【第5回】 2009年06月17日
和解によって設立される版権登録機構は、グーグルの立場を磐石にする
アメリカは、グーグルによる「独占」を追認した
一方でこの機関は、グーグル以外の第三者と権利の運用についての取り決めを行うことや、グーグルが和解案で明記された以外の使い方をする場合(個別書籍データのダウンロード販売やオンデマンド印刷など)に許諾を与えることもできますが、これらの利用は「権利者の明確な意思表示による委託」が必要だとされています。この「明確な意思表示」がどういうことを意味しているのか、どのような手段で意思確認をするのかはっきりしませんが、少なくとも今回のように「異議があるなら申し出なさい」という態度ではないと考えられます。
そうすると、おそらく100万近い多数の権利者の意思を確認するために、かなりのコストが発生します。和解内容を超える利用、またグーグル(そして協力する図書館)以外の事業者による利用が現実に行われる可能性は極めて低いと考えざるを得ないでしょう。もともとこの訴訟は、権利者の許諾なしにグーグルが開始したデジタル化を止めるために起こされました。訴訟の中で権利者を束ねるために行われたクラス・アクションという選択が、逆にグーグルに対して、和解の範囲内とはいえ権利者の許諾が得られた状況を与えることになったのです。版権登録機関は「グーグルを監視する」任務が与えられた「独立した」機関として設立されますが、和解の範囲内の権利しか持っていないため(監視にはそれで必要かつ十分)、他の事業者にグーグルに追いつく手助けをするものではないのです。
また、和解が対象としている「本」は2009年1月5日までに発行されたものとされています。それ以降に出版された本については、版権登録機関は何の権限も持ちません。グーグルは既に各国で行っている「グーグル・パートナー・プログラム」の中で、出版社と個別に交渉し、「本」のデジタル化を進めていく方向のようです。
デジタル化された「本」は、今回の和解によってグーグルが権利を持つことになる書籍データベースに組み込まれ、一つのデータベースとして運用されていくことが想定されます。グーグルにとっても個別に権利交渉を行うことはかなりの負担となると考えられますが、700万冊に及ぶデータベースと一体化して運用されるというメリットは、他の電子書籍プロジェクトにはありません。この点で、グーグルは新しい本の権利取得についても、かなりのアドバンテージを有していると言えます。グーグルによる事実上の独占状態は揺るぎのないものになると言わざるを得ないでしょう。
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村瀬拓男
(弁護士)
1985年東京大学工学部卒。同年、新潮社へ入社。雑誌編集者から映像関連、電子メディア関連など幅広く経験をもつ。2005年同社を退社。06年より弁護士として独立。新潮社の法務業務を担当する傍ら、著作権関連問題に詳しい弁護士として知られる。
グーグルの書籍データベース化をめぐる著作権訴訟問題は、当事国の米に留まらず日本にも波及している。本連載では、このグーグル和解の本質と、デジタル化がもたらす活字ビジネスの変容を描いていく。