【第2回】 2009年05月12日
グーグルが「和解」で膨大なコスト負担しても得たいものとは
先に述べた「表示使用」できる本については、グーグルが購読用データベースを用意し、教育機関・政府機関または企業などの法人単位に販売する「組織による購読」モデルと、個人読者向けの「消費者購読」モデルがあります。
また公共アクセスサービス端末を公共図書館や大学、コピーセンターなどに設置し、ページ単位のコピー料金を徴収するモデルが挙げられています。そのほか、プリント・オン・デマンド、教材向けにページ単位で価格設定を行うカスタム出版、PDFファイルのダウンロード販売、データベースの購読権を個人にも販売するモデル、書籍の要約・抜粋の販売などを、版権登録機関または権利者の同意の上で行うことができるとされています。
あともちろん「広告使用」からも収入を見込むことができるでしょう。検索回数が増えれば増えるほど、「広告枠」が広がるというのが、グーグルのビジネスモデルの根幹ですので、この収入額も相当の規模に達するのでしょう。さらに、「非表示使用」を含めたデータベースは、グーグル内部の研究・開発用に使えるのですから700万冊以上の「本」のデータを組み込んだグーグルのデータには、他の検索サービスが持っていない価値があると言えるかもしれません。
つまりグーグルは、データベースの利用者からの徴収と、それを見込んだ広告主からの徴収、さらに検索サイトとしての価値をさらに高めることを狙っていると考えられます。
ここまで、和解成立によってグーグルはどのようなビジネスプランを考えているかを見てきました。この和解に対しアメリカ作家組合や出版社、そしてグーグルは、著作権者、図書館、研究者及び一般読者に多大な便益をもたらすと結論づけていますが、果たしてそうなのでしょうか。一般読者が多大な恩恵をこうむるとしても、それが出版社や著作者を巻き込んだ出版事業全体のメリットにもなるのでしょうか。デメリットがあるとした場合、それは権利者が甘受せざるを得ないものなのでしょうか。
とりわけ日本においてどうなのかを、次回以降具体的に考えていきたいと思います。
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村瀬拓男
(弁護士)
1985年東京大学工学部卒。同年、新潮社へ入社。雑誌編集者から映像関連、電子メディア関連など幅広く経験をもつ。2005年同社を退社。06年より弁護士として独立。新潮社の法務業務を担当する傍ら、著作権関連問題に詳しい弁護士として知られる。
グーグルの書籍データベース化をめぐる著作権訴訟問題は、当事国の米に留まらず日本にも波及している。本連載では、このグーグル和解の本質と、デジタル化がもたらす活字ビジネスの変容を描いていく。