『惑星サンドを奪還せよ(前編)』  砂漠の向こうから突如として出て来た部隊は砂山に隠れている敵拠点攻略に向かっているバキシム、バルタン星人 Jrの率いる八百の部隊に火炎、ビーム、槍を放った。突然の襲撃に部隊に動揺が走る。敵の姿は砂の丘が邪魔をし てよく見えないため、余計に混乱した。バキシムはうろたえる味方を抑えるためにドラを大きく鳴らす。 「うろたえるんじゃない!!!」  バルタン星人Jrもロボットに大きな音をたてさせて味方の混乱を沈めようとするが、回を重ねるごとに異なる方 向から飛来する攻撃で動揺する彼らを完全に落ち着かせることは出来なかった。その無様な姿見た敵は砂漠の彼方か ら砂塵を巻き起こしながら駆け抜けて、その姿を現した。   二十三のアリブンタにまたがる二十三のギロン人と、ブロッケン二十六体に乗るヤプールコマンド二十六人が未だ 混乱の収まっていない部隊に信じられないスピードで突っ込んできた。  宇宙最大の激戦区惑星サンド。星全体が砂に覆われており、幾つかのオアシスが点在しているだけのほとんど生物が 存在しない人口も極僅かな惑星であるが、戦略的な立地条件からヤプール戦争開始と同時にヤプール軍に制圧された。 サンド星は宇宙屈指の人口が集中する領域に近い重要な拠点なのである。そのため同惑星の失陥は宇宙防衛にとって非 常に深刻な問題だった。  惑星奪還のために幾度となく攻撃を仕掛けたが、その度に大きな犠牲をだして撃退されている。しかし、そのおかげ でサンド星から本格的な遠征軍が出発できないことも事実で、ウルトラの父とゾフィーは無理を承知で攻撃を続けさせ ていた。時間を稼いだ二人はヤプール軍に占領された各惑星を奪還するための一大反抗作戦を立案する。  セブンとその部下数名の少数精鋭部隊によるヤプール軍補給基地を襲撃による敵軍の混乱に乗じて、各惑星を一気に 奪還するというものである。同作戦計画において、サンド星は必ず奪還すべき惑星第一候補に挙げられており、作戦開 始に連動してサンド星のヤプール軍を向こうに回して鎬を削る闘士五獣士とバルタン星人Jrのロボット軍団のために 数多くの軍団を投入して同惑星の奪還を図ったのである。 「惑星サンドを奪還せよ」  レッドキングの受け取ったゾフィーからの電報にはそう記されていた。  セブンがヤプール軍補給基地を襲撃したという報告と同時にレッドキングたちは惑星サンドのヤプール軍への攻撃を 再開した。後方が動揺していたこともあり、敵拠点は片っ端から陥落し、残るは惑星サンド首都を改造した本部とそれ をとりまく両手の指で足りる程度の拠点に過ぎなかった。  このままなら早晩、惑星サンドの奪還は達成できると思われたが、その胸算用は突如として現れた新たな部隊によっ て大きく狂わされることになった。  ギロン人はアリブンタ上からビームを放って敵を牽制し、陣形がもつれると、そこに向かって十数組がアリブンタと もども突撃した。バキシムはようやく味方の態勢を立て直して反撃しようとするが、その直後にやってきたこれを防ぐ 手段は持ち合わせておらず、ようやく立ち直った部隊はにわかに混乱した。  速度と力に圧倒された兵士を何十人と弾き飛ばして、右往左往する敵部隊を炎で焼き、槍で突き、ビームで撃つ。時 がたつにつれて被害が増えていき、バキシムはどうにかして混乱を収拾しようとするが、どうも上手くいかない。  バルタン星人Jrが混乱を収拾しようと自分の身の回りからロボットのほぼ全てを出払わせているのに目をつけたヤ プールコマンドの一人がブロッケンのたずなを引いて、まだ幼い星人のもとにやってくる。  少年が自分の置かれている立場に気付いてキングジョーを呼び戻そうとするが、もう遅かった。ブロッケンのうえか ら槍がバルタン星人Jrに振り下ろされる。彼が死を覚悟しきれず、目を見開いていると自分と槍との間に遮蔽物が現 れた。  それがバキシムだと分かった時には彼のスライサーがヤプールコマンドを弾き落として、ブロッケンに止めの一撃を 打ち込んでいた。呆然とするバルタン星人Jrを見下ろすと、腹に突き刺さった槍を引き抜いて後ろから少年を襲おう としたアリブンタの足元に投げつけた。  バルタン星人Jrは歯を震わせながら身をていして自分を守ってくれた闘士超獣に礼を言う。 「あ、ありがとう。ケガ、大丈夫でっしゅか?」 「なーに、これはあとで治せばいい」  この指揮官の強気の発言に感化された周りの兵士たちは再び武器を手にとって、敵に立ち向かい始めた。これ以上は 不利とすぐに気付いた戦車隊リーダーは全部隊に撤退の指示を出した。撤退する間も彼らは超獣の上から炎や槍、ビー ムでこちらの動きを牽制する。  バキシムは腹の傷も省みないで、降り注ぐ矢と炎、ビームをかいくぐって離脱するアリブンタからギロン人を引きず り落とそうと腕を伸ばすが、素早い彼らの動きを捉えきれず取り逃がしてしまう。  苦虫を噛み潰したような顔をしたバキシムは地駄々を踏んで砂漠の彼方に消えるギロン人たちを罵る。 「逃げるんじゃねえ!!! 臆病者!!」  大気が震撼するかのような大音量だが、彼はそれを追い風にするかのように軽やかに走り去っていく。腹をたてたバ キシムはバルタン星人Jrを捕まえて砂漠の果てに消えようとしている連中を指して言う。 「Jr。クレイジーゴンかなんかであいつらを追いかけられないか?」 「駄目です。深追いしたら、危なすぎるでっしゅ」  バキシムは悔しそうな顔をしたが、戦闘が終わったことを自覚すると途端に腹に開いた穴が痛み出して、すぐに衛生兵 を呼んだ。    このまま敵拠点に攻撃をしかけることは危険であると考えたバルタン星人Jrはレッドキングの守る拠点まで戻って、 傷ついた味方の治療と再編を行うことにした。実際の仕事を行う前にバルタン星人Jrは自分の命の恩人であるバキシム のいる野戦病院を見舞った。  ベッドに寝かしつけられたバキシムを見つけたバルタン星人Jrは医療チームの邪魔にならにような小走りで彼のもと に向かう。 「大丈夫でっしゅか? ボクを守るためにこんなになって」 「大丈夫だ。これくらい、なんでもな、イタッ!!」  言って上体を起こそうとするとお約束というか、傷口が開いて腹に激痛が走って再びベッドに身を任せる。 「無理しないで下さい。ところで、バキシムさんの傷口から機械が見えたんでしゅけど、あれはなんでしゅか?」 「超獣は兵器だからな。こういうものが仕込まれてるもんなんだ」 「そういえば、聞いたことがありまっしゅね」 「それにしても、敵の増援がこんなに早く大量に来るとは思わなかった。あいつらの数は底なしか?」  全宇宙各地を攻撃するヤプール軍の規模と攻撃力を考えれば、今回のこともそれほど驚くようなことでもないが、嘆 きたくはなるのである。 「いずれにしても、また苦しい戦いになりそうでっしゅ」  バキシムと同じ気持ちのバルタン星人Jrはため息をついて、予定している仕事に取り掛かることにした。  実のところ、惑星サンドに留まるヤプール軍はそれほど多くはなかった。闘士五獣士とバルタン星人Jrのロボット 軍団との度重なる戦いによって戦力を大きくすり減らしており、各方面の拠点を守りきることすら困難になっていた。 しかも、一大反抗作戦の直前に補給ルートが変更されたことで、各方面の軍管区に異変が生じており当初予定されてい た増援が遅れに遅れていたのである。  これを惑星サンド陥落の危機だと見抜いたヤプールは惑星サンドにどうにかして持ちこたえてもらうために、惑星ヒ ール攻撃を予定していた軍団から一部隊を引き抜き、先遣隊として本格的な増援を送るまでの時間を稼がせることにした。  その先遣隊というのが宇宙各地を転戦し、各地で多大な戦果をあげてきた超獣軍最強の部隊と名高い超獣戦車隊である。  サンド星駐留のヤプール軍がとることにした戦術が一連の超獣戦車隊による連合軍への奇襲撹乱作戦である。各拠点 を守るだけの力を失っていた彼らには超獣戦車隊の機動力と破壊力をいかしたこの作戦しか残されてはいなかった。こ れで時間を稼いで、これから来るであろう増援とともに敵を押し返す。それがこの状況で考えらえる限り、最も有効な 作戦であった。  超獣戦車アリブンタとブロッケンはそのスピードで広大なサンド星を駆け回り、その背にそれぞれまたがるギロン人 とヤプール・コマンドが弓矢やビームで散発的に攻撃して、各地の拠点を攻撃するのである。拠点を落とすことは出来 ていないが、動きを封じることには成功し、闘士五獣士に率いられた軍団はその動きを封じられる形になった。  それから五日間、レッドキングたちは散発的に現れる超獣戦車の戦力を分析して対策を練ったが、いくらまともに戦 おうとしても、相手にその気がないため不可能であること結論づけられた。どんな強烈なパンチを叩き込もうとしても 相手がその場にいないのでは意味がないのである。  そして、三日前にヤプール軍が補給ルートを攻撃の直前に変更したという情報が入った。そのことから、敵が実際に はそれほどの大軍ではない可能性が示された。それはベムスターの部隊が一拠点を奪った際の敵の規模から証明された。 「そうしてみると、あいつらはそれを守るために一撃離脱を繰り返してるんだな」  思い返してみれば、超獣戦車が縦横無尽にこちらに攻撃してくるというのに、拠点の兵士はほとんどと言っていいほ ど攻撃に出てこない。逆にいえば、それをするだけの数がいないということかもしれない。ここにきて、レッドキング はようやく自分たちの思い違いに思い至った。  バルタン星人Jrはそれを知るや否や、地図をもってレッドキングの部屋に駆け込んで頭に閃いた作戦について説明 をはじめた。 「それを前提に皆で一丸となって基地を攻略することを提案するでっしゅ」 「つまり、細かいところは無視して一気に基地を制圧するのか?」 「そうでっしゅ。基地を制圧すれば各方面の拠点もボクたちのものでっしゅ。エレキングさんたちの部隊も集めて一 気に攻撃するでっしゅ」 「新しく来た連中はどうする? あいつらがちょっかい出してくるだろ?」  一連の情報と襲撃から分析して、彼らは規模が小さいとはいえ、強力な超獣戦車隊であることは間違いなく、これ を撃破するのはそう簡単なことではない。 「皆を一箇所に集めて応戦すればやつらを倒すことが出来るでっしゅ。やつらが来なくても基地を制圧すればやつら は孤立するでっしゅか」 「今は数は少ないかもしれんが、基地を攻撃した時になかにいる連中が戦車隊と組んだら不味いことになるぞ。下手 をしたら挟み撃ちにされかねない」 「でも、今のままだとそのうち増援がきて、これまでの成果が水の泡になるでっしゅか」 「それは分かるんだけどなあ」  結局、レッドキングの答えは要領をえず、作戦は宙に浮いた形になった。  バルタン星人Jrは砂で汚れたロボット軍団のメンテナンスをしながら戦車隊撃破の妙手がないものが考えたが、 そうそう都合のいいものは思い浮かばない。さらなる援軍を得ることが出来れば話は別だが、それは別の戦線での 戦いが困難になるとしてゾフィーは応じないので、期待するだけ無駄なことである。  ため息を吐いて作業を続けていると、バキシムが入ってきた。 「なに不景気な顔をしてやがる」 「もういいんでっしゅか?」 「ああ、銀河十字医師のお墨付きだ。で、何を悩んでたんだ?」  バルタン星人Jrは自分がレッドキングに提案したことと、その作戦を行うにあたっての懸念をそのまま伝えた。 「戦車隊が最大のネックだから、包囲しても。勝ちが見込めない、て言ってました」 「とどのつまり、あいつらを皆、吹っ飛ばせるだけのことを出来ればやる、てとこか?」 「そういうことでっしゅ」  ビルガモから伸びる紐のようなものを目にしたバキシムはそれはなにかと尋ねる。 「エネルギー供給用のコードでっしゅ。ここからエネルギーを送り込んで動いているんでっしゅ」  その瞬間、バキシムは何かを閃いた。まだ具体的なものは掴めていないが、それを形にするためにまた質問する。 「逆は出来ないのか?」 「出来まっしゅよ。戦場でエネルギーの足りなくなったロボットに補給するためにも使えるようになってまっしゅ から」  アイディアが形になることを実感したバキシムはにやりと笑った。 「それなら、いい考えがあるんだが」 「え?」  バキシムからアイディアを聞かされたバルタン星人Jrはあまりに荒っぽい構想に目眩がする思いだったが、実 現可能なものと認めてレッドキングに説明した。レッドキングは勝算ありと判断してうなずき、ゴモラやエレキン グ、ベムスターを説得して数日で惑星サンドの野戦軍が全て集結させた。目指すは惑星サンドのヤプール軍本拠地 である。  超獣戦車隊でもさすがにこれだけ集まった軍団に突撃をかけるわけにはいかない。悪戯に被害を出すだけで終わ るか、せいぜい足止めくらいしか出来ないだろう。そう判断したギロン人は基地の司令に各拠点に残された僅かな 兵士を集めて攻撃に備える旨を伝え、それまで進軍を少しでも妨害して時間を稼ぐことを約束した。  サンド星ヤプール基地は内部を砂塵から守るために巨大なドームに覆われていた。このドームは強固な防壁でも あり、よほど大きな力で攻撃しなければ破壊することは出来ない。  砂漠を延々と進んできた軍はこの街を前にして、勝利への決意を新たにした。レッドキングはこの戦いのための 秘策がいかなるものか、いまだにゴモラやエレキング、ベムスターに伝えていない。バルタン星人Jrが万一のた めに口止めをしているからである。  引き連れてきた六つの軍団でこの基地をそれぞれ南北、北東、南東、北西、南西から包囲したと同時に砂の地平 線の彼方からアリブンタとブロッケンが砂塵を立てて疾走して来るのが見えた。報告を受けたレッドキングはすぐ 南に陣取ったバキシムと南西に陣取ったバルタン星人Jrに連絡して命じる。 「よし、バキシム、Jr。予定通りにやれ。戦車隊は南の陣地に来た」 「おうよ!!」 「はいでっしゅ」  ロボット軍団が南のバキシムと合流するために出発したことを確認した同時にレッドキングは北の陣地のエレキ ングと北西のベムスターに陽動のための牽制を仕掛けること、北東のゴモラにはエレキングとベムスターの牽制で 敵兵が北に集まったと同時に攻撃を仕掛けることを命じた。南東のレッドキング自身はゴモラの攻撃が開始された ころにゴモラのいる北東へ移動し、戦況が好機と見たら温存しておいた自軍を投入して一気に敵基地に突入する  南の陣営にやってきたとバルタン星人Jrはそこで待つバキシムと合流し、砂埃を立てて移動する九つの超獣戦 車を補足した。何回も旋回してこちらの様子を窺っているようだった。突撃してこないのはこちらの戦力を測りか ねているからなのか、それとも誘い出そうとしているのか。  いずれもよく彼らがやる手であることが送られてきたデータとこれまでの経験から判明している。  しかし、ここで二人は彼らがたてる砂塵の量のわりに彼らの数がやけに少ないことに気づいた。 「……あれ? 敵が少なすぎやしないか?」 「おかしいでっしゅね。戦車隊は五十人以上いたと思ったんでっしゅけど」  二人が首を傾げていると、レッドキングから通信が入ってきた。 「どうしたんでっしゅ?」 「そっちは囮だ!!! 北の陣営に戦車隊の本隊が来た!!!」 「ええ!!!」 「中からも呼応して出てきやがった。なんとかしてそこを守り抜くから、お前らも急げ」  そう言ってレッドキングが回線を切ると二人は顔を見合わせて頷きあい、全力疾走で現場に急行した。 ー――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  そこそこの分量になる予定でしたが、思ったよりも長くなったので、二つに分割します。