午前4時に目覚め、6時にはテレビ局に入る。テレビ朝日系列「スーパーモーニング」にレギュラー出演する鳥越俊太郎さん(69)の朝は早い。05年に直腸がんの手術をしてからも、生活サイクルはあまり変わらない。
「今日のトップは新型インフルエンザです」「ここで経済への影響についてコメントが必要だ」。スタッフとの慌ただしい打ち合わせを経て、8時に本番開始。放送中もメモを取る手を休めない。一つのコメントが番組の出来を左右する。
そんな張りつめた日々が危うく途絶えそうになったのは、07年の正月明けのことだ。夜遅く、東京・虎の門病院の主治医、澤田寿仁医師から電話があった。「明日、来られませんか」
病院で待ち構えていたのは、呼吸器センター外科部長の河野匡(ただす)医師だった。「おそらく転移です」。消化器専門の澤田医師から鳥越さんの胸のCT画像を見せられた河野医師が左肺の異常を見抜いた。度重なることになる転移の始まりだった。
直腸がんは肺や肝臓に飛びやすく、転移が確認されれば末期の「ステージ4」になる。ただ鳥越さんの場合、肺への転移は2カ所だけで、手術が可能だった。「おれはラッキーだ」。気持ちを奮い立たせ、2度目の手術に臨んだ。
「トイレの中でも新聞か本かマンガ。ただ座っていられない」。生来の気質に拍車がかかったのは、がんになってからだ。黒表紙の手帳のスケジュール欄は埋まり、土曜も日曜もほとんど休まなくなった。請われるまま、がんについての講演や催しへの参加を引き受けた。生まれて初めて日焼けサロンにも行った。病み上がりの白い顔をテレビに映したくなかった。
60年安保の世代。京大生として青春を送った。時流に乗り、「やらねばならない」とデモや集会に参加していた若いころの自分がくすぐったい。「今は使命感というより、何事かをしたいという欲求に従っているだけ」なのだという。
先月14日、外来患者で混雑する虎の門病院。鳥越さんは再びCT検査を受けた。直径2メートルもあるドーナツ形の機械が、ゆっくりと体の上を動いていく。X線が照射されると、1センチ刻みで輪切りになった肺の断面図が次々とモニターに映し出された。
前の検査で左肺に直径3ミリ弱の影が見つかっていた。「また転移か」。そう覚悟はしていたものの、診断を聞くまでの時間は長かった。
およそ2週間後、河野医師が結果を告げた。「影は大きくなっていない。今のところ心配ないでしょう」。鳥越さんは「執行猶予か」と言って苦笑いした。
最初の直腸がんから4年。検査をしては手術を繰り返す「モグラたたき」のような経験をしてきた。それはこれからも続くはずだ。構えて闘うつもりはない。「好きなことをやって、死ぬ時、後悔しないように生きたい」【前谷宏】=つづく
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毎日新聞 2009年6月22日 東京朝刊