「黒船」グーグルが日本に迫るデジタル開国

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【第2回】 2009年05月12日

グーグルが「和解」で膨大なコスト負担しても得たいものとは

 さらに、デジタル化されたすべての本は、「リサーチデータベース」に組み込まれ、グーグルを含めて最大3カ所のサイトに置かれることになります。大学生・研究者・政府機関関係者は、本の中身を読み理解する、という目的以外の目的でデータベースを利用することができます。

 具体的にはOCR(画像から文字情報を読み取る技術)の開発・改良、言葉の使われ方の調査や、コンピュータに日常言語を処理させるためのテキスト分析、用語法・語義・文法などを理解するための言語分析、自動翻訳技術・検索技術の開発・改良といった目的で、データベースを利用することが想定されているのです。

 利用の範囲は図書館における利用と大きな違いはありませんが、図書館での利用は、その図書館の「蔵書」の範囲で図書館内での利用に限定されるのに対して、このリサーチデータベースでの利用は全書籍を対象とし、オンラインで利用できることになります。

膨大な投資費用を回収する
グーグルの収益モデル

 前回でも書きましたが、グーグルはこの和解が成立することにより、権利者への支払いとして4500万ドル以上、グーグルの収入を権利者に分配するための版権登録機関を設立し維持するためのコストとして3450万ドル、作家側の弁護士費用として3000万ドル、出版社側の弁護士費用として1550万ドルを支出します。

 またデジタル化には費用がかかります。どのくらいの費用がかかっているのかわかりませんが、現在日本で出版社により配信されている電子書籍の制作コストは1冊1万円以下ということはありません。仮に低めに見積もって1冊あたりのコストが10ドルだとしても、700万冊以上がデジタル化されるとされていますから、7000万ドルとなります。これだけのコストを単純に合計しただけでも、約2億ドルにもなります。

 これだけの投資をグーグルはどこから回収するのでしょうか。和解案にはいくつかのビジネスモデルが明示されています。

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第2回 グーグルが「和解」で膨大なコスト負担しても得たいものとは (2009年05月12日)
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執筆者プロフィル

村瀬拓男
(弁護士)

1985年東京大学工学部卒。同年、新潮社へ入社。雑誌編集者から映像関連、電子メディア関連など幅広く経験をもつ。2005年同社を退社。06年より弁護士として独立。新潮社の法務業務を担当する傍ら、著作権関連問題に詳しい弁護士として知られる。

この連載について

グーグルの書籍データベース化をめぐる著作権訴訟問題は、当事国の米に留まらず日本にも波及している。本連載では、このグーグル和解の本質と、デジタル化がもたらす活字ビジネスの変容を描いていく。