逮捕から約17年半ぶり、有罪確定から約9年ぶりの再審決定である。栃木県足利市で保育園の女児が誘拐、殺害された足利事件の再審請求即時抗告審で、東京高裁は無期懲役が確定し、その後釈放された菅家利和さんの再審開始を決定した。
検察側は、宇都宮地裁で開かれる再審裁判で有罪立証をしない方針であり、無罪確定へまた大きな一歩を刻んだといえる。
高裁は、女児の下着に付着した体液と菅家さんのDNA型が一致しなかった再鑑定結果を「自白の信用性に疑問を抱かせるのに十分な事実」と指摘し、「菅家さんが犯人であると認めるには合理的な疑いが生じてくる」と明快に結論づけた。
一方、弁護側が「冤罪(えんざい)の真相解明が必要」として要求していた警察庁科学警察研究所技官らの証人尋問は認めなかった。審理を長期化させず、名誉回復を優先させた結果だろうが、冤罪を生んだ原因の究明はひとまず打ち切られた格好だ。
菅家さんは「気が晴れない部分もある」と語った。国家によって不当な拘束を余儀なくされた「被害者」が、事の真相を一刻も早く知りたいと思うのは当然だろう。
菅家さんの釈放後、最高検は異例の謝罪を表明した。栃木県警は本部長が直接謝罪することで深い反省の意を表した。後は「被害者」の思いを重く受け止めて応えることが重要だ。
高裁が決定理由で触れなかった捜査や裁判の問題点こそが、今回の「冤罪」の核心部分であることは言うまでもない。
有罪の「決め手」になったのは、当時最新の科学鑑定とされたDNA鑑定だったが、再審の決定理由の中でも述べているように、DNA型と血液型が一致する出現頻度は1千人に1・2人程度にすぎなかった。
ほかに直接証拠がない状況の中で、この結果を過信し、「自白」と目撃証言の違いなどの矛盾点をつぶす作業を行わないまま捜査が進んでしまったのではないか。なぜそうした過ちを警察や検察は犯し、裁判所は見過ごしたのか。なぜ再鑑定を長期間行わなかったのか。
最高検は、検事による独自のチームで捜査から公判までの全過程を調査するとしている。だが、初の裁判員裁判が近づく中で、強要された「自白」と精度の低い科学鑑定が誤判を生む恐れと不安を市民は感じている。
宇都宮地裁での再審裁判では、捜査や公判の問題点を問い、誤判の原因究明に向けて審理を尽くさなければならない。
「もったいない」か「仕方ない」のか―。消費期限が迫った弁当やおにぎりなどの値引き販売問題をめぐり、コンビニエンスストアのビジネスモデルの在り方に一石が投じられた。
公正取引委員会がコンビニ最大手のセブン―イレブン・ジャパンに対し排除措置命令を出した。売れ残りそうな弁当などをフランチャイズ(FC)の加盟店が値引きして売る「見切り販売」を制限したとして、独禁法違反(優越的地位の乱用)と認定したからだ。
契約では加盟店が価格を決められる。だが、加盟店は事実上、同社が示す「推奨価格」で売っている。弁当などの見切り販売をしようとすると、社員が「契約解除をする」と示唆するなどの圧力をかけたとされる。
同社によると、弁当などは消費期限の2時間前に売り場から撤去して廃棄する。「もったいない」といわれるゆえんである。廃棄品の原価相当額は加盟店が負担する契約で、廃棄が増えるほど店の負担が重くなる。
本部からすれば、値下げして消費期限切れ寸前の商品を売ると、新鮮な品を扱っているというイメージを損なう上、店によって値引き幅などが違えば、系列店同士で客の奪い合いになりかねない。これが「仕方ない」という理由で、値下げ販売に反対する店も少なくない。
公取委は見切り販売ができるよう、同社に具体的な方法を示した加盟店向け資料の作成も命じた。確かに必要な措置である。各店まちまちの対応では、混乱が生じるだけだ。
コンビニ業界では、同じような図式で本部が勧める価格での販売が主流という。今回の公取委の判断で見直しを迫られよう。食品廃棄を減らす意味からも、「もったいない」の精神を優先して対処すべきだろう。
(2009年6月24日掲載)