2009年06月25日

国立メディア芸術総合センターの件とか

珍しく時事ネタでも書きましょうか。書き始めてからバタバタしていて、3週間ぐらい寝かしてしまった、時期はずれエントリですが。

■『鉄腕バーディー DECODE02』第7話の件の続き

アニメ誌のインタビューで既に赤根監督がコメントしていた通り、第7話の作画がDVDではリテイクされているようですね。基本的にフローであるTVと、ストックであるDVDではその性格が異なることを理由とした改変というふうに僕は理解しています。
前に「いまさらながら『DECODE02』第7話の件で恐縮です。」というエントリーで書いた通り、僕はTV放送版を一つの所信表明と受け取り、そういう“やんちゃ”を「擁護したい」(評価したい、ではなく)とする姿勢なので、やってしまった“やんちゃ”をどうソフトランディングさせるか、ということについては「まあ、そういうものかな」と普通に受け止めています。
とはいえ、不満もありまして。各所で「じゃあ作画ってなによ?」「作品ってどういうものなのよ」という議論を巻き起こした同話だけに、願わくばTV放送版もどこかに収録され(今回は収録されてないみたいですから、最終巻でもいいので)、必要があればDVD版と比較検討し、アニメについて思考を深めることができる状態になるといいなぁとは思っています。

■国立メディア芸術総合センターの件

作品というのは劣化して失われていくものなので、アーカイブの機能を持った拠点があったほうがいいと僕は思っています。一方、プレゼンテーションあるいは展示の場所はそれほど必要じゃないんじゃないか? と。
で、アーカイブの機能を充実させるなら、既存施設のほうがノウハウも人材も積み重ねがあるわけで、新規の組織よりもはるかにアドバンテージがあるはずでしょうと。そういうわけで、基本「国立メディア芸術総合センター」は不要じゃない? と考えるわけです。

とはいえ予算も通ってしまったわけで、事情に明るい熱意のある人が責任者になれば(まあ、それはそれでハードルがめちゃ高ですが)、少しずつ整備されていくのかな、と無理矢理前向きに考えないでもなかったわけですが、先日、朝日新聞の小原・アニマゲ丼・篤記者から報告書についていろいろと教えてもらい、いろいろ疑問がある計画だなぁと。

まずは、
「メディア芸術の国際的な拠点の整備について(「国立メディア芸術総合センター(仮称)構想について)」
http://www.bunka.go.jp/oshirase_other/2009/mediageijutsu_090514.html
ここが基本情報。

ここから報告書(pdf)が読めます。
http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/kondankaitou/madiageijutsu/pdf/houkokusho_H210428.pdf

一番気になったのは、「すべて民間委託で運営します。センターの運営は,民間に委託し,原則として,必要な財源は自己収入により賄うこととしています。いわゆる「天下り」や「税金による赤字補填」は考えていません。」という部分。
確かに税金の無駄遣いが避けられるのは好ましいことですが、それはセンターが十分機能することが前提でしょう。自己収入で、期待されるような機能を十分まかなうだけの財源が確保できるのか。その前提がなしくずしになったら、意味がないわけで。

報告書によると、入場料250円、年間入場者数60万人(この人数の算定もいろいろ疑問が……)で1億5000万円が入場料収入。そのほか協賛金や寄付金や、刊行物や施設貸し出しにより、自己収入で運営すると。これはどこまで実現性のあるものなのか。

国立メディア芸術総合センターの広さは10000平米程度。東京都写真美術館より一回り大きいサイズなんで、参考までに東京都の写真美術館がどれぐらい運営費がかかっているかを調べてみました。
http://www.syabi.com/extra/07_08repo005.pdf
ここの「予算額に占める自主財源の割合」を見て下さい。写真美術館は賛助会員を募ったり、企画を見直すことで入場者数を増やしたりと、非常に努力しているようですが、それでも自主財源は総予算額の25%に欠けるぐらいでしょうか。そして、年間の総予算はだいたい6億円ぐらいかかっています。国立メディア芸術総合センターが、果たして自力で6億円も稼ぎ出すことができるのか……。かなりアヤしいのでは、と思わざるを得ません。箱者行政的な机上の空論の上に運営計画があります。

あとはなにを展示するか、ですが、マンガ・アニメ・ゲームには、まあ、結構やんちゃな(笑)内容のものもあるわけですよ。で、写真美術館のこんな記事。

岡部:写真美術館の学芸員のかつてのタブーというのは主にどういうものだったのでしょうか。

福原:いろいろあるんですよ。たとえば、ヌードはやりたくないとか。都立美術館ですから、都の議員の奥様方が見にきて、都の建物でヌードの写真があったなどと、いろいろ言われるわけです。だからどうってこともないのだけど、写真美術館にいる人たちは、みなさんお役人ですから。そういう方々に対しては非常にデリケートに反応されるわけです。でもそんなものは構わないじゃないかと。それに本当にいい作品だったら何だって構わない。


ある程度オーソライズされている写真という分野ですらこんな感じだったことを考えると、国立メディア芸術総合センターが行う作品の収集や企画展示というものが、どんなものになってしまうのかもなんとなく不安に感じます。

というわけで僕は国立メディア芸術総合センターについてははっきり否定的な見解を持つに至りました。
まあ、一方で反対する側の意見についても不満はありまして。税金の無駄遣いという意見が出るのは結構なんですが、「アニメ・マンガ・ゲームのジャンルのあるべきアーカイブ構築」(あるいは「積極的な観光拠点としての整備」でもいいんですが)、コンセプトを煮詰めるという建設的な方向でまったく意見が出なかったのは残念です。「つっこみどころはそこじゃないだろ」なんて思っちゃいましたね(笑)。

■実は「JAniCAシンポジウム2009」についても思うことあったので、書こうと思ったんですが、長くなったので、それはまた別の機会にでも。

personap21 at 10:02 │TrackBack(0)この記事をクリップ!ニュース 

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