『セブン暗殺計画』  ヤプール軍がこの次元に進攻してから半年近くが経過していた。ヤプール軍は圧倒的な戦力でその戦いを優位に進 め、各惑星を占領して力を示していた。  しかし、快進撃を続けるヤプール軍の前に闘士ウルトラセブンが立ちはだかる。彼の武勇の前にはいかなる超獣で も打ち倒され、如何なる超獣も彼らに畏怖を抱いていた。  また、マスコミによって宣伝された彼らの活躍は、各地の抵抗勢力を勇気づける効果もあった。おかげで各戦線の 状況が芳しくない。一日につき一つの星を占領してきた彼らの勢いは、三日に一つまでに落ち込んでいた。  これを放っておくことは出来ない。そう判断したアンチラ星人は『セブン暗殺計画』を立案した。  その計画は次の一文から始まっている。  セブンが何故強力なのか。  それはノタニ―博士によって開発されたホークウェポン1号、2号の存在によるものである。  ウルトラの星ではウルトラの父とゾフィーによる一大反抗作戦の立案が行われていた。しかし、これは圧倒的な戦力 差をひっくり返せるほどのものではない。それだけ彼らの戦力が膨大なのである。とはいえ、占領された惑星を十以上 解放しうる作戦であるのは間違いなかった。  この作戦には各戦線の強力が必要であり、セブンの隊にも命令が送られてきた。  セブンはローク星のヤプール軍基地攻撃がその役割である。  この基地がヤプール軍の補給基地であり、この基地の撃破が反抗作戦の成否に大きく関わるのは間違いないだろう。 しかし、この基地は補給基地だけあってヤプール軍の領域奥深くに存在している。  この危険な任務も、セブン達のこれまでの実績を考えれば当然のことであった。万が一、彼らが撃破されたさいの全 軍の士気低下を心配する声もあったが、それも覚悟の上のことである。  こうして、各部隊への通達が終わり、作戦は実行に移された。  セブンはこの危険な任務を喜んで引き受けた。  今は亡き彼の親友闘士マンなら間違いなく、引き受けると思ったからである。  セブンとジャック、レオ兄弟を中心とした部隊はローク星に向かった。  ローク星のヤプール軍基地を調査する。  分厚い大気の底にある基地は基本的に補給を目的としており、それ以上の役目をもっていない。  各戦線を維持するために超獣を派遣しなければならない彼らは後方基地の警備を疎かにしている。この次元での表 立った活動から半年も経過していないことも、その理由だろう。  そこに彼らの付け入る隙が生じていた。  セブンは単純な作戦を立案した。  セブンは宇宙空間から二号のランチャーで長距離射撃を行った。これは二号を使った常套手段で、敵基地のレーダ ー網などの破壊を目的としている。  一通り破壊し終わった後、セブンは基地を防衛している超獣に狙いを定める。次々と超獣を撃ち落し、その数を減 らしていく。  敵はセブンを倒した者の昇格を約束して、長距離からの攻撃に尻込みする味方を鼓舞する。  超獣は確実に倒されていたが、その物量でセブンとの距離を詰めていく。  セブンは二号の長距離攻撃が役不足になると判断して、一号に装備を切り替える。そして近づく超獣を一号のソード で切り倒す。セブンの力は圧倒的であった。  彼の前では超獣など物の数ではないようにさえ見えた。  だが、ヤプール軍の数はまだまだ多い。  数に任せて、その包囲網を狭めつつあった。  セブンとは正反対の方向に隠れていた他の隊員は大部隊がセブンに迫るのを見て行動を開始した。 「今だ!! 攻撃開始!!」  レオは残りの部隊を率いて大気の底のヤプール軍基地に降りていく。他の隊員もそれに続いた。  貧弱な対空砲火では彼らを阻止することは出来ず、それの出来そうな超獣はあらかたセブンのほうへ向かっていた。  基地に部隊が突入したことを知った超獣たちは基地の放棄を決定した。  ローク基地の陥落にもかかわらず、攻勢はあまり成功したとはいえない状態だった。  終了後も幾つかの戦域でヤプール軍の頑強な抵抗がみられる。特に激しいのがサンド星の基地で、闘士五獣士が苦戦 をしている。  いずれは陥落するとセブンは信じていたが、仲間達が心配であった。  それにセブンはローク基地の敵がいささか手ごたえのないことに疑問を抱いていた。  仮にも補給基地なら、こんなに簡単に諦めるものではない。  それと敵の頑強過ぎる抵抗にも疑問を抱いていた。追い詰められた敵が抵抗するのは理解できたが、補給ラインを断 ったにしては強すぎると考えたからである。  ウルトラの星から三つのメビウスの鍵を探すよう司令が出されたのはそんな時である。  セブンとレオ兄弟は第十六基地でその司令を受けた。 「とはいうものの、メビウスの鍵は誰が持っているんだ?」  ヤプール軍のいる戦線は気が遠くなるほど広い。  そんななかから探し出すと言うのが、いかに困難なことか、想像もつかない。 「この宇宙のどこかにいるヤプール幹部のうち三人が持っている、か」 「雲を掴むような話だな」 「とりあえず、強い敵がもっているらしいな」 「それならある意味探しやすいのかもしれん」  彼らが議論しているさなか、ジャックが慌ただしく入ってきた。 「闘士セブン。どうやら敵はなんらかの方法でこの攻勢の詳細を知り、事前に補給計画を立て直したとのことです」 「それは、オレ達のなかにスパイがいるということか?」 「詳細は不明ですが、新たなる補給線の要はリーズ星であることが判明しました」 「軍団の規模は?」 「今は軍団を各戦線に派遣して規模はあまり大きくありません」 「チャンスです。今すぐ攻撃をかけましょう」  レオが主張し、アストラも同意する。 「わたしも同じ意見です。このままみすみす敵の戦力が整うのを待つ手はありません」  ジャックも同意見でセブンも異論はなかった。 「分かった。すぐに向かう」  セブンとジャック、レオ兄弟はリーズ星に着いた。  一年中氷に包まれた大地は氷点下百二十度を下回ることも珍しくない白い星である。あまり調査のされていない星 であるが、星の水分量が通常の地球型惑星を多きく上回っている。  そのため、星が白く見えると言われている。  ウルトラ戦士にとってはあまり望ましくない星であるため、事前に用意していたウルトラコンバーターを装備する。  敵の警備があまりにもずさんな理由をジャックに尋ねる。  攻撃衛星が存在しないのはともかく、対宙レーダーさえ存在しないのはさすがに気になった。  彼が言うにはリーズ基地は緊急で変更されたもので、ローク星をはるかに下回る設備しかないという。  ほぼ無抵抗で白い大地に降り立ったところ、運良くこの時期のこの星は比較的晴れていた。それでも平気で零下五十 度はある極寒なのであるが。 「こっちです。敵はこの氷河奥深くに基地をもっているんです」  ジャックは白銀の世界に一際目立つ割れ目を示す。  念のためにレオ兄弟に周りを監視することを命じて、セブンとジャックだけで割れ目に入った。  暗視モードになった二人は暗闇の割れ目の中を素早く移動する。  そして、大きく開けたところでジャックはセブンを呼ぶ。 「セブン、これはなんでしょう?」  ジャックは自分の右手を当てている壁を示す。  セブンは氷の壁を覗き込んで、トントンと叩く。すると、壁はあっさりと崩れてそこから彼の思いもよらないもの が出てきた。  氷付けになったジャックである。  セブンが二人のジャックを見比べようとしたその時、セブンはいきなり突き飛ばされた。  一角超獣サイゴンである。その瞬発力によってセブンは壁から大きく引き離される。  セブンはさらに接近してくるサイゴンから急いで遠ざかり、身を守る。  ここまで案内してきたジャックのほうを見ると、それはジャックではなかった。  大会主催者ヤンド、いやヤプールの側近、アンチラ星人であった。 「お、お前は……アンチラ星人」 「憶えていてくださって光栄ですよ。ろくに話したこともないんですがね」 「これはどういうことだ?」 「簡単に説明しますと、わたしが大会中に彼と入れ替わっていた。そういうことです」  何のために、そんなことをセブンは聞かなかった。  分りきっている。  スパイ活動。それ以外の理由はない。  恐らく、あの攻勢の情報を流したのも、この男なのだろう。 「それじゃあ、ジャックを返してもらおう」 「そんな様で何が出来るんです?」  アンチラ星人の嘲笑には根拠があった。  セブンはサイゴンの足下にある二つのホークウェポンを見る。  奇襲によってホークウェポンから引き離され、セブンの戦闘力を低下していた。  歯軋りするが、ここで諦めるわけにはいかない。  あいつなら、あの男なら、これよりもはるかに絶望的な状況でも諦めないだろう、と自らを奮い立たせた。 「出来るさ」 「やってみろ」  無情に引き金を引く少し前に、彼の手は頭部に向かっていた。  手にとったアイスラッガーでアンチラ星人のレーザーを弾いた。  彼の意外な行動にアンチラ星人は舌を巻く。  立て続けにレーザーを放つが、あるものはよけられ、あるものは宇宙ブーメランに弾かれる。 「てりゃああ!!」  今度はそれを使って切りかかってきた。  アンチラ星人は銃を連射して迎撃するが、それすら覚悟を決めたセブンを倒すことは出来なかった。しかし、セブン の攻撃は常に距離をとるアンチラ星人に届くことはなかった。セブンの無理は続かず、一条の光が彼の足を焼く。   「頑張りましたね闘士セブン。ですが、それもここで終わりです」  セブンに向けられた熱線は彼の顔をわずかにかすめるだけだった。  緑と赤の何かがアンチラ星人を吹き飛ばしたのである。手元の狂った銃はセブンから微妙に狙いを外した。  倒れこんだアンチラ星人にもう一つの緑と赤が追撃するが、すぐに体勢を立て直して距離を開ける。 「ど、どうして――」  アンチラ星人が全てを言い終える前に緑と赤の戦士レオが答える。 「リーズ星のことが偽情報だ、て報せを受けたから急いできたんです」  もう一人の緑と赤の戦士、アストラがセブンを助け起こす。 「だから、てこんなことになっているとは思わなかったけどね」 「それとセブン、ホークウェポン三号です!」  レオの声と同時に、ウルトラホーク三号の形を模した闘士セブン専用の装備が来た。設計図にも目を通していたセブ ンは手際よくウルトラホーク三号を装備する。  隙はレオ兄弟の連携攻撃がアンチラ星人とサイゴンを牽制して埋める。 『ウルトラダブルスラッシャー』  レオ兄弟の合体攻撃が敵を脅かし、ホークウェポンの動きを封じていたサイゴンはそれを自由にさせてしまう。  二人に気を取られているアンチラ星人がセブンへの警戒が疎かになっているのをセブンが見逃すはずがなかった。セ ブンは三号の弓を引き絞って、エネルギーを集める。そして放った。  矢として撃ちだされるエネルギーは二つの敵を吹き飛ばした。  その衝撃で壁の一部が崩れる。  アンチラ星人とサイゴンは土と氷に埋められた。  敵が埋まったのを見届けると、レオとアストラに礼を言う。 「助かった。あのままだと危なかった」 「いいですって。それで、闘士ジャックはどうしたんです?」  セブンはこれまでのいきさつを説明し、彼らの視界の外にある氷付けのジャックを示した。  氷と土の下でアンチラ星人は目覚めた。  自分の身体を観察する。幸いなことに骨にも筋にも異常はない。  不幸なことはサイゴンは完全に事切れていることだろう。事前に身を呈してくれたことがさらに彼の闘争心をかきた てた。  その山から立ち上がったアンチラ星人はウルトラレーザーを片手にジャックの下へ向かう。  凍りついたジャックを助け出そうとしている三人を見つけた。  あまりに隙だらけなその状況を彼は見逃さなかった。  銃をセブンに向けた。 「セブン!!」  誰よりも早く気付いたレオがセブンに飛びつく。  レオはセブンを射線上から動かした代償として背中に穴が開いた。  セブンは飛びかれた時に手持ちの武器を落とした上に、レオが覆い被さるような形に倒れてしまった。  アストラは銃を構えるアンチラ星人に飛び掛る。 「きさまぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」  傷ついていても、ヤプールの側近アンチラ星人である。アストラに遅れはとらない。  素早い動きで撹乱する彼のパターンを瞬時に見抜いて打ち抜く。その隙にセブンはホークウェポン三号を手にとる が、それはアンチラ星人と比べて遅れていた。    笑みを浮かべたアンチラ星人はセブンに引き金を引くが、弾は切れていた。  このタイムラグに舌打ちする彼は次弾を装填するのに手間取った。  セブンはホークウェポン三号を引き絞る。  いずれの狙いも相手を確実に撃ちぬくだろう。  撃ちぬかれたアンチラ星人はその場に崩れ落ちた。  勝利への安堵の暇もないまま、その胸に蒼く輝く水晶のようなものが現れる。 「こ、これは」 「め、メビウスの鍵」  アンチラ星人は声を絞り出して彼の疑問に答えた。  その態度に疑問を抱く彼にその理由も答えた。 「お前の死を望んでいるからだ。行け。行って死んで来い。お前ごときでは、ヤプール様に決して勝てない」  それが彼の最後の言葉だった。  ジャックを解凍した後、セブンは後続の部隊にジャックとレオ兄弟の治療を頼む。  アンチラ星人との戦いで傷ついた自身も治療した。  だが、三人のダメージは意外と大きく、回復を待つことが出来ない。時間の節約のためにも急いで向かった。  ヤプールの待つメビウス星へと。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき  いつかは書くつもりでいた、ウルトラマン超闘士激伝のSSである。  この作品はウルトラマン超闘士激伝第五巻における三つのメビウスの鍵を集める展開において、 ほとんど描写されていなかった他の鍵に関するエピソードを描いたものである。  反抗作戦などの各種設定は完全なでっち上げであることを明記しておきます。