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インタビュー
 
 
 

経営はエモーショナル。テクニカルな方法だけでは解決できない

――マネージャー層は「上司の背中を見て育て」という世代ですから、自分が上司になり、「さて、部下の人材育成をどうするか?」といった課題に直面した時、頭の中で体系化できている人というのは滅多にいないのではないでしょうか。そうなると、マネージャー自身の大きな意識改革が必要不可欠ですし、結局、人材育成は属人的にならざるを得ないのではないでしょうか。

寺崎氏:  実際、成果主義を導入した企業でよくある失敗例が、どんなにきちんとした細かい評価基準を設けて、それを給料に反映させるしくみを作ったとしても、それを評価するマネージャー自身に問題があり、部下もマネージャーに信頼を寄せていないためにトラブルが発生してしまうというケースです。

寺崎文勝氏
寺崎文勝氏

 ですから、今こそマネージャーご自身も「自分は何のために働いているのか」ということを真剣に考え直してみる必要があるかも知れません。最近は、マネージャーコースとスペシャリストコースに分けている企業も多いので、マネジメントよりも自分の仕事を突き詰めたいというのであれば、スペシャリストコースへの異動希望を出した方がよいかも知れません。

 要するに、今日の話の最大のポイントは、「経営は、テクニカルな方法だけでは解決できない」ということです。「自分が属する企業や職場、従業員、仕事に愛情を持って下さい」という極めてエモーショナルな話です。しかしながら、経営者にとってエモーションは、最も重要で必要不可欠な要素であり、それは間違いなく従業員に伝播します。日産自動車のカルロス・ゴーン氏など、極めてエモーショナルな人物だと思いませんか?

――今、一流の企業を見渡してみると、経営者が一種の教祖になっていますよね。ホンダなら本田宗一郎教、GEならジャック・ウェルチ教といった具合です。まさに経営者に惚れ込み、自らがそのDNAを継承していこうという従業員のいる企業が強くなっているように思われます。やはり、経営者がその企業を決定付けると言っても過言ではないということでしょうか。

寺崎氏:  そうだと思いますね。失われた10年の間に日本企業の中で進んだことは、テクニカルな経営論やマネジメントシステムです。それが逆に、バランスを崩してしまっているようにも思います。私は、「企業経営というのは、サイエンスでありアートである」と思っていますが、現在、サイエンスの比重の方が大きくなってしまっていて、アートの部分が忘れられてしまっているのではないかと感じています。どちらの比重が大きくてもダメで、とどのつまりはバランスなのです。そういったバランス感覚の鋭い人が名経営者になれるのではないでしょうか。経営者の場合、適性や生まれ持った資質によるところが大きいと思います。

 大企業のサラリーマン経営者の場合、成果主義やお金で報いるということの効果を過信している方が多いように思われます。自分たちは、実力主義の下、努力によって出世してきた人たちなので、「成果主義の何がいけないの?」という感覚です。

 「頑張った人が報われるしくみのどこが悪いのか」と言われれば、確かに反論のしようがありません。しかしながら、2:6:2で言えば、現場は6と下の2で回っていたりするわけです。自分の価値観に基づいて出世や報酬だけで全ての従業員をモチベートしようとしても、無理だということです。結局、成果主義って、勝ち組の優秀な従業員が儲かるシステムですから。

 実際、サラリーマン経営者の場合、実績を上げ、出世するためには、テクニカルに走ったり、エモーショナルな部分を磨耗させざるを得なかった可能性は高いと思います。逆にオーナー経営者はそれを磨耗させる必要がありませんからね。むしろ、いわゆる出世街道だけでない、色々な経験を味わってきた経営者の方が、サラリーマンの悲哀などエモーショナルな部分を理解していたりするんですよ。長年、日本企業で「敗者復活が必要」と言われていたのは、そういうことなのではないでしょうか。結局、敗者復活がないということは、人の痛みや挫折を知らないまま、成功体験を着実に積み重ねてきた人のみが経営者になれるということですから。

――「敗者復活」であれば、システムとして企業の中に組み込めるのではないでしょうか。

寺崎氏:  そうですね。チャンスをフェアに与えるとか、1度や2度失敗したからといって、キャリアに影響を与えないようにするといったことは大切です。失敗が多ければ多いほど、実はその従業員は他の従業員よりもより困難なことに積極的にチャレンジをしている可能性があるということですからね。

 しかしながら、成果主義を導入している企業の場合、システムとして導入するのは、結構大変でしょう。敗者復活と成果主義は相反するものだからです。あえて言えば、敗者復活は年功序列の組織にこそ、導入可能なシステムなのです。「前向きにチャレンジした結果の失敗であれば、それはそれで構わない、キャリアパスには影響しない」というのも有りなのが年功序列です。例えば、中小企業などでは、『失敗表彰制度』なるものをやっているところがあります。「失敗は成功の母」ということで、「あなたの行った失敗はこういう点で意義がある。よくぞ失敗してくれました」と言って前向きなチャレンジに対しては敬意を払い、表彰するのです。

 だからと言って、成果主義を全面的に否定しているわけではありません。成果をきちんと評価できるしくみが整っていなければ、逆に優秀な社員がモチベートされなくなってしまうからです。そのため、成果主義の良い面は残しつつ、2:6:2のうちの6と下の2の従業員がモチベートされるしくみもきちんと用意しておいてあげることが必要だいうことです。

 今は、成果主義の下、新入社員にも即戦力を求める企業が多いですが、「彼らに即戦力を求めてどうする?」と思います。そうなると、失敗はできませんから、確実に成功することしかチャレンジしなくなってしまいます。若いうちの成功も失敗もどちらも大したものではないのです。

――どうもありがとうございました。




 
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