『ヒール星の悲劇』  ヒール星にはヤプール戦争によって生まれ故郷を去らざるおえなくなった人々の避難場所として、宇宙各地から難民が集めて いた。難民収容のためのキャンプが至るところに張られており、増え行く人口に苦慮していた。また宇宙各地から集まっている こともあって言語が異なる人々も少なからず存在し、そのための翻訳機も数が全然足りないという有様だった。  さらに、例え意思の疎通が叶ったとしても、全く異なる文化に住む人々同士のいざこざは絶えず、毎日どこかで騒ぎが起きて いる。それに乗じて避難民に生活必需品を高値で売りつける不逞の輩も数多く、それらの取り締まりに奔走していた。  やるべきことはとてつもなく多いが、避難場所となったこともあってヤプール軍の攻撃もない比較的静かな惑星である。  そのため、ヒール星の防衛隊はとてつもなく退屈である。  歴戦の勇士エース、グレート、エースキラーも退屈な日々をこの星で過ごしていた。少し前までは宇宙各地を転戦してヤプー ル軍と戦った彼らはセブンほどではないが、各地で大きな戦果をあげていた。  一大反抗作戦が立案された際、彼らはサンド星辺りの最前線で戦うつもりでいたが、このヒール星の防衛を命じられたのであ る。勿論、彼らは猛然と抗議し、別の戦線への転属を願い出た。大規模な攻勢によってヤプール軍も避難民にまで手が回らない と考えてのことである。何より、これだけ大きな作戦から外されたくない、という戦士としての誇りもあった。  しかし、ウルトラの父とゾフィーの考えは違った。彼らはヤプール軍の一連の攻撃からヒール星を中心とした周辺の宙域が外 れていることに気づき、これを敵が避難民を一網打尽にしてこちらの無力を全宇宙にアピールして、各方面の抵抗を一気に沈静 化させる作戦であると考えたのである。  ならば、反抗作戦への対応で手一杯になったとしても、むしろそれゆえにヒール星を攻撃して、こちらが前線に貼り付けてい る兵力を後方へ回させようとすると見なした。  渋々ながら中央の正しさを認めた三人はヒール星での任務を受け入れ、この星で退屈な時間を過ごしているのである。  そんな退屈な日々を凌ぐために彼らは地球のボードゲームであるチェスと将棋にせいを出していた。しかし、エースは二人の 対局を遠目から眺めるだけで駒を手に取ろうとはしなかった。  たまにさそってもこう嘯く。 「十回も連続で負けてやる気がなくなったんだよ」 「お前が弱すぎるんだ。せめて、いきなりクィーンや飛車で中央突破しようとするのだけはやめろ」  定石の「じ」の字も知らないバカ・エースは憮然として立ち上がり、吐き捨てるように言う。 「ちょっくら見回りに行ってくらあ」 「そうか。面白い話があったら聞かせろよ」 「期待しないで待ってるからな」  部屋から出て行くエースを見送りもしないで二人はチェスを続ける。 「ま、どうせ避難民のいざこざを解決するくらいしかやることはないんだけどな」  グレートは言いながら勝利を目指して駒を進める。 「そうか? オレなんか話がややこしくなるから、近くに立っているだけでいい、て言われたぞ」  エースキラーはそれに最善の手をもって応じた。 「それはそれで問題だな……そういえば、ゾフィーは我が軍にスパイがいるとか言ってるが、どう思う?」  戦争開始直後から、ゾフィーは自軍の情報がヤプール軍に流出していることに気づいた。しかし、それが何者であるのかは 全く分からず、今もなおそれは続いている。今のところ致命的な打撃は受けていないが、ゾフィーはスパイの洗い出しに全力 をもってあたっている。 「オレたちのなかに裏切り者がいる、ていうのはあまり気分のいい話じゃないな。エースのやつは見つけ次第、ぶっとばして やる、とか言ってたぜ」 「ま、それはオレたちが考えることじゃないけどな。と、これでチェックメイトだ」  グレートのこれまで進めてきた戦略が功を奏し、エースキラーのキングは見事に次の一手で捕らわれの身になる配置に置か れた。頭の回る者なら自らの負けを素直に認めるであろう、この配置でもエースキラーは余裕を崩さず、急がず慌てずに最善 にして最強の一手を打つ。 「フン。異次元超人をなめるな」  エースキラーの一手は、グレートが追い詰めたはずのキングの活路を開くのみならず、これまでのグレートの進めてきた戦 略を一度にひっくり返す。乾坤一擲の妙手であった。あまりのことに苦渋の表情で勝利の可能性を考えてみたが、十分ほどで いかなる手を使っても六手以内にこちらのキングがナイトの餌食になることが分かって投了した。 「どこでこんな手を?」 「エースに勝つために、過去の対局とか調べてたんだよ。そんなことしなくても勝てただろうがな」  エースキラーの示した過去数万戦に上るデータの入っているという『チェスにおいて最も輝かしい勝利』と銘打ってあるデ ィスクを見てグレートは呆れ半分で呟く。 「そこまでやるかお前は」  エースは翌日から頻繁に外に出るようになった。  グレートとエースキラーはその変化に気付かないで時間潰しで始めた将棋とチェスの新しい遊び方を追求していた。挟み将 棋や周り将棋は序の口で、将棋の駒とチェスの駒で戦うというどうコメントすればいいのか分からないこともやっていた。  つまるところ、彼らは退屈すぎて半ばおかしくなりかけていたのである。そんな二人を尻目にエースは五日連続で外のパト ロールに出かけている。今日もまた、楽しげに外に出て行った。  その様子を見ておかしく思わないほうが変である。グレートは額に手を当てて暇つぶしの方策を探すエースキラーに声をか ける。 「なあ、最近のあいつ、やたらと見回りに行きたがらないか?」 「そういやそうだな」 「なにか面白いことでも見つけたのか?」 「あいつの性格なら、聞かれもしないのに話したがるだろうから、違うだろうな」 「それじゃあ、なんであいつは」  言いかけると、グレートは思い当たることがあって顔をニヤニヤさせる。 「ははーん、分かったぞ。全く、エースもどうして、なかなかやるじゃないか」 「どういうことだ?」 「よし、これからエースとエースの見つけた麗しの姫君の密会の現場を抑えに行こう」  グレートがどうして突然立ち上がって出て行こうとするのかエースキラーには理解できなかった。 「密会? 麗しの姫君? なんで?」 「ロボットには分からんだろうな」  首をかしげるエースキラーの手を引いていこうとするが、エースキラーは手を振りほどいて憮然として言う。 「あいつが何をしてても、オレには関係ないぞ」  一瞬、置いていこうかとも思ったが、エースキラーを名乗るこのロボットに自分の弱みを握られた、という事実がどれだ けエースに精神的打撃を与えられるか分かっているグレートは姦計をもってでも連れて行くことに決めた。 「エースの弱みを握れるかもしれないんだぞ」 「なら行こう」  即答したエースキラーを連れてグレートはエースの尾行をはじめた。  エースは二人の同僚に追跡されていることも知らずにアプラサと待ち合わせている場所へ鼻歌交じりに歩いていた。少 女アプラサが性質の悪いチンピラ宇宙人にからまれているのを助けて以来、エースはパトロールと称して彼女に会いに行 くのが日課となっている。なにもない星ではあるが、彼女といられるだけで充実した気分になれた。これまでの退屈全て を吹き飛ばして余りあるほどに。  アプラサはとても綺麗な女の子であった。不届きにも、彼女に絡んでいたチンピラの気持ちが理解できるほどに。そん な彼女が待ち合わせ場所で行き交う人々の中から自分を探しているのを見て、エースはたまらなく幸せな気分になった。  そのまますぐに飛び出していこうかとも思ったが、念のために手鏡でもう一度身なりを整えてから彼女の前に姿を現した。  アプラサはその太陽のような笑顔でエースを迎えるとその手を握って尋ねる。 「今日はどうする?」  それが問題だった。この五日で改めて、この星は本当に避難民のテントが並ぶだけのなにもないところであることが分 かった。少しでも目新しいところがないものかと考えを巡らした矢先に、 「やあやあ、エース君。こんなところで奇遇だね。あーっ、可愛い子を連れてどうしたのかな?」  一番聞きたくない声を耳にしたエースは身体ごと振り返って、意地悪な笑みを浮かべるグレートと手持ち無沙汰に立っ ているエースキラーに罵声を浴びせる。 「なんでおめーらがここにいるんだよ!!!!!」  周りの通行人が皆、なにごとかと振り返るほどの大音響を受けても決定的な切り札をもつグレートは慌てず騒がずしら をきる。 「偶然だ偶然」 「嘘吐け!! どうせ尾行でもしてたんだろ!!!!」 「そこまで分かってんならいいじゃないか」  エース必死の反撃をうけてもグレートは楽しそうな顔で応じる。 「開き直りやがった」  拳を握り締めて怒り心頭のエースの横できょとんとしたアプラサがグレートに話しかける。 「お知り合いですか?」 「御機嫌よう、マドモアゼル。僕の出来の悪い友人と仲良くしてやってください」  礼儀正しく一礼するグレートにエースキラーが小声で尋ねる。 「なあ、なんでこいつはこんなに慌ててるんだ?」 「お前のような機械には分からないかもしれないが、オレたちはこういうことが十分に弱みになるんだ。エースキラーを 名乗るならばっちり憶えときな。思わぬところで役に立つかもしれないぞ」  それでもエースキラーは釈然としないものを感じたが、目の前の男の動揺振りを見る限り、これが有効であることは間 違いないと気づいてグレートと一緒になってからかうことにした。 「闘士たる者がこんなことで動揺するとは情けない限りだ」 「その棒読みみたいな台詞をなんとかしろジャンク」 「んだとぉ!?」  その日のデートはエースには甚だ不本意なものであったが、二人にとっては甚だ満足のいくものに終わった。  それからもエースは二人に冷やかされながらアプラサと会い続けた。この二人の会合はエースのみならず、グレートと エースキラーにとっても退屈という砂漠のただなかで、甘美なオアシスを見つけたような感動に満ちていたのである。  そんなある日、二人に気づかれないようにしてデートをしたエースは別れ際にアプラサか衝撃の告白を受けることにな った。 「エース。すぐにこの星を出て欲しいの」  アプラサの突然の発言の意図を理解できず聞き返した。 「どうして?」 「明日の正午、ヤプール軍の攻撃が来るから。早くしないと殺されるわ」  それだけ言われてもエースはそれが冗談の類だと思い、軽口で返す。 「この星以外のところに行きたいのか? でも、それは休暇がとれてからでないと」  この戦時下に、それがいつになるのかはまさに神のみぞ知るところではあるが。  アプラサはなかなか本気にしてくれないエースに暗い面持ちで残酷な真実を告げる。 「私は……私はヤプール軍のスパイなんです」  それからアプラサはさらに詳しい情報をいくつかの証拠と織り交ぜて説明した。宇宙警備隊に所属しているエースには それが決して虚言や妄言ではないことが理解できる重大な内容であった。  エースはかつてエースキラーに語った対スパイの対応と全く異なる応対を彼女にした。 「いいかアプラサ。君は絶対に自分のことを人に話すんじゃないぞ」  そう言うと踵を返して走り出そうとするエースの身体に飛びついて引き止める。 「待って、どこにいくの?」 「決まってら。すぐにこのことを皆に報せて、迎撃準備を整える」  あまりにもウルトラ戦士らしい答えに面食らったアプラサは必死になって説得する。 「勝てっこないわ。ヤプール様はここに駐留している軍の五倍を投入してくるのよ。絶対に殺される。だから逃げて」  腰にまとわりついて重石になるアプラサにエースはその腕を強引に振り切って答える。 「だとしても、オレは皆を守るために逃げるわけにはいかないんだ」  アプラサの悲痛な声を聞かないようにしてエースは走り出した。自分のなかの迷いを断ち切るかのように。  ヒール星防衛軍司令部にエースはアプラサからえたヤプール軍襲撃の情報を届けた。当初は難色を示した司令部をどう にか説得したエースは残された僅かな時間を駆使して、防衛体勢を整えて、ヤプール軍の襲撃に備えた。平和な星に駐留 していた部隊は手際よく動くことは出来なかったが、エースの支持は的確で、どうにか体裁を整えることに成功した。  そんな時、この星にもウルトラの星からメビウスの鍵に関する伝令が届いたが、こんな辺境にそれをもっているような 強力な戦士が来るとは思えなかったので、それは大して話題にならなった。  アプラサの言ったとおりの時間と場所にヤプール軍がやってきた。完全な奇襲攻撃になると見越していたヤプール軍は 防衛軍の思わぬ反撃に驚いたが、後に続く膨大な物量に勇気付けられて予定通りに攻撃を続けた。さしもの防衛軍も五倍 の軍勢に押されて戦線は崩壊してしまった。  しかし、その戦いのさなかにあっても、三人の戦士はただの一歩も引き下がらないで戦い続けた。 「こりゃいい、どこを向いても敵だから探す手間が省けるぜ」  エースは手当たり次第に鉄拳を超獣に叩き込んで得意そうに言う。 「なにいってやがる。完全に包囲されてるだけだろうが」  文句を言いながらエースキラーは一体ずつその手のランスで超獣を切り裂いていく。 「無駄口叩いてる暇があったら、一匹でも多くヘチ倒せ」  グレートも腕を伸ばしてきた超獣の腕を掴んで投げ飛ばした。  さしもの死を恐れない屈強な超獣たちも怯んで、この三人に挑みかかるのを尻込みするようになった。こちらを遠巻き に見つめる超獣を一瞥してエースは呟く。 「ようやく一息つけるな」 「そうでもないらしいぞ」  グレートは包囲の一角から進み出てきた一体の超獣の存在に気づいた。その超獣は超獣にしては珍しく天女のような羽 衣を纏っていた。しかし、それがグレートの目をひいたのではない。その超獣からは周りにいる全ての超獣を束にしても 感じられないような圧倒的な存在感を放っていたのである。 「こいつは……」 「今までぶち倒してきたのとは一味も二味も違うな」  新たに現れた超獣に気圧されたのを見て、遠巻きに見ている超獣の一人が得意そうに語る。 「どうだこの方はアプラサール。ヤプール様配下の三戦士の一人、超獣アプラサール様だ。お前らなんざものの五分もか からないで皆殺しだ」  得意気な超獣にエースはより得意気に応じる。 「つまり、こいつを倒せばオレたちはヤプールをぶちのめしに行ける、てわけだな」  こんな辺境でメビウスの鍵つきの幹部に遭遇するのは心底意外な展開だが。と胸中で付け加える。 「倒せればな。ま、そんなことは天地が引っくり返っても不可能だがな」  その言葉が終わると同時にアプラサールの羽衣が蛇のように伸びて襲い掛かってきた。固まっていた三人はそれぞれ散 開し、死へと導く羽衣をかわした。それと同時に分散した三人に取り囲んでいただけの超獣が襲い掛かる。 「ちぃっ!」  仲間と引き離されたエースが舌打ちするとその眼前にアプラサールが立ち塞がる。 「一対一に持ち込むための作戦か。意外と自信がないんだな」  エースの軽口には何も応じないで黙って羽衣を叩きつける。想像以上の衝撃にエースは弾き飛ばされるが、空中で体勢 を整えて着地する。口から伝ってくる血をぬぐって立ちあがる。 「まだまだ」  アプラサールはその布をエースの腕に絡めてエースの動きを封じ込める。エースがそれを利用して力比べを挑もうとす るが、アプラサールはその圧倒的なパワーでエースを主戦場から大きく離れた地へ投げ飛ばした。  ヤプールの選んだ三人の戦士の一人というだけあり、想像以上に強い力をもっていたのは認めるしかない。一人で 倒しきるのは少々骨だろう。だが、こうして指名してくれたからには一泡くらい吹かしてやらないと気がすまない。  叩きつけられて痛む身体に鞭打って立ち上がるとアプラサールがやってきた。しかし、今のアプラサールは先刻のよ うな闘気を放っていない。それどころかそもそも戦う気がないようにも見える。  戸惑うエースにアプラサールは回りに他の超獣の姿がないことを確認すると、ようやく口を開いた。 「エース。今なら、誰も見てない。だから逃げて」  始めて聞くアプラサールの声はその外見からは想像もつかないどこかで聞いたような穏やかなものだった。だが、 この場合驚くべきはその口にした内容である。 「どういうつもりだ?」 「エース、私の声に聞き覚えはありませんか?」  エースはようやくこの聞き覚えのある声の主を思い出した。似ても似つかぬ姿だが、振る舞いにはどこか面影が ある。間違いあるまい。 「アプラサなのか?」  アプラサールは目を合わせないようにして、自分はヤプールに忠誠を誓ったこの宇宙の住人アプラサが改造されて 生まれたアプラサールであることを告げた。自分の正体を語るときの彼女はとても悲しげだった。 「貴方にこんな姿は見せたくなかったけど、貴方を救うにはもうこれしかない。  お願い。何も言わないで逃げて。肉片一つ残さないで殺した、て報告するから。生き延びて、もう会えなくてもい い、貴方が生きているだけで私は嬉しいの。だから逃げて」  想いを尽くした説得を重ねるが、エースはあくまでウルトラ戦士であった。 「すまねえな。オレは仲間を見捨てるわけにはいかないんだ。そこを退いてくれ。オレにはまだやるべきことがある」  このまま行かせては途中の経過はどうあれ、エースは戦いの最中に命を落とす。確かに彼は強いが、あまりにも戦力 に差がありすぎる。  せめて、目の前にいる彼以上の実力者が一人でもいればいい目も出るのだが……  分断されて各個に撃破されつつあったグレートとエースキラーはどうにか合流して、応戦していた。しかし、何重に も取り囲む超獣の軍団を突破するには至らず、ひたすら消耗戦を強いられていた。このままでは力尽きるのも時間の問 題だろう。 「エネルギー残量もあと僅かか。このままだと負けるな」 「弱気になるなエースキラーの名が泣くぞ」  自らを奮い立たせようとしている彼らに最後の絶望が襲ってきた。エースと戦っていたはずのアプラサールが二人の 前に現れたのである。最悪の敵の登場がエースの死を意味していると考えたエースキラーは闘志を新たにした。 「エース、お前の仇はとってやるからな」  アプラサールはエースキラーの猛烈な敵意に全く動じないで、味方に向けて攻撃を仕掛けた。三戦士の一人上に不意 打ちであることも相まって、超獣たちはあっというまに吹き飛ばされていく。敵も味方もあっけに取られている最中、 反対の方向からエースが光線技による連続攻撃で超獣を蹴散らしながらアプラサールに合流した。  あまりの展開に事情を全く理解できないグレートとエースキラーはヤプール軍同様に顔を見合わせた。 「どういうことだ?」 「さあ?」  仲間の突然の裏切り行為に驚愕した超獣が厳しく問いただす。 「どういうつもりだ?」  悲壮な決意をしたアプラサールは答える前に全ての因であるエースの横に並んだ。 「ごめんなさい。今から私は貴方たちの敵になります」  アプラサールの発言を耳にした超獣の一人が引きつった顔でアプラサールを弾劾する。 「本気で言っているのか? お前は全てを承知でヤプール様に忠誠を誓ったのではなかったのか? 我々とともに戦う ことを誓ったのではなかったのか? 答えろアプラサール!!!」  その声には裏切り者を罵るような色はない。むしろこれまで戦ってきた戦友に呼びかけるような悲痛な叫びであった。  勿論、彼女とて改造されたことだけを理由にヤプールに従っていたわけではない。ましてや伊達と酔狂で他次元侵略 の片棒を担いだわけではない。彼女はヤプール次元の惨状を聞かされ、そのために協力することを誓ったのである。  しかし、エースと出会って考えが変わった。アプラサには愛するエースを殺してまで、この侵略に手を貸そうと思え なくなったのである。だからこそ、エースを必死で逃がそうとしたが、エースの不退転の決意を変えることが出来ず、 エースを救うためにかつての仲間に弓引くことを選んだ。  隣のエースと顔を合わせて頷き合うと、アプラサールは無言で自分を弾劾する戦友たちを次々と手にかけていった。  エースを生かすためだけにヤプール軍を裏切った彼女に対してヤプール軍は万一の裏切りを考慮して備え付けてい た外部からのエネルギー供給を絶った。死線の真っ只中でただの無力な少女に戻ったアプラサの運命は決まったよう なものである。エースはそれでも必死に彼女を守ろうとしたが、その甲斐なく深く傷ついた。  裏切り者を始末したヤプール軍は改めて作戦を続けようとしたが、アプラサが傷ついたことで怒りを爆発させたエ ースの獅子奮迅の活躍によって撃退したのである。しかし、アプラサの傷は深く、この星の医療施設では助けるなど 出来ない相談であった。  多数の超獣の死体が転がっている戦場のただなか、アプラサはエースの腕の中で息を引き取ろうとしている。顔に は死相が色濃く出ており、呼吸も不規則で身体も少しずつ冷たくなっている。エースはそんな死の臭いのする彼女を 元気付けようと必死に呼びかける。 「死ぬんじゃない、アプラサ。この戦争が終わったら、一緒に色々なところに行こう。  オレたちはまだこれからのはずだ」  アプラサは微笑み返すが、その顔にはいつものような生気がない。 「すまねえ、皆を守る、て言っておきながらお前一人すら満足に守れなかった」  涙を流すエースにアプラサは最後の力を振り絞って、自分の内にあるメビウスの鍵を渡す。自分のような存在がこ のような悲劇に見舞われないために。 「……エース……この鍵で……宇宙に平和を」  願わくばヤプール次元にも平和が与えられんことを祈ってアプラサはエースの腕の中で永い眠りについた。  アプラサと最後の別れを迎えて号泣するエースの姿を見たエースキラーはかつてグレートにエースの弱味になり得 ると言われても釈然としないものを感じたが、今の彼の姿を見てようやくその意味を理解できた。 「……オレ、なんであいつが泣いてるのか分かるような気がする」 「そうか。これでロボットもまた一つ賢くなったわけだな」 「だが、あれだけ賭けられるやつがいる、ていうのは本当は弱味じゃないような気もするけどな」 「……そ、そうだな」  グレートは思ったよりも理解の早いロボットの学習機能に舌をまいた。  それからエースは今回のことを全て報告した。スパイを庇おうとしていたことも告白したため、重大な利敵行為を 行おうとしていたと非難されたが、それはゾフィーがヤプールの本拠地へ乗り込むことを条件に不問にされるよう取 り計らったためことなきをえた。  いよいよメビウス星のヤプールの元へと乗り込む段になったが、ゾフィーはヒール星の防衛を薄くなりすぎること を心配して最低一人残ることを厳命した。  減刑のために行かなければならないエースは無条件で了承したグレートとエースキラーだが、二人ともメビウス星 に行きたがったので、最終的にこの星で培ってきたチェスの腕前で決着を着けることにした。都合、七回の対局の末 に4:3でエースキラーが勝利を収め、メビウス星への切符を手にした。  当然ながら、グレートが戦争終結までこの星で退屈きわまる日々を過ごしたことは言うまでもない。勿論、結果に はあまり納得してはいなかった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  これでヤプール編において語られなかった三つの話が全て終わりました。意外と長引くものですね。  現在、私はウルトラマン超闘士鎧伝の、即ちエンペラ戦争編の終結を目指して構想を練っています。  ネット上にウルトラクロスや太陽の棺の設定がアップされていなければ不可能だったでしょうが、それがあったおかげ で、執筆の目処が立ちました。とはいえ、まだ曖昧な設定もあり、ダークベンゼン編においてウルトラマンがエンペラ戦 争で行方不明になったとか、三対合体したメタルモンスの名前が思い出せないとかがあります。それ以外の非公式な部分 は何とかでっち上げてみせる予定です。  次回はそのための予行演習としてウルトラベル争奪戦を描きたいと思います。いずれ始まる最終章がウルトラサーガの 締めくくりに相応しい物語に仕上げられるよう一層の努力をする所存です。  ま、こんなSSを読んでいる人間がどれだけいるのかは知りませんが。