【第3回】 2009年05月26日
和解によって、出版社と著者はどのような権利を得るか
この場合、出版社は一般ユーザーによる閲覧料金を決定することができます。市場での競合を考慮してということでしょう。さらに、グーグルによる「表示使用」、具体的には「組織による購読」「消費者購読」「広告使用」からの収益の分配を受けることができます。これはグーグルから版権登録機関を経由して支払われますが、受領者は出版社であるとされています。出版社と著者の収益配分はその両者間の契約に委ねられているということでしょう。日本においては、このような利益分配の取り決めが出版契約の中で規定されていることはまずないでしょうから、実際にこの和解による運用が行われた場合、実務上の大きな問題が出てくるでしょう。
なお、「表示使用」とされているものを「非表示使用」とすることはいつでも要求することができます。「非表示使用」とされた場合は「組織による購読」「消費者購読」として使われることはなくなります(「組織による購読」の場合、一旦収益の分配を受けてしまうと「表示使用」を停止させることはできなくなります。このあたりの分配のルールは複雑でかつモデルとしておもしろい部分がありますので、これも回を改めて説明します)。
しかし「広告使用」を停止することはできません。「広告使用」もさせたくない場合は、データベースからの除去を請求するしかありません。データベースからの除去を請求すると、「図書館による使用」「リサーチデータベースでの使用」も行われません。
「著者」から見た
権利者の利益の保護
著者は著作権を有していますから、その保護期間(日本ならば著者の死後50年)中は常に権利者として扱われます。「本」が「絶版」になっているかどうかを問いません。そのためグーグルによる使用からは、常に収益の分配を受けることができます。「表示使用」の停止や開始を請求することもできますし、グーグルや図書館などでの使用は一切嫌だという場合はデータベースからの除去も請求することができます。
このように「著者」も「出版社」も、グーグルなどによる利用に対して、使う範囲を限定すること、データベースからの除去を請求すること、収益の分配を受けることができますが、1冊の「本」について「著者」と「出版社」の意見が異なった場合はどうなるのでしょうか。その場合は、より限定的な指示が優先するとされています。例えば著者が「表示使用」したいと請求しても、出版社が「非表示使用」に限定すると請求した場合は、「非表示使用」のみが行われるということになります。
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村瀬拓男
(弁護士)
1985年東京大学工学部卒。同年、新潮社へ入社。雑誌編集者から映像関連、電子メディア関連など幅広く経験をもつ。2005年同社を退社。06年より弁護士として独立。新潮社の法務業務を担当する傍ら、著作権関連問題に詳しい弁護士として知られる。
グーグルの書籍データベース化をめぐる著作権訴訟問題は、当事国の米に留まらず日本にも波及している。本連載では、このグーグル和解の本質と、デジタル化がもたらす活字ビジネスの変容を描いていく。