東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 暮らし・健康 > 暮らし一覧 > 記事

ここから本文

【暮らし】

実効見えぬ母子家庭就労支援 生活保護 『加算』廃止の代替策

2009年6月23日

 生活保護を受ける母子世帯に支給された「母子加算」が四月から廃止された。生活は一段と困窮し、加算復活を求める声が上がっている。国は廃止に代わり就労支援を始めたが、生活を支える手だてに結びついていないようだ。(安食美智子)

 「一番苦しんでいるのは子どもなんです」。東京都内で今月に開かれた集会で、生活保護を受ける母親たちが、加算廃止による窮状を訴えた。

 二人の子を持つ京都市のA子さん(32)は八年前、離婚と同時に生活保護を受給した。発達障害の疑いのある長男(12)は投薬すると動けなくなり、学校に通えない。A子さんも働けない。加算廃止で一万八千円減り、光熱費が支払えるか綱渡りの生活だ。

 四人の子を持つB子さん(43)は働くが、収入は月一万〜五万円。加算廃止の減額は約八千円だが、育ち盛りの子どもを抱え「米二十キロ分はとても大きい」と声を震わせた。

 母子加算は、減額される前までは月に最大約二万三千円が支給されていたが、二〇〇五年から順次廃止された。「加算があると受給者の母子世帯の消費水準が一般母子世帯を超える」(厚生労働省)ためだ。

 代わって同省が進める対策は、母親の就労支援だ。生活保護制度上の支援では、〇七年度から、働いて収入のある世帯に支給する「ひとり親世帯就労促進費」を導入。月に三万円以上の収入のある世帯は月一万円、職業訓練などを受けると月五千円が支給される。

 〇五年度からは、ハローワークと福祉事務所が連携して職探しを助ける「生活保護受給者等就労支援」や、福祉事務所が生活安定と職探しを行う「自立支援プログラム」なども始めた。本年度からは、就労意欲や生活能力が低いなど事情を抱える人を対象に、カウンセリングや買い物など生活能力支援をする「就労意欲喚起等支援」を追加した。

 同制度上の支援以外にも、職業訓練中の生活費支給などもある。

 生活保護を受ける母子世帯は十万世帯(子どもは約十八万人)を超える。だが、生活保護受給者等就労支援の利用者は昨年四〜十二月で約二千人と少ない上、就労率は約六割。自立支援プログラム(収入が増えた既就労者も含む)は約三割だ。

 もともと母子世帯の就労率は約八割あり、「さらに働け」という対策には疑問の声もある。生活の安定を求めて看護師など高度な職業訓練を受けようにも、働きながらの訓練受講は難しい。

 就労支援に詳しい釧路公立大学の中囿(なかぞの)桐代教授(労働政策)は「自立支援プログラムの中の技能習得は限定的。実施する自治体には、資格取得の予算も少ないところが多く、積極的な技能習得が進められていない」と説明。

 その上、障害・傷病や育児・介護などで働けなくなって生活保護を受ける世帯が約四万世帯あり、就労支援そのものが役立たない。支援団体関係者からは「絵に描いたもち」との批判も出る。

 中囿教授は「親自身の健康や高卒未満が多い学歴の状況など、生活保護に至った複合的な要因に対応できる多様な支援プログラムが求められる」と訴えている。

 

この記事を印刷する