『惑星サンドを奪還せよ(後編)』  南の陣営に向かった十にも満たない戦車隊は陽動だった。恐らく敵が超獣戦車に警戒していると考え、それに強 い注意を払っているに違いないと推測した。上手くいけば、主力を南に集中させられるはずであったが、意外にも 南にやってきたのはバキシムとロボット軍団だけであった。当初の予定とは違ったが、下手に時間をかけると策を 見破られる恐れがあったので、この辺で妥協して基地の司令は北の陣営へと攻撃に出たのである。  それを見た戦車隊は策が不備に終わったことは不満だったが、この攻勢に呼応しないわけにいかないので、彼ら もまた北の陣営に突撃した。  基地を囲む陣営の間はだいたい一時間の間隔で開かれており、南の陣営にいるバキシムとバルタン星人Jrが北 にやってくるには単純計算で三時間ほどかかる。かなり急いでくるだろうが、それほど時間は変わらないだろう。 他の五獣士たちもやってくるだろうが、彼らの援軍も二十分間隔の少し間延びしたものになると思われる。  なんにしても、ゴモラの使命は基地から出てきたサンド星駐留軍と超獣戦車隊の猛攻を力の限り防いで、援軍の 到着を待つことである。ゴモラはあえてより困難な超獣戦車隊と戦うために砂漠の向こうから散発的に出ては一撃 離脱を繰り返す羽虫のような敵の矢面に立つ。 「きやがれ。近づく奴は片っ端から俺が叩きのめしてやる」  ゴモラはそのパワーで奮戦したが、数倍もの戦力の差をひっくり返すことは困難だった。ましてや挟み撃ちであ る。それで一時間を支えたのは彼の血を吐くような努力の賜物だった。  味方がほぼ散り散りとなって、部隊の把握すらおぼつかなくなり、間もなく全滅と思われた瞬間。天の助けが彼 に差し伸べられた。  矛を交えていた敵が後退していったのである。超獣戦車隊も急遽戦闘を中断して砂漠の向こう側に去っていく。 理由は分からなかったが、安心すると今までの疲れがどっときてへたり込んだゴモラに戦友たちの叱咤が飛ぶ。 「どうしたゴモラ!!! 闘士の名が泣くぜ!!!」  エレキングとベムスターが秩序正しい軍団を率いて救援にやってきたのである。エレキングとベムスターの隊が 混乱する味方を助け、崩壊しつつあった戦線が修復されるのを見た戦車隊は再びチマチマとした攻撃を再開した。 この様子ならしばらく戦車隊の大規模な突撃はないと判断したベムスターは基地からの超獣は受け持つといった。 「仕方ねえ。楽なところはおまえにくれてやる」  苦笑いを浮かべてベムスターは今にも攻勢をかけてきそうな内側の防衛網を強化るために突入する。それを見 送ると、牽制のために散発的に遠距離からの攻撃を重ねる戦車隊に目を移した。戦車隊は内側の攻撃が陣をほこ ろばせないか注意深く観察し、突撃の機会を窺っていた。  戦いはまだ終わっていない。  バキシムとバルタン星人Jr、ロボット軍団はひたすら急いでいた。後続の部隊が追いつけないのも無視している が、それはあの作戦が実行された後に役立つ予備兵のようなものである。遅れてきたとしても、あまり問題ない。  単純な陽動作戦に翻弄されたことに気恥ずかしさと悔しさを感じながら、それを晴らすために隠すために二人はひ たすらジープのアクセルを踏んで急いだ。バルタン星人Jrは運転するバキシムを叱咤しているだけなのであるが。 「急げ!! 急がないと囲みを突破されるぞ!!」 「どくでっしゅどくでっしゅどくでっしゅ!!」  この包囲戦が最大の山場を迎えていることを本能で感じ取ったバキシムの操るジープあまりの鬼気迫る勢いに途中 の陣地の兵士たちは思わず道を譲る。  北の陣地につくまであと二時間余り。それまで彼らの仲間は持ちこたえることが出来るのだろうか?  長い戦いはいかに百戦錬磨の闘士たちといえども、疲弊させずにはいない。何回目かの突撃でエレキングは油断し て不意をつかれ、砂漠の上に転がされた。  その隙を見逃さないで、彼を転がしたブロッケン上のヤプールコマンドが槍を振り下ろす。エレキングは目を瞑っ て腹を貫く熱いものに備えたが、いつまで待ってもそれはこなかった。恐る恐る目を開くと、ゴモラが槍の切っ先を 両の手を使って挟み込んだのである。槍を挟まれたヤプールコマンドはブロッケン上で取り戻そうともがいている。 ブロッケンはゴモラに槍を手放させようとガスを噴出して攻撃している。  気を取り直したエレキングはすぐに立ち上がって動きの取れないブロッケンとヤプールコマンドに、強烈な電流を 流し込んで黒コゲにして、命の恩人に礼を言った。 「ありがとな。助かった」 「さっき俺も危ないところを助けてもらったからな。おあいこだ」  振り向いたゴモラの背後に迫る超獣をエレキングが電撃で感電させた。 「これでまた貸しが出来たな」 「すぐに返してやるさ」  戦いが続くと、いかに二軍団もの救援を得て再生した北の陣営も次第に混乱してきた、そこをすかさず突いた突撃 が統制の最後のたがを打ち砕き、そこへさらに駄目押しの突撃を敢行したのである。これまでにない危機にゴモラと エレキングは顔を青くして目を見合わせる。  絶望的な脅威に勇気を振り絞って対峙していると、迫り来る超獣戦車に光線が撃ちこまれ、一組の超獣戦車が倒れ た。後ろを見ると、ベムスターが頭部の角から破壊光線を放ったことが分かった。 「あっちが落ち着いたからな。こっちを手伝うことにした」 「それはありがたいが、死ににきただけかもしれないぞ」  背後が落ち着いたとはいえ、部隊がいまだに混乱から立ち直っていない。今、この突撃に巻き込まれれば乱戦の中 でもれなく命を落とせるだろう。それを分かっていながらベムスターは笑って言う。 「お前らとなら悪くないかもな」 「そうかもしれないな」 「そういえば聞いてなかったが、バキシムはどんな作戦を考えたんだろうな?」 「さあな。万一に備える、とか言って教えてくれなかったからな」 「あいつが来れば分かる。それまで、俺たちがこいつらの相手をしてやらないとな」  希望を見失っていない男の目をした闘士たちは頷いて戦車隊の突撃に備えたが、この状態でどれだけ敵の攻撃を防 げるかは疑問だった。深く考えれ考えるほどに戦意がなえてくる。しかし、逃げるわけにはいかない。ここを去るの は彼らの誇りが許さないどころか、この銀河の人々への裏切りにもあたる行為に繋がるからである。  神は自らを助けるものを助けるという。彼らの不退転の決意は神に届いたのか、乱れた味方の穴を埋めるかのよう に援軍がやってきた。先頭をきってやってくるレッドキングは未だに戦意の衰えない戦友たちを賞賛する。 「かなり危ないみたいだが、ここまで持ちこたえてるとはさすがオレたち」  お前はまだ戦ってないだろ、と口から出そうになったが、この男がここにいるということは、最後の援軍が近いと いうことである。 「ここにお前がいる、てことは」 「ああ、バキシムももうすぐだ。今が正念場だぞ!!!」  希望を新たにしたゴモラ、エレキング、ベムスターは先程よりも強い決意で敵の八度目になる突撃に立ち向かう。 闘士たちの姿を見て戦意を取り戻した他の兵士たちにレッドキングは駄目押しの激励する。 「よく聞け野郎ども!!! 今を耐えれば、あいつらを一発で吹っ飛ばせる手段をバキシムが持ってくる!!! 勝 利は目前だ!!!」  兵士たちは歓声をあげて混乱から立ち直り、挟み撃ちに来る超獣たちに立ち向かう決意を新たにした。  それから一時間。双方は多大な出血を強いて血で血を洗うような戦いを続けていた。砂にまみれた味方と敵の死体 が戦場を覆い、とても死者に敬意を表しながら、足元を注意して戦えるような状態ではなかった。  互いに酷く疲れていたが、互いにこの戦いの正念場がこの瞬間に他ならないことを見抜いているため、一歩も引く ことはなかった。だが、度重なる超獣戦車隊の突撃が功を奏し、いよいよ敗色が目に付くようになってきた。  これを好機と見た戦車隊のリーダーは全ての戦車隊を再度集結させて、最大最後の突撃を敢行した。  砂嵐を背負いながら突貫してくる超獣戦車隊の威容を苦々しく見つめてゴモラは毒づく。 「不味いな。このままだとここを突破されるぞ」  そうなれば、敗残兵の集まりとなった兵は戦車隊あたりに追い掛け回された挙句に散り散りとなり、サンド星は完 全にヤプール軍の手に落ちるだろう。そうなれば、サンド星を通じて各惑星が危機に晒されることになる。 「弱音を吐くな。もう少しでバキシムが来る。それまで心を折るな」  返事をする気力もない味方を見てさすがに諦めかけていたその時、ジープが砂塵をたてて突っ込んできた。それが 自軍で使っていることは理解できたが、どうしてこんなことになったのかは理解できなかった。ひっくり返って妙な 駆動音をたてながら、タイヤを回すジープから最後の希望が這い出てきた。 「お、遅れてすまない」 「遅刻でっしゅね」  バキシムとバルタン星人Jrは身体についた砂を払いながら弁明した。 「遅いじゃねえか」  非難とも喜びとも言える声に迎えられた二人は周りの状況を見て、今が想像以上の危機的状況であることを悟る。 「思ったよりも危機的状況でっしゅね」 「じゃあ、早く始めないとな」  言ってバキシムは自らの腹を切り裂いて、体内に仕込まれた機械を露出させる。そこにバルタン星人Jrはビルガ モを始めとするロボットから出て来るコードを繋いだ。  かなり手荒なことをしている二人を見て首を傾げたベムスターはゴモラに尋ねる。 「どういう作戦なんだ?」 「いや、オレも知らん」  怪獣たちが話しているうちにコードを繋がれたバキシムはみるみるうちに巨大化していった。頭の角は長く鋭くな り、四肢は闘士というより怪物といえるほどにまで太く逞しくなり、その急成長は見を守るはずの鋼鉄鎧すら邪魔と 言わんばかりに砕き、皆より二回りは大きい全体としてずんぐりとしたその肉体から発せられる闘気が皆を圧倒した。  信じられない現象に目を丸くする怪獣と周りの兵士にバルタン星人Jrは声を高くして退避を促す。 「離れるです。巻き込まれたら一巻の終わりです」  よくは分からなかったが、この姿がただ事ではないことを理解した彼らは急いでバキシムから離れた。それと同時 にバキシムはトルネードアタックと同じ構えをとって回転する。それだけで周りの空気が全てバキシムのほうに流れ、 嵐でも起きたように砂埃が舞い上がる。砂の霧で周りが見え難くなったため、味方も敵も混乱している。  闘士たちはなんとか砂の霧をかいくぐってバルタン星人Jrに問いただす。 「つまり、どういう作戦なんだ?」 「バキシムさんの体内に仕込まれた機械にロボットのエネルギーを流し込んでハイパー化にも匹敵する超強化をして その力の全てを動員して戦車隊を一撃で粉砕しようというものでっしゅ」  想像した以上の出鱈目な作戦に目眩のしたゴモラはこれを許したレッドキングに呆れ半分で突っ込む。 「よく許可したな、お前」 「え? 口で食べるか腹で食べるかの違いだろ? ほら、ベムスターがいるじゃないか」 「……」  本当にこの男は作戦を理解していたのだろうか? そう思わずにはいられなかった。  バルタン星人Jrが皆を遠くに連れて行ったのを確認すると、バキシムは安心して回転を加速させた。  この巨大なバキシムの回転によって、砂は天高く上り、大気は震撼し、一つの巨大な空気の渦が出来た。成層圏か ら見てもそれと分かりそうなだけの強大な怪獣の脅威は超獣戦車隊に向けられた。  今ここに、ヤプールへの復讐に燃えたこの世界で作られた超獣の最大の力が炸裂する。 「ウルトラ・トルネード・アタック!!!!!!!!」  砂漠に突如として現れた竜巻は迫り来る砂嵐を完全に消し飛ばしてしまった。  超獣バラバがこの崩壊しつつある戦線を立て直しにやってきたのはそんな時だった。  それと同時にこの砂の星に一人の男が降りてきた。  彼は元々強者であったが、一連の修行によってさらに強大になった。ある男の頼みでこの戦線への助っ人をしにき たのだが、ここは主戦場ではないらしい。戦場となっていると思われる基地から火の手が上がっているところを見る と、戦いは終局を迎えているのだろう。やることはあまり残っていないが、挨拶くらいはしていくべきだろう。  そう考えた闘士ゼットンは煙のあがる基地のほうへ歩いていった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  要望といえるものがあったので、作ってみました。  激伝的なものとそこそこの軍事的正当性をくっつけてみたのですが、どうでしょうか? バキシムの奇策は掲示板に 書きこまれていたものをそのまま採用しました。超獣戦車隊はカードダスと激伝でブロッケンが倒れていた一コマから 着想をえました。  これを書き上げるにあたってヒール星の話もでっちあげることになったので、そう遠くないうちにアプラサール編も 作りたいと思います。  PS:闘士五獣士はこんな戦い方出来ません、とか言わないで。それと、アナウンサーとビーコンのことを思い出しの は話を作ってから大分経ってからのことなので、勘弁してください。