年間5億円が支払えないとして廃止された「あの施設」
何よりも問題なのは、117億円もの巨費を投じて建設することが適切かどうかである。
こうした話を聞くと、どうしても思い出してしまうことがある。またかと言われそうだが、このコラムで何度も触れている「私のしごと館」のことだ。詳しくは、「赤字の公営施設はただ潰せばいいのか」をご覧いただきたいが、修学旅行の中高生を中心に年間32万人が訪れて、職業体験をしてもらっていた施設だ。
メディアに無駄遣いの象徴としてたたかれたあげく、政府には昨年9月に廃止を決められた。
以前のコラムで書いたように、わたしは「私のしごと館」の有効活用について検討する委員会のメンバーになっている。
廃止をするかどうかの検討段階では、民間委託をしたうえで年間5億円の運営補助をすれば、運営が継続できる目途がついていた。ところが、政府の結論はノーであった。「30万人以上の入場者があって職業体験する意義は認めるが、政府の財政は火の車である。5億円もの支出をする余裕はない」というのが政府の言い分であった。
そんな政府が、アニメの殿堂にはドンと117億円を使うというのである。誰がどう考えても、そのバランス感覚はおかしいのではないか。
付け加えておくと、「私のしごと館」に対する支出は税金ではない。公的資金には違いないが、雇用保険の企業負担分からの支出である。
若い人たちに職業について考えてもらう機会をつくり、自分自身の適性を判断できれば、中長期的には日本の国際競争力にもつながる。それを考えたら、年間5億円という支出は効率のいい投資と考えることもできるではないか。
冒頭に書いたように、わたしは「アニメの殿堂」をつくるのが悪いといっているのではない。むしろ、アニメやマンガの博物館をつくること自体は大賛成である。だが、同じように日本にとって役に立つ施設に対して、かたや5億円がダメで、かたや117億円がいいという、政府のおかしなバランス感覚を疑問に感じるのである。
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