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発信箱:妊婦と通勤=磯崎由美(生活報道センター)

 午前7時のJR京浜東北線は既に通勤客で満員だ。「もうだめ」。由紀さん(29)は途中下車してベンチに座り込み、つわりが収まるのを待った。埼玉の川口駅から東京・新橋まで35分。妊娠が分かり会社に出勤時間を1時間早めてもらったが、朝のラッシュは変わらなかった。

 友人がつけていたマタニティマークを思い出し、駅でもらった。マークは妊産婦にやさしい環境づくりのために厚生労働省が3年前に作成。各駅にもマークを見たら席を譲るよう呼びかける啓発ポスターが張られている。

 でも由紀さんがマークをつけた3カ月間で、席を譲られたのは2回だけ。年配の男性会社員は疲れ切り、若者はゲームや音楽に夢中だ。つわりは収まらず通勤電車恐怖症になった。退職を考えた時、会社が配慮して産休を前倒ししてくれたが、その分無給期間が延びた。「育児の経済負担を考えたら、本当は制度通り9カ月まで働きたかった」

 席を譲る人が少ないのは、マークの知名度の低さだけではなさそうだ。インターネット上では同じような経験を投稿した女性に対し「妊娠は病気でなく自分で選択したこと」「みんな疲れていて、座りたいのは同じ」といった批判が目立つ。

 確かに通勤ラッシュは誰もがつらい。郊外に家を買いローン返済のため長時間通勤する男性会社員も、せめて朝の電車ぐらい座りたいだろう。でも一方で、妊娠後数カ月間の通勤がきつくて仕事をあきらめる女性もいるとしたら。

 障害者や高齢者に席を譲る人は増えたと感じるが、通勤する妊婦は別なのだろうか。国も企業も「働くママの育児支援」を掲げる時代、変わらぬ何かの象徴にも思える。

毎日新聞 2009年6月24日 0時01分

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