
海の公子は陸の美女のこし入れを待っていた。美女は生け贄(にえ)として海にささげられ、最初はおびえていたが、気高い公子に次第に引かれていく。
夜の部は「天守物語」。主役の富姫は玉三郎のあたり役。海老蔵は相手役の姫川図書之助を1996年に初演し、4回目となる。
姫路城の天守閣に住む魔物の富姫は、妹分の亀姫(中村勘太郎)を招いて宴を開いていた。図書之助は城主に命じられて天守の探索に来るが、富姫と恋に落ちる。
玉三郎は「『海神』では、公子の住む海の常識に、陸はいつも否定されている。『天守』では、富姫がよそから来る者を、天守の常識に合うかどうか試します。美女は公子の気持ちを受けて、すべてを理解しますが、図書之助は下の世界から追いつめられて他動的に理解する。そこが2作品の違いです」。
海老蔵は「公子は彼自身が海。そこを理解するのが難しい。演じるのは2年ぶりです。以前よりは公子の心の豊かさ、平和への思いを理解できるようになりました。図書之助は19歳で初演しました。彼は無垢(むく)なところがある。初演から比べると、僕自身の無垢さがだいぶ薄れているので、昔の自分に負けないようにやらなければ」。
玉三郎は「高野聖」「山吹」「日本橋」「滝の白糸」など、鏡花作品を数多く演じてきた。「鏡花作品には清らかさがある。それが魅力です。演じていても清涼感があります」
海老蔵は夜の部で「夏祭浪花(なにわ)鑑(かがみ)」の団七九郎兵衛も演じる。
7月3日から27日まで。問い合わせは03・5565・6000へ。【小玉祥子】
毎日新聞 2009年6月25日 東京夕刊